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有価証券報告書から時流を掴む

みなさんは有価証券報告書を読んだことがあるでしょうか?

日経新聞などで「決算発表」として報道されるのは決算短信に基づく発表であり、有価証券報告書はそこから1ヶ月近く遅れて発表されます。また情報量も大きく異なり、トヨタ自動車の2013年3月期の有価証券報告書は189ページであるのに対し、決算短信は30ページしかありません。そのため、早い時期に簡潔にわかる決算短信しか読まない、という方が多いかもしれません。

しかし、有価証券報告書は作成にかかる時間とページ数が示す通り、情報の宝庫です!!読むためのポイントを押さえていろいろな会社の有価証券報告書に目を通せば、上場企業に関する情報の感度がぐっとアップすること間違いありません。

ではここからは、下記の項目に沿って、お話をしていきたいと思います。

有価証券報告書のどこに注目するべきか

●会社の概要をつかむ
上場企業といっても、実際何をやっている会社かを知らない、ということはよくあると思います。第1【企業の概況】の2【沿革】、3【事業の内容】を読むと、いままでどうやって事業を進めてきたのか、いまの主要な事業が何なのかを把握することができます。たとえば、トヨタ自動車の事業の内容は、「自動車」「金融」「その他」と分かれており、イオンの事業内容は、「GMS」「SM」「戦略的小型店」「総合金融」「ディベロッパー」「サービス」「専門店」「アセアン」「中国」「その他」と多岐にわたっていることがわかります。

また、第4【提出会社の状況】の1【株式等の状況】(7)大株主の状況には、会社の意思決定に際し、どんな会社・個人が影響を及ぼすかが書いてあります。所有株式数の割合が5%を超えている会社で知らない会社があるようなときは、確認しておいたほうがいいかもしれません。

●ビジネスの現状をつかむ
第2【事業の概要】の4【事業等のリスク】がビジネスの現状をつかめる、最も面白い部分です。ここでは、日本・世界の経済情勢だけではなく、金融市場や地政学的リスクを加味し、世界の潮流の中で中期的な視点でどうやって会社を動かしていくか、という経営者の考えが読み解けるところです。トヨタ自動車は14個、イオンは30個ものリスクを挙げており、グローバル化で複雑になった市場で戦う企業の姿を見ることができます。また、その1つ前の3【対処すべき課題】では、既に顕在化しているリスク・課題に対して、直近でどのように対策を考えているかが明らかになっています。

これらは文字が並んでいる部分であり直感的に理解するのが難しいところではありますが、ご自身の経験や知識と重ねながら読んでいただければ、大変興味深い情報であること間違いありません。

いきなり具体的な数字を見て増えた、減ったで判断するのではなく、最初は前述のような定性データを学ぶことで、日本経済における当社の役割やご自身の会社との関連性をイメージしやすくなるのではないかと思います。

有価証券報告書の具体的な見方について

財務3表と言われる、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書は第5【経理の状況】に掲載されています。

●損益計算書
最初に見るのは損益計算書になります。
損益計算書のどこを見るか、というのは会社の業績や業種によるところがありますが、

・売上・営業利益・経常利益は伸びているか落ちているか、それはなぜか?
・営業外収益、特別利益、特別損失にはどんな項目があるか?金額の増減はどんな状況を反映しているものか?

は必ず考えてみてほしいところです。

貸借対照表は全体の数字を見てもわかりづらいので、指標分析から入るのが一般的です。資産を有効に活用できているかを表す収益性分析では、損益計算書の計数と比較して回転期間・回転率を算出します。
また、安全性分析では短期・長期それぞれの安全性を確認するために、資産と負債の比率、資本と負債の比率を算出します。

●貸借対照表
損益計算書は毎期数値が大きく変動して当たり前のところがありますが、貸借対照表の指標は会社を取り巻く状況が変わらない限りなかなか動くものではありません。
そのため、著しく変動している場合には注意深く分析する必要があるでしょう。

