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海外マーケットへの取り組みには投資が必要

■ はじめに

かつては、グローバル企業とは、大企業のことを意味した。
しかし、今や年商10億円以下でもグローバル企業はいくらでも存在している。
日本の企業にとって、海外市場への取組みは特に珍しいものではなく、
むしろ、多くの企業にとって不可欠となっているといえる。

大企業にしても、かつてのように、海外に拠点を持っているというだけではビジネスが成り立たなくなっており、
海外の拠点をどのように活用していくか、海外市場に対してどのように対応していくかを真剣に考えなければ、
競争に勝ち残れないようになってきている。

現状、海外の取組み方には、以下のような業種毎の傾向を見て取ることができる。
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我が国が輸出競争力をもつ生産財の分野だけでなく、
軽工業・小売・飲食といった、最初から国内マーケットを前提としていた業種に関しても、
海外のマーケットを視野に入れた取り組みを始めた企業が多い。

従来海外に生産機能だけを求め、あくまでマーケットとしては日本国内を対象としていた業種についても、
海外のマーケットに対して取組むようになってきている。

このように、海外をマーケットとして捉え、
そのマーケットの中で自社の売上をどうやって伸ばしていくかを真剣に考え始めているというのが、
多くの企業に共通の傾向である。

■ 海外マーケットへの取り組みは、日本よりもコストがかかる

いかなる業種であっても、海外マーケットへの取組みにあたって、
最も重要なのは、言うまでもなく「海外の顧客を獲得すること」である。

日本ではある程度の知名度があったとしても、海外市場では全くの無名である場合が多いこと、
言葉や文化の壁があり、日本と同様の営業ができないことから、
顧客を獲得するコストは、最初の段階では、日本の場合よりも高くつくことは避けらない。
日本では、ルーティンに行っている新規顧客開拓一つをとっても、
海外マーケットで考えた場合、投資という考え方が必要であることは否めない。

欧米企業の場合、市場への参入の前に、投資の金額と回収プランを明確に決めて取り組み、
初期の段階で大きな投資を行い、一定期間内で成功しなければ撤退するという手法で取り組んでいる場合が多い。

一方、多くの日系企業は、取組むと決めた場合、一歩一歩足場を固めて取組んでいき、
その取り組みの過程においても、支出を最小化しようとする傾向にある。
どちらがよいとは一概にはいえないが、海外への取組みにあたって、支出ばかりを気にしていては、
いつまでたっても安定的な収益を確保することは出来ないことは確かである。

重要なのは、支出よりも多くの収入を得ることである。
顧客獲得コストを明確にして、それを上回る収益が得られるモデルを確立しなければならない。

一般的に、顧客1社あたりの獲得コストは、客数が増えれば増えるほど下がっていく。
こういった顧客獲得のために必要な支出を、最初の段階で明確にした上で、
投資と割り切って、海外マーケットへの取り組みの段階で支出と収入のロードマップを描くことが重要である。

■ 自社人材が成功体験を得るための投資が有効

海外マーケットへの取組みにあたって、まず、何に投資をすべきだろうか?
実は、いかなる海外市場への取り組み形態でも、客数を増やすことに成功している企業には共通のポイントがある。

それは、「成功している会社には、海外顧客を開拓できる『自社の』人材がいること」である。
成功している企業の中に、下請構造で市場開拓の意欲のない企業や、
代理店の選定や現地での採用だけに力を入れてその後の市場開拓を現地に依存している企業はなく、
成功している企業は、現地の代理店や自社の現地スタッフを使っている場合にしても、
直接取組んでいる場合にしても、必ず、マーケットを切り開くことができる自社の人材がいる。

こういった人材が、語学や海外の取引実務についてよく知っているかと言えば、決してそうではない。
語学ができなくても、今では、世界各国に通訳がいるし、
貿易や輸出法規制といった実務に関しても、ビジネスを通じて身につけていくものであり、
マーケットを切り開くことができる人材は、銀行、物流会社など、様々な関係者に教えてもらいながら、
結果として知識を身につけていっている。

つまり、最初は知識などなくてもビジネスさえあれば後からついてくるものなのである。

それでは、海外マーケットを切り開くための人材に必要な要件とは何か?

