こんにちは、船井総合研究所の小林昇太郎です。
今回は、皆さんが販売している製品やサービスが本当に会社にとって利益を生み出しているのかについて少しお話をさせて頂きたいと思います。
「あなたの営業部門では本当に利益の取れる製品を選択して、その販売に力を注ぐことができていますか?」
例えば、こういった質問を営業担当者の方にすると、「現在、販売している各製品については、自社のコスト計算によると利益率が高くなっています。」といった回答や、「どれ位の利益が出ているのか具体的な数字は分りませんが、全社として、その製品の販売に力を入れているので、利益は出ていると思います。」といったような回答がよく返ってきます。
果たして、皆さんが販売している製品は自社に対して本当に利益を生み出しているのでしょうか。そして、それは本当に正しい情報なのでしょうか。
これらをしっかりと見極めておかないと、いくら一生懸命に皆さんが営業活動を行なったとしても、結局、獲得できると思っていた利益を取りこぼすことにつながっていきます。
しかし、残念ながら、それまでの営業部門が採択してきた販売方針や、何を優先的に販売していくのかといった販売計画立案時における経営判断指標そのものが実は誤ったものであり、本来であれば営業活動により獲得できるはずであった大きな利益を取りこぼしてしまっているケースが多々あるのです。
この営業部門として大きな利益を取り逃がしていることについては、営業部門や営業担当者の努力が不足している、営業活動が不足している、といったことだけに責任が押し付けられがちですが、決してそうではありません。むしろ、多くの営業部門におけるマネージャーや営業担当者は、会社から出される製品別の利益情報や、それに基づく販売方針に沿って、何の疑いを抱くこともなく、日々、営業予算を達成すべく営業活動に一生懸命です。
しかし、皆さんがどれだけ頑張って努力し、会社の掲げる販売方針に従って製品の売上を伸ばしたとしても、大きな成果には結びつかないことがあるのです。
このことは、営業部門の責任ではなく、会社側の誤った経営判断によりもたらされているケースが多いのです。
例えば、自社によって算出されている製品のコスト計算では、利益率が高く販売優先順位の高いと思われていた商品が、実は利益率が低い商品であり、逆に、優先順位が低いと思われていた商品が、より多くの利益を自社にもたらす製品であったというようなケースも非常に多いのです。
では、一体何が我々に誤った経営判断を起こさせているのでしょうか。多くの企業では経営判断を行なう際に管理会計として「原価計算方式」を使うことが多くなっています。
管理会計は皆さんご存知のように、企業の経営者や管理者、担当者などが自社の経営計画を作成、経営管理を行なっていく際に、社内で意思決定を行なうために役立たせるための情報です。財務会計は、外部の銀行、株主といった利害関係者であるステークホルダーに対し、商法や証券取引法上、決められたルールに基づいて行なわなければなりません。管理会計では自社の未来を決定していくに際して使われ、法律上で決められたルールはなく、各社が自由な手法を採択することができるものです。
そして、この管理会計で使われている手法には、標準原価会計や活動基準原価会計(ABC)といったものがありますが、これら原価会計の中で行なわれている『コスト配賦』という考え方が、現在において企業の誤った経営判断を下してしまう原因になっているケースが多くあるのです。
もし読者の皆さんが営業担当部署の方であれば、コスト配賦とは何であるかが良く分らない方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明しましょう。
例えば、原価会計方式では、製造業におけるコストは大きく直接費と間接費に分類されます。製品の原価を算出する際、製品に直接かかる費用である直接材料費や直接労務費などは、製品ごとに掛かったコストをそのまま割り振ることで個別のコスト集計が可能ですが、間接材料費や間接労務費、間接経費といった直接その製品の製造などに関わらない間接的なコストは、掛かったコストを各製品に何らかの方法で、バランス良く割り振っていかなければなりません。
この間接的なコストをそれぞれの製品に割り振っていくことをコスト配賦といいます。
では、どうしてこのコスト配賦が我々の経営判断を誤らせる原因となるのでしょうか。
一つは、昔と比較して、ここ最近における直接費と間接費それぞれのコスト構成比率の変化があげられます。以前は、労働者に対する給与体系は、そのほとんどが製品の出来高による賃金の支払いにより行なわれていました。そのような状況においては、原価の大部分は直接費で占められており、間接費の直接費に占める割合は微々たるものでした。
この時、間接費は、直接労務費の比率等に応じて各製品に割り振られましたが、直接費が製品コストの大部分を占めるような状況であれば、僅かな間接費を直接費の比率に応じて配賦したとしてもそれほど大きな問題にはなりません。
しかし、現在では、製品全体に占める直接費と間接費におけるコスト構成比率は大きく変化しています。労働者などの給与体系が出来高制から、固定給制に移行してきたなどの理由から、直接費と間接費の構成比率が逆転したのです。
つまり、直接費の割合が低く、間接費の割合は大きく増えているのです。現状、直接労務費の間接製造費に占める割合は約10分の1程度にまで縮小しています。
こういった状況においては、例えば、これまでと同じように僅かな直接労務費の比率で大きな間接費を割り振るというのには無理が出てきており、現在の各企業におけるコスト環境にはそぐわなくなってきているというのが実態なのです。
皆様の会社におかれましても、自社の営業成果を伸ばしていくための仕組みを今一度、見直されては如何でしょうか。