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【事例から学ぶ】価格戦略立案のコツ[マーケティング戦略・営業戦略]

今回は「新製品のマーケティング」、特に『価格戦略』の部分についてお伝えしようと思います。

まず最初に「プロダクトアウト型」と「マーケットイン型」に分けて考えてみましょう。

「プロダクトアウト型」の価格とは、原価積上げ方式と言い換えることもできます。つまり1個の製品を作るのにどれくらいの原価がかかるのか、それを販売するためにはどれくらいの経費が必要か、利益率はどのくらいが望ましいかという企業側の都合を優先した価格のことです。『需要>供給』という図式が
成り立っていた時代にはこの価格でも十分な量を販売することができました。

これとは逆に「マーケットイン型」の価格とは、“どのくらいの価格であれば消費者が購入してくれるか”という一点から決定される価格で、それに見合うように製造原価や販売経費が決められていきます。『需要<供給』という図式しか成り立たなくなってきた昨今ではよく見られる価格決定方法だと思います。しかし、顧客の声としては「安ければ安いほどよい」という回答が当たり前だと思うので、あまり「マーケットイン型」に偏重してしまうと収益悪化のリスクとなってしまいます。(最近は『コンジョイント分析』という消費者の価格感度を分析する手法もよく利用されているようですが)
ここに「マーケットイン型」のみで価格決定を行い、うまく事業を立ち上げることができなかったメーカーがあります。

彼らはコア事業での技術を転用することで、B2BからB2Cへの進出を狙いました。当然B2Cのビジネスは始めての経験であり、マーケティングの経験はまったくありません。最初の製品は「プロダクトアウト型」で決定した価格で販売しましたが、売上は思うように伸びませんでした。損益分岐を超えることもなく2年間赤字が続きます。

ここで彼らは赤字の原因を「製品」と「価格」に求めます。
製品に関してはユーザーの声を聞き、使い勝手や使用感に改良を加えました。
価格に関しては取引のある商社から販売現場での情報を集め、競合製品の価格を見ながら約3割のマークダウンを決定します。

そういったマイナーチェンジを加えた製品を再度発売しますが、結局赤字の解消には至りませんでした。

上記ケースで赤字が解消できなかったポイントは3点あると思います。

1つ目は(これはバックグラウンドでの情報ですが)「最初の製品を販売した時点でも、マイナーチェンジ後の製品を販売した時点でも、まったく損益分岐点を把握していなかったこと」です。

これはB2B、B2Cのいずれであってもマーケティング、販売活動の両方に必要な目標となりますが、ここが設定されていなかったために『早期の黒字化』という抽象的な目標にとどまり、具体的なアクションプランまでは落とし込まれていなかったという状況です。

2つ目は「赤字の原因を“製品”と“価格”に限定してしまったこと」です。

マイナーチェンジ後の製品を販売するにあたっては「販売チャネル」と「プロモーション」についてはほとんど検討されていません。検討されなかった理由は「問題がないから」ではなく「自社ではコントロールできないから」という消極的なものだったのです。

最後の3つ目は「価格弾力性についてまったく考慮されていなかったこと」です。

価格弾力性とは、“価格を下げることでどれくらい販売量が増えるか”というトレードオフの関係のことですが、マイナーチェンジでの3割のマークダウンがどれくらいの販売増につながるかはまったく検討されておらず、実際の販売数量をみると1割程度しか増えていなかったのです。売価約5万円の製品だったので、コストが変わらない場合、4割以上の販売数量の増加が見込めなければ3割ものマークダウンに踏み切るべきではありませんでした。
(精査する際には、変動費と固定費のバランスは見る必要があります)

あとづけの理屈にはなってしまいますが、最も適切なマーケティングの流れとしては、

1.損益分岐点の把握・・・何個売れば黒字になるか?
2.市場性の検討・・・黒字になるだけの個数が販売できる市場か?
3.チャネルの選定・・・最も効率的でコントロールしやすいチャネルはどこか?
4.プロモーション内容の検討・・・価格への納得性を高めるプロモーションの内容は?

というフローだったのではないかと思います。
各ステップでいくつかの枝分かれがあり、例えば損益分岐点に達するまでの販売が見込めなければ、その前段階で製造原価や販売経費の削減、設定価格の引き上げといった検討も必要になりますし、価格の引き上げに応じて高価格でも売れる市場の見定めやチャネルの選定、プロモーション内容の磨き込みというようなフィードバックサイクルも必要になります。

私たちがコンサルティングに入ったのはすでにマイナーチェンジ後の製品を上市したあとでしたが、製品の仕様や価格に手を加えることが難しいという前提のもと、チャネル戦略やプロモーション戦略で収益を向上させるという画を検討しました。ですが、やはり根本の収益構造が整理されていない状況では黒字化は難しく、結局のところ、一度今の市場から製品を引き上げて、市場を変え、必要であれば製品の仕様も見直し、設定価格までを変えて、時期を見定めながら新たな製品として市場に投入することになりました。

マイナーチェンジの時点でお手伝いさせていただいていれば、マーケティング~販売の1サイクル分のリソースがムダにならなかったのではないかと思うと、多少悔いが残るケースとなってしまいました。
(この記事は2008年6月27日に初掲載されたものです。)