(クイックウィンズ株式会社 代表取締役 COO/CFO 戸井 雄一朗)
CSRマネージメント体制構築を任された貴方。しかし各部門から協力がなかなか得られません。「今更CSR専門組織を立ち上げなくても、日頃から取り組んでいることばかりじゃないか。」との声。
■ CSR推進のステップ
企業がステークホルダーを重視したCSRを推進していくにはどのようなステップを踏むべきでしょうか。そのアプローチは大まかに言うと以下の2つがあると思います。
(1)個別の推進テーマ対応を積み上げる、個別対応型アプローチ
(2)長期的/全社的CSR推進計画を打ち出すトップダウン的アプローチ
(1)はどちらかというと規模が小さく経営者とステークホルダーが近い関係にあり、個々の活動や事業の社会貢献度がステークホルダーに見えやすい状況にマッチしやすいアプローチです。
(2)は大企業にニーズが高いアプローチで、既存の個々の取り組みをより全社横断的な仕組みとして構築し、内外のステークホルダーに積極的にリーチしていく場合に必要なアプローチです。
今回は大企業が全社的な推進体制を構築する際に起こりがちな事象について書いてみたいと思います。上記の(2)のアプローチ概要を図示すると以下のようになります。
最初に全社的推進体制の構築をするわけですが、この段階で早速困難に直面します。どんなPJも立上時は苦労しますよね。環境/品質対策/顧客への対応等、具体的にCSRとして取り組むべきトピックも活動も何となく見えているのになかなか全社的な活動として社内外から受入れられずにフェードアウトする、といったことが多くあるのではないでしょうか。
体制構築時に必要なのは「新しく何かをやること」よりも、「今あるものをどうするか?」です。CSR推進組織を一から作るのであれば、その役割分担も含めて非常に綺麗な切り分けの出来る組織構築が可能かもしれません。
モデル組織は下図のイメージでしょうか。
あくまで一例ですが、CSR推進室はCSR委員会を通じて、各CSRトピックの主幹部門の決定やその活動のモニタリングを含めたマネージメントを行います。特に環境、コーポレートガバナンス、リスク、コンプライアンスといった共通トピックを部門横断的に対応するコーディネーションを実施します。
■ 全社的体制構築には障害がある
しかし、実際の体制構築においては簡単にCSR推進室が全体を調整するような形に持っていくのは非常に困難です。それは各部門/ラインで既に行っている取組が存在し、それをCSRという軸でのマネージメントサイクルに乗せることがなかなか出来ないからです。
ある企業で私が経験したプロジェクトでも同様の問題がありました。その時はCSRでは無く、リスクマネージメント(RM)部門を立ち上げるプロジェクトでしたが、構築すべき仕組みは同様のものです。そのRMではオペレーショナルリスクから、ファイナンシャルリスク、マネージメントリスク、コンプライアンスリスクまで広義の意味でのRMを構築することを目指していましたが、個々のリスクは個別の部門が既に対応をしており、「何で今更……」といった部門からの抵抗が強く噴出したのです。
製造部門では品質管理の専任が、財務リスクは財務部、情報管理リスクは情報システム、労務関連リスクは人事で、日常の業務の中で淡々と管理されています。担当の人達は決してサボっているわけではありません。むしろその会社は会社への忠誠心が高く、優秀で真面目な社員が多い会社です。
こうした中でRMの組織を立上げ、各部門に責任の再定義とレポーティングの義務付けをする正当性があるかという点が強く問われたのです。
正当性はもちろんあります。キーワードは「整合性」と「網羅性」でしょうか。各部門が違うトップの管轄(CEO、CFO、CIO)に属しており、整合性が取れてい無い、共通トピックを個別部門のみが対応しており、全社的に認知されていない(先の企業の例では法務と総務でコンプライアンスに関する対応項目にダブりがあったり、漏れがあったりしていました)等です。
しかし、RMにせよCSRにせよ、こうしたマネージメント体制を構築する最大かつ絶対的優位性は、「ステークホルダーへの可視化」だと私は思っています。社員の方々が日常の業務で一生懸命やっていることを社内外のステークホルダーは認識し評価していますか? ステークホルダー満足度向上に繋がっていますか? ということです。冒頭でも触れましたが、大企業になればなるほど、個別対応アプローチではステークホルダーに届きません。
「環境マネジメント経営」「RM経営」「CSR経営」等、企業価値向上の切り口が変遷していきますが、その考え方の根本にあるのは「日常の部門/ラインレベルの取組を全社レベルの取組に昇華させ、ステークホルダーにリーチさせる」ことだと思います。このことを社員全員の方が理解していただければ、マネージメント組織の立上はよりスムーズにいくはずです。
(この記事は2008年11月21日に初掲載されたものです。)