書店に行くとアパート経営に関する本が広いスペースをとって並べられている。出版社の方に伺うと、これが結構売れているらしい。“アパート経営云々”というタイトルが多いのだが、賃貸マンションや戸建住宅、ハウスメーカーなどが建てる2階建てアパートなどを自ら所有し、それを賃貸貸しするビジネスが取り上げられている。
マンションの清掃業務をしていたおばさんが、自ら中古マンションを購入、それを自分で管理し、大きな収益を得ているという話もテレビ番組で放映されていた。このように賃貸住宅経営は、比較的そのビジネスを始めるハードルが低いと言える。
大手ハウスメーカーは、どこも『資産活用事業部門』と称した部門で、新築アパート建築後の経営をサポートするという商品を発売している。遊休土地の有効活用を訴えた商品は都市部だけでなく、地方都市の郊外においても展開されている。
また、アパート専業といわれている大東建託やレオパレス、東建コーポレーションといった企業(業務内容は先に述べたハウスメーカーと同様)は長年、安定成長をし続けている。
このように、(市場規模はその範囲を限定することが難しいためその具体的な数字は把握できないが)建築市場の中でも、賃貸住宅経営は一定のパイを占めていることは確かだ。専業大手については、04年→08年の4年間で約1.5~2倍の売上となっている(アパート以外の業務も含めた総合的な売上高)。
■ 安定した成長もここまで? アパート建築件数が伸び悩む理由
しかし、いくつかのハウスメーカー系の方々にヒアリングすると、アパートの建築件数は年々伸び悩んでいるという。その理由として考えられるのは以下の2つである。
1)土地の有効活用という切り口が飽きられている
2)土地オーナー開拓をやりつくした感がある
こうした、既存のビジネスモデルに限界が来ている、といっていいだろう。
また伸び悩んでいるのは、新たな顧客のニーズをうまく捉えられていないからとも言える。投資として新規アパートを建てる場合、その投資リターンが表面利回りに比べて、修繕費や空室リスク、想定家賃下落リスクなどを鑑みて計算した利回りが大幅に低く想定しなければならず、こうしたことが投資に待ったをかけているのである。
この手の企業(ハウスメーカー系・専業系とも)は、テレビCMでもおなじみのように、一括借り上げ方式を採用しているところが多い。オーナーから、建築したメーカー(たいていはその子会社)が一旦借り上げ、それをエンドユーザーに貸すのである。
そして簡素化して述べると、あらかじめ決めていた総家賃(数ヵ年ごとに見直す)の10%程度(これも最初に決める)をひいた金額をオーナーは受け取る。こうした、方式はオーナーにとってその利回りが約束されることとなり、空室リスクがなくなる、ということで好評を得ていた。
しかし、この方式にほころびが出始めている。空室率の拡大と家賃の下落により、メーカーにとって逆ザヤが出始めているのである。これは以前から問題の芽は出ていたのであるが、その数が増加し、各社ともこの方式を維持することに窮しているのだ。
こうしたなかで、ローコストアパートを発売するなど、より利回りの良い商品の提供を開始したハウスメーカーも現れ始めている。これは、一般戸建住宅においてローコストを売りにしている企業ではなく、大手ハウスメーカーの商品である。このようにハウスメーカーのアパート建築事業は転換期を迎えているようだ。
■ 投資商品としての顧客ニーズを汲みとった企業だけが勝ち残る!
冒頭に述べた、中古物件を購入してのアパート経営は、物件価格が大幅下落する一方で、賃貸価格についてはそれほど値崩れしていないというギャップから収益状況は良さそうである。
またアパート経営は、“経営”という言葉どおり経営する楽しみもあり、また“経費で落とす”ことが認められることから節税効果もあって、サラリーマンにとても魅力的なのだ。だから多くの人が“アパート大家さん”になっている。
さて、今後の新築系アパート建築であるが、ハウスメーカー系・専業系とも苦戦が予想される。土地の有効活用、遊休資産の活用といった視点のみでは大きな成長はないだろう。しかし一方で、投資商品としての注目度は高まっている状況だ。こうしたニーズを汲み取り、それに適した商品(建物・経営手法)を提供すべきだろう。
あるハウスメーカーでは、すでにそうした商品開発が進んでいる。ただ単に建物価格を下げ初期投資を抑えるという類のものではなく、投資商品としてこれまでより魅力的な利回りを目指そうとするものだ。こうした商品をいち早く市場に提供した企業に限っては今後成長が見込めるだろう。
では数年後はどうなるだろうか。私は、大手ハウスメーカーの中でも徐々に部門縮小する企業が現れる一方、大きくシェアを伸ばす企業が現れると予測している。
(この記事は2010/04/16に初掲載されたものです。)