「組織は戦略に従う」チャンドラーのこの著書はあまりにも有名だ。私自身も次のような視点を投げかけながらコンサルティングを進めており、そういう意味においては「組織は戦略に従う」のだと考えている。
【コンサルティングの視点】
●企業はお客さまとの約束を明確に定める必要がある
●その約束が決まれば、約束を果たすために必要な仕事が明らかになる
●その必要な仕事をもっとも効果的に実践できる組織を作らなければならない
●一方で、約束と関係ない仕事は徹底的に効率化する(あるいは止める)ことが可能になる
●よって、約束を鮮明にすることで企業は利益を上げることができる
先週開幕したV・プレミアリーグ女子。少し前にはワールドカップも行なわれていたため、注目してみていたのだが、傾向として全日本が掲げる“スピード重視”が各チームの戦略の方向性にあるようだ。全日本のエース、木村沙織の所属する東レアローズも同様で、この開幕戦でもワールドカップの序盤戦に見られた「決定率の上がらない木村沙織」に戻っている気がした。
サーブレシーブも狙われるエースが、求められるスピードに間に合わず万全の体勢でスパイクが打てない、結果決まらない。逆に、タイミング的には余裕を持って打てる二段トス(ラリー途中の高いトス)の方が余程決まっている印象すらある。身長の高い選手が揃っている世界と戦う上で、“スピード重視”の戦略は間違っていないが、それによってエースのパフォーマンスが落ちるようでは本末転倒ではないか。
つまり、個々人の能力やスキルまで把握できる現場においては、「戦略は組織に従う」イメージを持ってより緻密な作戦を考えていかなければならないのではないかと思う。「組織は戦略に従う」に対して、いやいや「戦略は組織に従う」でしょうという意味合いの議論をたまに耳にするが、これは立ち位置によって異なる話でどちらも正しいと言える。
そもそも「組織は戦略に従う」というのは、「限られた資源(人・モノ・金)をどこにどの位配分するか」という経営者的視点で考えなければならないことであり、それは全くその通りで疑う余地など無い。一方で、「戦略は組織に従う」というのは、より現場を動かす幹部の視点にたった考え方になるだろう。現場の幹部は、経営層が決定した資源で「日々をどう戦うのか」ということを考え、目の前の競合に勝たなければならないわけだ。
そう考えた場合、現場の幹部は「人が足りない」や「もっと能力のある人が欲しい」、といった不満を持ってはいけないということになる。経営者が全体最適の視点で配分した資源(この場合は人)だからだ。特に成熟市場で戦っているような事業であれば、「成熟市場=効率化」といった戦略の王道に則って、大切な部門であっても人員を削減されるようなケースもあるだろう。
そのようなケースに直面した現場幹部の考えなければならないことはただひとつ。「この与えられた資源でいかにして勝ち切るか」ということに尽きる。もちろん、現場幹部に対して、経営者自身が自社の経営戦略(なぜそういう資源配分に至ったのか)を明確に説明しなければならないのは言うまでもないことだ。
さて、バレーボールに話を戻すと、こうあるべきと考える“スピード”バレーのイメージと、個々の選手のパフォーマンスを最大化すること、このバランスの落としどころを明確に定めるのが監督の役割だ。当然、選手も日々成長するわけだから一概には決められないだろうが、ロンドン五輪最終予選のタイミングでは確実に意思決定していなければならない。