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未来への一手

市場のパイを奪い合う競争で、優位に立つためには、他社よりも優れた製品を市場に投入することである。
これから生まれてくる市場で、優位に立つためには、他社よりも一歩でも早く、その市場に参入することである。

しかしながら、これから生まれてくる市場は、まだ存在していない市場であるため、もしかしたら生まれないかも知れない。生まれないかも知れない市場に参入することはリスクである。それでは、そのリスクを回避するためには何が必要だろうか?それは、これから生まれてくる市場について、しっかりとした市場データに基づき、仮説を立て、仮説に基づいて方向性を定めることである。

新興国市場で成功している企業にマンダムがある。マンダムの代表的な製品は、男性用のヘアケア製品や香水。十分豊かになった先進国では、こういった製品の市場はすでに十分に成熟しているが、まだ所得水準の低い新興国で、衣・食・住に関連しない、こういった嗜好品が受け入れられるかどうかは未知数である。ステレオタイプに考えると、一人あたりのGDPが3000ドル以下の国では、まだこういった嗜好品需要を掘り起こすことができないため、ターゲットはピラミッドの頂点である富裕層か、あるいはその下の準富裕層となり、「高級品で取り組むべし」ということになる。おそらく、コンサルタントなどに市場調査を丸投げすると、こういう結果になると思われる。

しかしながら、マンダムは、富裕層ではなく、中間層以下のボリュームゾーンで「これから生まれてくる市場」を開拓することに成功した。香水を1回使い切りの小分けにパックすることで価格を押さえた結果、男性がデートの時だけ使用できるようになり、これまで全く普及していなかった男性用化粧品市場で、自社ブランドを男性用化粧品の代名詞として普及させることに成功したのである。

マンダムの成功が、綿密な市場調査と、その市場調査に基づく仮説にしたがって取り組んだ結果であることは、言うまでもない。マンダム以外にも、新興国でパンツ型紙おむつの普及に成功したユニチャームや、インドネシアで日本ではノンコイル型が中心となった蚊取り線香市場であえてコイル型蚊取り線香を投入して成功したフマキラーなどの成功企業がある。

これらの新興国で「これから生まれてくる市場」にいち早く参入して成功した企業に共通して言えることは、「顧客にどのような新しい付加価値を提供するか」ということが明確になっていることである。マンダムの場合は、「男性がおしゃれをしたい」というニーズを細分化して、「どんな時におしゃれをしたいか」「どうやったら、そのときにおしゃれができるか」を一つ一つ検証していった結果が、「デートの時だけ使える」という付加価値につながり、その付加価値を実現するためには、1回使いきりのパッケージ商品を、単価いくらで投入すれば市場が開拓できる、という仮説につながっていったのだと考えることができる。

成熟した市場は、パイの奪い合いである。日本という成熟した市場でビジネスをしてきた企業にとって、これから様々な需要が生まれてくる新興国市場は、全く異なる市場である。そのことを見誤って、日本での取り組みを横展開して失敗する企業もあれば、偶然成功している企業もある。そして、中には、成熟してきた市場で確立したノウハウを細分化し、仮説を立て、新興国市場で新しい市場を創出している企業もある。マンダム、ユニチャーム、フマキラーは、いずれもメーカーであるが、ダイソーのような小売も、新興国で新しい市場を創出した企業の一つであるといえよう。

新興国市場への取り組みにおいて、「顧客にどのような新しい付加価値を提供するか」という未来への一手を、まず明確にすることができれば、成功への道筋は明確になる。多くの日本企業が「これから生まれてくる市場」で成功する実力を十分保有していると、私は確信している。