それは、海外のそれぞれのニーズを的確に把握し、
各国市場で求められている商品・サービスを的確に提案する提案営業を行う能力を保有していることである。
提案営業を行う能力をどのようにしたら身につけることができるか、それには、成功体験しかないと筆者は考えている。
つまり、国内と同じである。

海外市場への取組みを新規で開始する場合、または既存の海外への取組みを強化する場合、
海外ビジネスができる人材を、即戦力として中途採用しようとする企業が多いが、筆者は反対である。

はじめからスキルを持った人材を中途で採用し、自社の文化を当該人材に根付かせることは、
自社の人材に必要なスキルを身につけさせることよりも難しく、時間がかかる。
中途採用の人材が、たとえ他社に所属しているときに華々しい実績を築いてきたとしても、
それが、そのまま自社のビジネスに生かせるかどうかは未知数である。

それよりも、自社の国内ビジネスで成功体験を持っている、国内で提案営業のできる人材を、
海外市場でも取組めるように育てた方が、はるかに早い。
中途採用の人材に、自社の理念・文化を根付かせ、かつ自社の商品やサービスの知識を徹底的に根付かせるためには、1年や2年では無理である。

しかし、国内で成功体験をもった自社の人材が、海外でビジネスができるようになるためには、
ビジネスモデルさえしっかりしていれば、3ヵ月もあれば十分である。

このように、筆者は、海外マーケットへの取り組みの開始または強化にあたって、
自社の人材の育成と、その人材が海外で国内同様に活動できるようにするための基盤としてのビジネスモデルの構築のために、
最初の投資は向けられるべきであると考えている。

■ まずは業種とエリアの特性を把握することからはじめる

第2項で、海外ビジネスへの取り組みのためには投資が必要であること、
第3項で、その投資は国内で成功体験をもった国内の人材を、海外でもビジネスができる人材を育成することと、
その人材の活躍の基盤となるビジネスモデルを構築するために向けられるべきであることを述べた。
最後に、そのビジネスモデルについて言及したい。

第1項でみたように、海外市場への取組み方の傾向は、業種によって様々であり、
当然、自社の人材が海外市場を切り開くためのビジネスモデルについても、業種によって異なる。

例えば、ケミカルの場合、末端となるマーケットは幅広く、特に基礎化学品に近くなればなるほど多様な用途で使用されている。
また、ケミカルの場合は、カタログに掲載している製品をそのまま販売するよりは、大手企業のR&Dと共同開発してビジネスを作り上げていくことが多い。

また、各社技術開発テーマを閉ざしているために、閉鎖的な環境の中で、取組みが行われる。
そういった意味では、顧客のアプリケーションや研究開発ニーズに対する知識と、
自社技術やケミカルに対する専門知識を幅広く保有している人材は、国内であろうと海外であろうと、関係なく通用する。

したがって、ケミカルの場合は、海外の研究開発テーマの把握が、ビジネルモデルの重要な主眼となる。

一方、工作機械の場合は、金属を削るというアプリケーションが最初から明確になっている一方で、
同様の目的を達成できる工作機械は世界中に存在している。
ケミカルとは対照的に、オープンな環境の中での取組みである。

オープンであるからこそ、海外市場への取り組みにあたっては、
他社の機械よりも自社の機械の方が顧客のニーズを満たすことができることを顧客に対してPRできる提案力が必要となる。

したがって、工作機械の場合は、日本とはニーズも要求レベルも異なる海外という市場で、
自社の提案の土台を築くことがビジネスモデルの主眼となる。

また、業種だけでなく、エリアによっても取組み方は異なる。
当然、欧米とアジアではマーケットの性質も求められる製品も全く異なる。
全世界を見た場合は、依然としてR&Dの中心は日英独仏米のR&D拠点である。

最近の傾向として、インドや中国の現地資本のR&Dが日欧米のメジャー企業に匹敵するような研究開発を行うようになってきているものの、
まだ限られている。
アジアのR&Dはあくまで、アジア市場をターゲットとした場合のよりアプリケーションに近い研究開発のための拠点が中心となっている。

逆に、日本の製品で取り組む限りにおいては、アジアのR&Dの方が、欧米のR&Dよりもはるかに取り組みやすく、
また採用のスピードも速いとも言える。

さらに、欧米と一言で言っても、別々の国が集まっている欧州と単一国家の米国では、大きく性質が異なる。
日系資本に対して取組むならば別であるが、現地資本に対して取組むならば、
欧州企業に対して取組むよりも、米国企業に対して取組む方が、日本企業にとっては取組みやすいのは確かである。

■ 終わりに

本シリーズでは、次回以降、業種毎、エリア毎のビジネスモデルをご紹介していく。
様々な先行企業の成功体験を、読者の皆様に共有していただき、読者の皆様がノウハウとして認識していただくことができれば幸いである。