震災から半年経った昨年の9月、「人気のタワーマンションも二極化が進む」と書いた。
拙稿は、掲載されると多くの読者の方にご覧頂いたようだ。感謝するとともにタワーマンションに対する関心の高さがうかがえた。
あれから9ヵ月、震災からは1年3ヶ月が経った。再びタワーマンション、特に湾岸エリアの物件について、買い時なのかを考えてみたい。
■ 意外にも販売好調な湾岸タワーマンション
2000年以降震災前まで、横浜なども含む東京湾岸エリアでは次々と高層マンションが建設され、かなりの人気を博してきた。
もちろん超人気で即日完売といった物件もあれば、
値段設定や間取りなどがイマイチで、売れ残りが出て販売に苦戦するといった物件もあったが、概ね人気があった。
ところが東日本大震災が発生し、津波だけでなく液状化問題、交通網寸断によって孤立化するなどのイメージから、
湾岸エリアのタワーマンションは敬遠されると、業界内外でささやかれた。
そのため、ディベロッパー各社は、販売時期をずらして顧客の動向を見たり、販売予定価格を下げたりするなど、苦慮していたようだ。
その頃に書いたのが冒頭の連載記事で、筆者は、「湾岸ではないタワーマンションの人気は衰えるとは思えない。湾岸エリアでも、駅近くなど利便性のよい物件は震災の影響はないと思う」と、多くの業界関係者が予想していたものとは反対の予想をした。
さて震災後、実際にタワーマンションの人気はどうだっただろうか。
2011年が終わりを迎える頃から、次第に販売時期をずらして様子を見ていた物件の新規販売が再開された。
蓋を開けてみると、駅近くの物件やブランドイメージの高い物件を中心に、落ち込むどころか販売はおおむね好調のようだ。
今回の連載最後にある動画で紹介する「The Wangan Tower」 は、震災の少し前から販売している物件で、まさに駅近物件(りんかい線東雲駅徒歩3分)であり、販売好調の物件だ。
■ きらびやかではない湾岸タワーマンションの出現
これまでの湾岸マンションというと、住空間からの景色はもちろん、
豪華な設備(エントランス、展望フロアー、スポーツジム、来客用部屋……)、共用スペースの充実などを高らかにアピールして、
一昔前の表現で恐縮だが“ミーハー”なイメージがあった。
豪華な施設があると、売り主としては売りやすいようで、
とくに奥様に「お友達をお招きして、夜景を見ながらホームパーティーを……」と決め台詞に使えると、
かつて販売していた営業担当者は打ち明けてくれた。
そして、販売価格は低層階こそ低く抑えられているものの、中層階以上は一般サラリーマンでは手が出にくいかなりの金額となる。
最上階では数億円という設定もザラだ。想定世帯年収は800万円~数千万円というところであろうか。
■ こんな豪華な設備必要か? 住民に聞いた「いらない施設ベスト5」
しかし、共用部の豪華な施設を実際に住民は使っているのかというと、そうでもないらしい。
実際にタワーマンションに住む筆者の知り合いに聞くと「まぁ、たまに使うくらいかな。だいたいいつも同じ人が活用している」と答えてくれた。
湾岸エリアだけに限らないがタワーマンションにありがちな、豪華な施設や人的サービスのなかで、住んでみると実際はあまり必要ないと思えるものを挙げると、以下のようなものだろう。
[1] 展望ラウンジフロアー
低層階の人はいいかもしれないが、花火の時だけ満員になる以外、あまり誰も使っていない。バー施設があるところもあるが、人件費とか高そうだ…。
[2] スポーツジム
マンション内にあるのは便利だが、一般的なスポーツジムに比べて、だいぶ物足りない。近所の人に会うのは、意外と恥ずかしいものだ。
[3] あまりに豪華なエントランス
門構えなので立派なほうがいいと思うが、滝が流れていたり…はちょっとお金かけすぎではないか。
