「ミリオンセラーが、10年に1冊出れば上出来だよね。」
と言われている出版業界で、毎年のようにミリオンセラーを出しているのが幻冬舎である。
すでにご存知の方も多いと思うが、その幻冬舎を率いているのは、
かつて角川書店でカリスマ編集者として活躍した見城社長だ。
見城社長は、まだ若手だった頃、
「角川書店にまだ本を書いてくれていない一流の作家を口説き落としてこそ、自分の存在価値は上がる」と常に考えていたらしい。
いくつかエピソードを紹介しよう。
作品にも心酔していた石原慎太郎に会えるとなったとき、当時44歳になる石原氏に44本の薔薇の花束を送ると同時に、
著書である「太陽の季節・若い獣」の暗唱を始めた。
会う前に例え全文でも暗唱できるように準備をしてた訳だ。
当然、「もういいよ、君と仕事しよう。」という話になった。
松任谷由美や尾崎豊といったミュージシャンの本も手がけているのだが、
関係をつくるにあたっては、彼らの出しているアルバム等の作品を全部聴くのはもちろん、
日本全国で行なわれるコンサートを“追っかけ”したりしながら、会えた時に感想を言えるように準備を怠らなかった。
また、手書きの手紙も、見城社長にとっては「なかなか会えない人にコンタクトをとる」有効な武器のようで、
手元に残している手紙のコピーは相当な数になる。
以前、角川書店に書いてくれない作家の五木寛之に25通もの手紙を送ったそうだ。
その際には、五木氏の発表されている全ての作品(エッセイ、対談、長編小説、短編小説、等々)に目を通し、
必ず5日以内に感想を送った。ついに17通目で返事がきて、25通目で会うことができたらしい。
ここ数年、業種業界に関わらず、営業強化をテーマにしたコンサルティングの依頼が増えてきているが、
共通するのは「新規開拓が難しい」という課題だ。
多くの場合、営業マンはすでに取引実績のある既存客を担当しており、
「既存客の取引を守る」、「既存客との取引を拡大する」ことも重要な仕事だ。
稼働できる時間は限られており、既存客関連の業務に多くの時間を割いてしまう気持ちも理解できないこともないが、
そのスタンスで仕事をしている限り、売上を上げることは困難であることも事実。
それがわかっていながらも新規開拓への取組が進まないのは、
そこに工数をかけてもなかなか実らないことを営業マンが経験してしまっているからだ。
一方で、問題の本質に切り込まずに、「インセンティブの仕組みを見直そう」や
「コンサルティング営業のスキルを習得しよう」などといった的外れな方策を実施している会社も多い。
見城社長の事例を紹介したのは、「現在の営業マンに求められること」を若い頃から現在に至るまで、
一貫してやり続けることで成功されているからだ。
「書いてくれてない作家を口説く」というのは、「新規客を獲得する」ということだ。
つまり、見城社長流に言うと、「取引の無い新規客を獲得してこそ、営業マンの存在価値が上がる」ということになる。
新規客を獲得するには、“信頼関係構築”に大きな労力をかけなければならず、
その為には、とことん相手に関わっていくという“覚悟”と、「まさかココまで…」と思われるようなことをやってのける“勇気”が必要だ。
成果を上げられない営業マンの多くは、「何となく訪問して、何となく名刺交換して、何となく会社紹介して、何となく商品説明して」、
最終的には「新規開拓は難しいし、効率が悪い」と活動すらしなくなる。
そろそろ、この問いかけが間違っていることに気づこう。
「自分が顧客だったら、どんな商品を買いたいか!」
「自分が顧客だったら、どんな会社と付き合いたいか!」
これは開拓できない理由を、商品や会社のせいにできるだけの話だ。
もっとも考えるべき問いかけは、これに尽きる。
「自分が顧客だったら、どんな奴と付き合いたいか!」