■ 金メダルを獲ったものが強い
今年の夏に開催された北京五輪で、「強い者が金メダルを獲るのではない。金メダルを獲ったものが強いのだ。」といったフレーズを新聞やTVの報道で見聞きした方も数多くいらっしゃるのではないでしょうか。特に野球や柔道といった事前期待の高い種目で、日本が敗れた際に飛び交っていたと記憶しています。
野球においては、“日本ルールと異なる世界のストライクゾーン”や“使用される公式ボールの違い”といった、選手にとっては通常と異なる環境への対応が、また柔道においても日本の“柔道”と世界の“JUDO”の捉え方、審判の仕方への対応が、課題として上げられていました。
要するに、金メダルを獲った選手は環境変化に柔軟に対応できた=強いのであり、いくら強いと評されていても敗れた=環境変化に対応できなかったという見方も(他にも様々な見方はありますが)できるというのが、「金メダルを獲ったものが強い」という言葉に表れていたのだと思います。
■ 変化の見極め?
このようなケースを整理しながら痛切に感じることは、上げられている環境変化を適切に認識できていたのかどうか、ということです。
というのも、スポーツの世界では、第一に“持てる力を存分に発揮する”ことが重視されます。それはそれで非常に大切だと思いますが、それと同レベルに国際大会における環境変化への対応は(勝つという目標の下においては)重要なのではないでしょうか。それにしては、「変化の詳細の見極め」が甘いような気がしています。
これらは企業経営においても重要な示唆を与えてくれます。例えば、「消費の二極化」という現象は数年前から顕在化しているもので、これも大きな環境変化の内のひとつだと言えるでしょう。消費者の低価格志向が進むなかで、高額でも価値の認められるものは売れるという両極の現象を指したものですが、では、この「消費の二極化」という環境変化の「詳細の見極め」をどれ位の企業が出来ていたのでしょうか。
■ 世帯当たり所得分析より
実際のデータに基づいて考えてみましょう。
まず厚生労働省が出している「国民生活基礎調査」を見ると、1世帯当たり平均所得金額は、平成7年度が659万6千円だったのに対して、平成17年度は563万8千円と約100万円も下がっていることがわかります。
予測は出来たとしても、数字で確認すると驚きがあるのではないでしょうか。ただし、これだけでは「二極化」の説明にはならないので、1億総中流階層と言われていた80年代、バブルの崩壊した90年代、そして2000年代、という流れで所得階層を分けて構成比を比較したところ「二極化」のなかみが見えてきました。
各階層にはそれぞれの状況をある程度表せる名前をつけていますが、ここで注目すべきなのは80年代に85%を占めていた中流層(世帯所得400~800万円)は、2000年以降35%まで減少しているということです。
日本の小売業の象徴として上げられるイトーヨーカドーやジャスコといったGMS業態は、85%の層があるからこそ急速にその存在感を高めてこられたのだと思いますが、現在は半分以上がその層からいなくなっている訳で、だからこそ様々な工夫が必要となってきているのです。
一方で、高額所得層(800万円以上)は3倍に、低額所得層(400万円未満)は5倍に増えていることや多階層化が、消費環境変化のベースになっています。
このような「変化の詳細の見極め」を怠り、かつての勝ち方にこだわったままの企業が、思いもかけない敗北を喫しているのではないでしょうか。
■ 先人の言葉
かつて、「種の起源」を著したイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンが残した言葉があります。企業経営にも通ずるところがあり、是非とも肝に銘じて取り組んでいただきたいと思います。
「もっとも強いものが生き残る訳ではない。もっとも賢いものが生き残る訳ではない。唯一、変化できるものが生き残る。」