[4] コンシュエルジュサービス
めったに使わないという声が多い。
[5] 来客用の宿泊部屋
これも、使ったことがあまりないという人も多い。
いずれも、知人が来た時に見せるには、「すごいね」と言われ、得意になれるかもしれないが、あまり使わないというのが現実らしい。
しかし、覚えておかなければならないのは、これらは共有のものとして、購入時の販売価格に含まれているということだ。
当然であるが、豪華設備がついている物件は、専用部価格を基準に考えると割高物件となる。
■ それでも人気は落ちない。大きな魅力がある湾岸物件
しかし、湾岸タワーマンションの人気は落ちない。なぜ、湾岸物件は人々を魅了し、買いたいと思わせるのか。
当然のことだが、湾岸タワーマンションを嫌う人もいる。
その多くは、人工的に作られた無機質な街が嫌い、新たに開発された場所ゆえに日常的な買い物や病院が遠いなど、日々の生活の不便さを嫌いな理由に挙げる。
では、湾岸タワー物件の魅力とは何だろう。
当然、湾岸高層物件であるから、夜景がきれいに見える、海を一望できるなどの、景色は大きな魅力の一つだ。
もう一つは、やはり、何といっても都心中心部からの近さ、交通の利便性の良さだ。
電車に乗ると、だいたい10分~15分程度で丸の内・銀座・品川あたりに着く。
共働きをしている夫妻にとっては、特にこの利便性を感じるだろう。
大手町・丸の内エリアから同時間程度で着く場所の物件を考えると、マンション販売坪単価は、1.5倍から2倍はする。
価格と都心中心部からの距離を考えると、かなりの格安物件であると捉えることもできる。
■ 人気の理由はどこか。The Wangan Tower
今回、実際に訪問したのは、東雲駅から徒歩3分の場所に建つ“ザ・湾岸タワー”という31階建ての物件だ。
東雲の物件というと、キャナルコート内の物件が話題となっていたが、この物件はその向かい側にあり、キャナルコート内の物件と比べると商業施設からは離れるが、駅からは非常に近い。
施工は前田建設、売主は前田建設の系列ディベロッパー(正友地所)で、総戸数456邸の物件である。
震災の少し前から販売しており、震災直後は苦戦したものの、現在(6月8日)では残りの物件はかなり少なくなってきているようだ。
この物件、他の湾岸タワーマンションに比べ、格安だ。平米単価も押さえてある。
最上階の数物件は1億円を少し超える程度だが、7000万・8000万円台の物件もある。
ワンルームで40平米の部屋もあり、価格は2000万台。
一番販売数が多いのは3000万円から5000万円台で、57~70平方メートルの物件だ。これは年収500万円台の若手の会社員でも十分、購入できる。
また、注目したいのは、先述した管理費についてだ。平米あたり150円と安価なのだ。
実際に、物件全体の図面を見ると、共有施設の少なさに気がつく。
エントランスは吹き抜けがありやや豪華であるが、他の湾岸マンションほど派手ではない。
専用ラウンジが1住戸分のスペースで、一般的なタワーマンションのラウンジと比べるとかなり狭い。
ゲストルームも小さなものが2部屋だけだ。全般的に派手で豪華な設備はほとんどない。
かなり効率的に住居スペースをとっている物件だ。このあたりが物件価格の安さの秘密かもしれない。
無駄なものは作らず、その分できるだけ多くの住空間を確保し、湾岸タワーの中でも低価格物件を多く作った――。The Wangan Towerには、そんな工夫の跡が見える。
それほど贅沢な施設はいらない、しかし利便性は欲しい、そして安ければうれしい。
こうした、合理的な方に相応しい物件だと感じた。
こうした要素を持ち合わせた物件は、これからの湾岸タワー物件の主流になるかもしれない。
(この記事は2012/06/18に初掲載されたものです。)
(出典:ダイヤモンド・オンライン)