(THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役 伊藤 達夫)
社長さんや経営幹部の方とお話ししていると、戦略コンセプトをどのように経営に活かせばいいかわからないんだろうな、と思うことが良くあります。
もしくは、流行言葉の勉強はしているけど、聞きかじりでよくわかっていない、もしくは誤解して使っていることもあります。
誤解して使っていても、儲かっていればそれでいいと私は思います。
先日、「ブルーオーシャンでうちは考えるんだよ。他社がこの機能に関しては1手間しかかけてないのに、うちは3手間かけてやっているんだよ。そうするとお客さんは、おお! って驚くから」といわれて、うーん、それは微妙にブルーオーシャンとは違っていないですか? と言葉が出かかって止まりましたが……。
この会社は儲かっているし、社長さんも勉強熱心なので、別に構わないとは思います。
ただ、戦略コンセプトを誤解していると、知っている人と話すときに恥ずかしいです。
さらに本質を理解すれば儲けられる可能性が高まる、というポイントがあります。
なので、ちょっと今日はブルーオーシャン戦略を自社で使うポイントは? ということを簡単にお話ししようと思います。
「ブルーオーシャン戦略」という、少し前に流行したコンセプトがあります。
一言で言うと、「顧客から見て、無駄なこと、価値が無い部分にコストを裂くのをやめましょう。
そうすれば、低価格で高価値な商品を提供できて、業界で圧勝できますよ。」というお話です。
やや難しい話をすると、経営学的な背景は、マイケルポーター教授の競争優位の戦略に対する反論ではあるんですね。
ポーター教授は、低価格というポジションの取り方は、差別化というポジションの取り方と、
両立しにくい、またはできないというようなことを言っています。
要は、「マックで高級なハンバーガーを置いても儲からない」ということです。
業界で一位の地位を得ている企業は低価格化して、2位、3位企業の収益を逼迫させ、独占に近づくことができる。
その手段に対抗するには、差別化しかない! というようなことをポーター教授は言っています。
ちょっと前のマクドナルドとモスバーガーをイメージしてくれればいいと思います。
マックは安くなって、どんどん低価格化する。それでロッテリアを苦しめている。
モスは高いけどうまいというポジションなので、マックが何をしても平気、といったところです。
しかし、ブルーオーシャン的に言うと、低価格と高い価値は両立可能ということです。
マックが安くてお客さんが大喜びするハンバーガーを出すことができると主張します。
そんなこと本当にできるかは置いておいて、できるかもしれない、と考えるとどうなるでしょうか?
ある意味、ロッテリアの絶品チーズバーガーはブルーオーシャン風でした。
野菜が入ってない。肉とチーズしか入っていない。
野菜にかけるコストを減らし、チーズにコストを投下することで、そんなに高くないけど、
顧客にとってインパクトのあるチーズバーガーができる、というところでしょうか?
ただ、ちょっと高いですので、厳密にはブルーオーシャン的ではなく、
絶品Wチーズバーガーは完全に高価格化に行ってしまっています……。
そして、芳しくない結果となっていますけどね……。ブルーオーシャン的ではあるけど、中途半端だったんですね。
徹底してブルーオーシャン的な会社はどこにあるのでしょうか? よく言われるのが、QBハウスという1000円で散髪できる会社です。
床屋さんや美容院はいろいろとサービスしすぎな感はありませんか? 髭を剃ってくれたり、肩を揉んでくれたり。
育毛剤までつけてくれたりして。そういったことを一切廃し、髪をスピーディーに低価格で切ることのみに特化した会社です。
でも実は、QBハウスのコンセプトは大前研一氏がベストセラー、「企業参謀」でそのまんま書いています。
「床屋に行くと、シャンプーや髭剃りなど自分でもできることに時間とお金を使っていて無駄だと感じる。
髪だけ切ってくれ。その他のコストにいくらかけているんだ! シャンプーや髭剃りはやめて値下げしろ!」と。さすがは大前先生ですね。
あと、最近で有名なのはWiiでしょうか? ゲーム業界自体が開発費が高騰、高機能、高価格化してしまい、ユーザーがコア化する中で、別に開発費をさして高くしなくても、身近なテーマで手軽にできるものをゲーム化すればより広い市場が取れる、といった事例を示してくれましたね。
さて、これを自分の会社で使うにはどうすればいいのか? お客さんが本当に自分の会社の商品、サービスで価値を感じているのは何なのか? をしっかり把握した上で、その価値を感じている部分以外はバッサリ切り捨てる、減らす、ことです。
そして、お客さんが価値を感じることに対して集中する。そうすると、低価格化とお客さんにとっての高い価値が同時に実現される。
以前、接客レベルが低いのに、儲かっている会社の社長さんとお話ししているときに、うちも接客レベル上げないとなあ、競合は接客サービスに力を入れているから、と言われて、あわてて止めました……。儲かっているという事実のみが企業には大事なんです……。
接客サービスに力を入れていて、儲かっていないということは、無駄な部分に投資をしているということになります。
接客サービスに力を入れたら、今のお客さんが逃げていって、代わりに、お金を落とさない、サービスにうるさいお客さんがやってきてしまいます、そして儲からなくなってしまいます、と……。
ブルーオーシャン戦略で、戦略キャンパスというツールがあって、ここが大事なんです、
というようなコンサルタントもいますが、ツールの使い方よりも本質的な部分をまず抑えて欲しい、と私は思います。
ブルーオーシャンの本質とは、余計なことにお金は掛けない、余計なこととはお客さんが求めていないことである、ということです……。
その判別ができるかできないかが経営者のセンスですけどね。
私はそのセンスが正しそうな場合は背中を押すだけでいいですし、そのセンスが間違っていそうなら、止めるだけです。
どうですか、あなたの会社でも検討してみる価値があるのではないでしょうか? こうしている間にも無駄なサービス、機能にお金を使っているのではないでしょうか?
(この記事は2008年11月28日に初掲載されたものです。)
【記事提供元】
INSIGHT NOW!(インサイトナウ)