■ CRE戦略は企業価値向上の為の必要不可欠ファクター
「CRE(Corporate Real Estate)戦略」とは『企業不動産について、「企業価値向上」の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方である』(国土交通省)
つまり、不動産を単なる生産財と捉えるのではなく、重要な経営資源として捉え、企業価値向上のために最適な選択を行うこと。その為には、従来の管財的視点のみならず、全社的な「ガバナンス」や「マネジメント」を重視することが求められています。
具体的には、企業が保有する不動産を事業用、非事業用またはコア事業、ノンコア事業等の区分により分類し、それぞれの不動産の収益性や流動性、将来性、帳簿価額と時価との差額等の指標により、「現状維持」「収支改善検討」「売却検討」等を、その出口戦略を検討します。
■ 「賃貸等の不動産の時価等の開示に関する会計基準」への対応が急務
そんな中、今、上場企業を中心に、頭を悩まされているのが昨年の11月に、日本の会計ルールを決める企業会計基準委員会が公表した「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」への対応です。
2010年3月期末の決算企業から、賃貸不動産などを対象に時価を注記で開示する会計ルールが導入されます。時価開示が主流の国際会計基準との差を埋める会計のコンバージェンス(共通化)の一環といえます。
賃貸ビルや遊休不動産が対象となり、貸借対照表や損益計算書での計上額は従来通り原価ベースですが、注記で賃貸ビルの含み損益を投資家に周知させるという狙いがあるようです。あまり使われないビルを抱えていては含み損がかさむため、企業は不動産の有効活用を迫られることになります。
早速、証券会社などのレポートを読むと、不動産、倉庫、電鉄などを中心に、賃貸等不動産等の保有額が大きい企業に影響が出てくるため、含み資産が市場の注目を集めやすくなるとしています。
まさに今後益々、企業の持つ不動産が株主や投資家への関心毎の1つとして大きく取り上げられる事になります。
■ 高度化、複雑化する不動産市場において、そのリスクの透明性の確保が必要
「土地神話」に支えられた不動産市場は既に過去の産物となりました。かつて企業は、事業で得た資金の一部で不動産を購入し、当該不動産を担保に資金調達を行って事業に投資することを繰り返して、拡大してきました。また逆に、時には事業の損失を不動産の売却によって補い、経営を安定させるという役割も持たせてきました。
バブル崩壊後は、不良債権問題や資産デフレによって、企業経営は圧迫され、企業は有利子負債を圧縮する為に資産リストラを続け、不動産をひたすら売却し続けてきました。
ここ数年は不動産証券化が普及し、不動産投資環境が整ったことで、あらたな不動産取得要因が働きました。一方で不動産は常に様々なリスクを内在した資産といえます。特にここ数年、不動産市場が高度化、複雑化したことによって、「サブプライム問題」に例を見るまでもなく、でき得る限りそのリスクを事前に顕在化させておく必要があると言えるでしょう。
企業不動産はまさに、活用の方法如何によってその企業の価値そのものを増大させることも減少させることもできる重要なファクターとなりつつあるということです。会計基準のコンバージェンスの流れとあわせて、各企業はその対応をチャンスと捉え、企業価値の向上に努めるべきだと思います。
(この記事は2009年9月25日に初掲載されたものです。)