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地域を変える反転のシナリオ シリーズ【4】「地域社会共育が生み出す可能性」【後編】

このコラムを目にしたあなたにこんにちは!船井総合研究所パブリックイノベーションチームの伊東威(いとうたけし)です。第4回の今回は前回に引き続き、地域活性化の出口【2】「地域社会共育」の【後編】を記します。どうぞよろしくお願いします。

■青森県大鰐町の相馬康穫さんのこと
青森県弘前市に接した人口約1万人の町「大鰐(おおわに)町」。平成に入ってのリゾート開発に失敗し、観光客は半数以下に。平成21年には財政破綻寸前の自治体「財政早期健全化団体」に指定されました。そんな中、地元の温泉付地域交流センター「鰐come(ワニカム)」の過去2年間でできた5500万円の赤字を「『指定管理委託料ゼロ』で1年のうちに黒字化せよ」という条件の指定管理者募集が出され、「私たちがやる!」と、仲間とともに「プロジェクトおおわに事業協同組合」を設立して応募したのでした。そこから「リストラ(解雇)ゼロ」で黒字化を実現していくのですが・・・。

以前、見学を兼ねて相馬さんにお会いした時に、「鰐come」のとても爽やかな朝礼に参加させてもらいました。「わざとらしさ」「やらされ感」が全く無いんですね。みんな笑顔で自然体。この姿勢はお客様に対しても同様でした。きっと経営危機に瀕した施設で働いていた頃は先行き不安や職場に誇りを持てない気持ちがあったはずです。「人は仕事を通して自ら変わることができる」ということを教えられた気がしたのと同時に、相馬さんたちの粘り強い積み重ねを垣間見ました。

私が注目するのは、相馬さんたちが「故郷で生まれた人間の一生において『大鰐で生まれ、大鰐で育ち、大鰐で生きる』ためのシナリオ」を実に見事に描いていることです。地元小学生がメンバーの「OH!鰐 元気隊キッズ」は、首都圏に自ら出て行って、高い知名度の量販店バイヤーや飲食関係者の大人たちを相手に「地元農産物の販売」をするのです。決して遊びではありません。子どもたちは大鰐町の代表者として「名刺交換」や「プレゼンテーション」を行ないながら、大鰐町と地元農産物を必死に売り込むわけです。「甘やかしのない大人として地元を熱く語る体験」を通して、きっと子どもたちは地元大鰐町への誇りを芽生えさせるでしょう。

また、温泉熱と温泉水を利用して栽培する幻の伝統野菜「大鰐温泉もやし」は、350年以上の歴史があります。「栽培方法は生産者一族以外門外不出」とされ、後継者不在で消えてしまう危機に瀕していたのを、後継者育成制度によって若手の担い手を育成。見学当日、民家の中にある土畑で、黙々と汗をかいて働く若干髪の色が明るい(笑)若者を見ました。訊ねると「まだ10代」とのこと。頼もしい限りです。

さらに、もともと「りんご」くらいしか主たる地元農産物がなかったのを、地元農家と信頼関係をつくりながら、専門家の支援も得て、少しずつ品目を増やしてきました。その農産物を「鰐come」で売り、それを大勢の地元客と地域外の観光客が買う仕組みづくりをしながら、「生活を営める自立した農業」へと産業化しているのです。実際に見学した日も、平日にも関わらず多くの地元客が来館し、大鰐温泉もやしや野菜が飛ぶように売れていきました。農産物以外の館内で販売されている加工品も殆どが「地元もしくは近隣地域生まれ」という徹底ぶりでした。

他力本願ではなく「自助努力」で大鰐町を反転させてきた相馬さんたち。「学ぶ」ことと「働く」ことと「地元で生きる」ことの一気通貫を、小さくても地道にカタチにしてきた歩みに、「地域社会共育」の無限大の可能性を私は感じます。「鰐comeは黒字化しましたが実はカラクリがありまして・・・。『役員報酬ゼロ』で数年頑張ったんです」と笑顔で語ってくれた相馬さん。その後、真面目な顔で「伊東さん、鰐come再建開始当初もそうでしたが、未だに私に対して様々なことをする方も地元にはいます。毎日が戦いですよ!」と語りました。

どんなモデルになり得る地域にも「完璧」はありません。「嫉妬」「足引っ張り」があるのもまた、実に「人間らしい営み」だと、相馬さんは広い心で受け入れながら、日々を精いっぱい駆け抜けていると私は感銘します。ご紹介したい事例やご縁をいただいた方はたくさんございますが・・・。次回の第5回では、地域活性化の出口【3】「中小企業経営強化」について執筆します。

【著者プロフィール】
伊東 威(いとう たけし)
株式会社船井総合研究所 パブリックイノベーションチーム
前職で全国4万4000名、宮城県で1000名の中小企業経営者団体にて全国最年少の事務局長に就任。県内各地の中小企業経営者および社員向けのセミナー企画運営を手がけるほか、行政や学校や商工団体と中小企業政策やキャリア教育プランなどの策定・実行に取り組む。その後、株式会社 船井総合研究所の「パブリックイノベーションチーム」への配属を志願して入社。
得意分野は、産学官の強みや特色を活かした中小企業・小規模企業振興政策の策定・実行支援。「義理と人情と浪花節を科学する」が信条。