指標分析で大枠をつかんだところで、同業他社と比べてどんな金額構成になっているかを見てみてください。
固定資産の金額はどれくらいか、本業以外の資産をどのように運用しているのか、資金調達はどのようにしているのか・・・などはトップの考え方、ビジネスのやり方が反映されているところなので、同業と思える会社であってもまったく違う貸借対照表である、というのはよくあることです。
個人的には3表の中で一番想像力が鍛えられて面白いと思います。

貸借対照表、損益計算書はどちらも前期分が併記されていますが、可能であれば3~4期分を並べてみることをおすすめします。
また、一般的に同業とされている会社であっても、実は主要な事業が違っていたりビジネスのやり方が違っていたりするので他社との比較も欠かせません。
一つの数字ではわからないことでも複数と比較することで多様な見方ができるようになります。

●キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書は、有価証券報告書の第5【経理の状況】のうち、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書の次に出てきます。

キャッシュ・フロー計算書とは、前期の現預金残高が、1年間の事業の結果としてどのように増減したかを表すものです。
現預金の変動理由ごとに「営業活動によるキャッシュ・フロー」「投資活動によるキャッシュ・フロー」「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つに分かれています。

営業活動によるキャッシュ・フローは、その名の通り、本業から発生した現金の変動で、売上、仕入、人件費、販管費などに関する収入と支出に関するところです。
作り方には2通りあり、「直接法」というそのまま現金の変動を集約するやり方と、「間接法」という損益計算書の利益から各種項目を調整するやり方があります。

現金の変動を集約する「直接法」の場合、「営業収入」や「原材料又は商品の仕入支出」といった非常にわかりやすい科目になるのですが、「間接法」では、「売上債権の増加額」など現金の動きが想像しづらい科目になっています。

現金の動きを直接捉えるというよりは、利益と比較してどこが現金化されてどこがされていないかを把握するためのものになっており、直感的にはわかりづらいですが、実務上簡便なことから、「間接法」を採用する企業がほとんどです。

投資活動によるキャッシュ・フローは、貸借対照表の左側、資産を営業外でどのように活用したかを表しており、設備投資や定期預金・有価証券投資などの余剰資金の運用が含まれています。

こちらは現金支払がどれくらいだったのかが明記されているため、何にいくら使ったのがわかりやすくなっています。

財務活動によるキャッシュ・フローは貸借対照表の右側、負債と資本、すなわち事業に必要なお金を調達する活動に関する現金の動きをまとめたところです。

科目としては、「長期借入金の返済による支出」「配当金の支払額」などで、こちらも投資活動同様、現金支払が直接計上されています。

キャッシュ・フローは営業・投資・財務と分かれていることから項目ごとのプラス・マイナスで大まかに会社の状況をつかむことができます。

たとえば、営業キャッシュ・フローはプラスであることが前提で、マイナスが2期以上連続するとかなり苦しい状況です。

また、順調に成長を続けている会社は新しく工場を建てたりするために、投資キャッシュ・フローがマイナスになるのが一般的で、逆にプラスの会社は事業を縮小しようとしていないかを慎重に見る必要があります。
財務キャッシュ・フローは優良企業であれば借入の返済がメインであるためマイナスになりますが、一方で事業を拡大したい企業は新株発行や追加借入を行うためプラスになります。

個別の項目の増減を見る前に、各項目の合計から会社の状況を大まかにつかむことが大切です。

~最後に~
ここまで、「なぜそうなっているか考える」ことをおすすめしてきましたが、貸借対照表・損益計算書・キャッシュ・フロー計算書は、いきなり考えるだけではわからないところもあると思います。
そのときのヒントや答え合わせに使ってほしいのが、第2【事業の状況】と第3【設備の状況】です。
ここでは表や文章を使って、どんなやり方でビジネスを進めていて、数年で自社を取り巻く環境がどう変わってきているかが説明されているので、納得しながら数字を読み進められます。
また、有価証券報告書がちょっと長い、読みづらい……と感じる方は、はじめに決算説明会の資料や事業報告書を読んでみてください。
写真やグラフが多用され、新製品の発売や世界市場での活躍ぶりなどビジネスのトピックがよりわかりやすく紹介されていて、親しみが湧く内容になっています。