中国の自動車市場が今年中に1300万台に到達すると見込まれ、実質世界1位のマーケットになるとの報道が新聞、メディアで取り上げられています。
また、各種メディアによって中国に展開する企業に関する情報が連日報道される中で、まだ展開していない多くの日本の企業が検討しはじめていることでしょう。
今回は、中国市場への展開に向けた留意点について解説していきたいと思います。
■ 第二の経済大国へ
まず、国の経済規模をあらわすGDPですが、米国、日本と比較すると金融危機の影響があり米国・日本が低成長に陥っているにも関わらず、8%を維持した成長を見せています。中国の輸出額GDP比(GDPに占める輸出額の割合)は約3割で、日本でも1.5割強です。
日本が経済低迷に陥った主要因は輸出に依存していることといわれますが、それ以上に依存度合いが高い中国が、周辺国の経済低迷にもかかわらず、ここまで成長を維持できているのは、そのマーケットとしてのポテンシャルの高さを思い知らされます。
GDP規模自体も日本抜くことは確実であり、胡錦濤政権が提唱する8%以上の成長維持が今後も実現すれば、日本円で換算すれば毎年30兆円以上(今年の日本の税収に匹敵する)で規模の拡大が続くことになります。GDPの視点で見れば、中国市場は規模・成長性ともに有望であることは間違いありません。
■ 決してマスマーケットではない
このようなマーケットの有望性からいって、「13億人の市場だから」という捉え方をされるケースが多いですが、単一にマーケットを捉えても成功する確率が低いのは、数々の失敗事例からもよく分かります。
先ほどのGDPですが、成長率は地域別に見るとそのバラつきは大きく、北京、上海などの主要都市の伸びが鈍化し、逆に内陸地域の伸びが著しいといえます。また、一人当たりのGDPでも格差は大きいといえます。
一般的に、一人当たりGDPが3000ドルを超えると自動車の普及がはじまり、1万ドルを超えると先進国の生活レベルになるといわれています。そこから考えると、上海・北京(一人当たりGDP1万ドル)のように先進国なみの生活が当たり前になっている地域もあれば、これから車が普及する段階いたっていないエリアも相当数存在し、エリアによっての生活レベルが大きく違うことが分かります。
そのためどの都市に展開すべきなのかは非常に重要な意思決定となります。
上海・北京は先進国並みの市場ですが成長率は鈍化し競争も激化しており、逆に成長している地方はまだ日本の高品質製品やサービスは価格が高くなり、品質過剰になる可能性があります。実際に展開する企業は黒字化に苦労する状態が続いています。
■ 産業構造の変化に注視を
また、各市場の産業構造の変化も日本以上に起きやすいのが特徴です。ここで住宅建材の流通構造の変化を例にあげたいと思います。
中国の都心部(北京や上海)では集合住宅の割合が高く、近年の着工住宅の8割超がマンション・アパートになります。また中国でのマンション販売は、現在スケルトン(内装が施されていない状態)での引き渡しが一般的であり、購入者はスケルトン住宅を購入した後で、内装の壁やフローリング、キッチン、トイレなどを内装業者と一緒に相談しながら購入します。
そのため、主要都市には建材市場(いちば)が発展しており、水道の蛇口やトイレの便器、壁材、床材などをそれぞれ専門に販売している店が乱立するエリアがあります。
購入者は内装業者と一緒にそのような市場(いちば)を回って自分の好みに合ったものを購入します。そのため、個人で行うような小規模な内装業者が各都市でも数万程度存在すると言われています。
このような状況下において、建材メーカーは建材市場(いちば)への流通に力点を置いていて、TOTOなど大手建材メーカーは専属の代理店を多数抱えて展開する形態がとられています。日本では想像つきにくいですが、便器・バスのみを扱う店が特定エリアで乱立しています。
ただし、この流通構造が大きく変わろうとしています。国の政策の中で、主要都市においては内装が施されたマンションを販売する指針を出されており、3年程度をかけて移行すると考えられています。つまり、現在の日本のマンション販売と近い流通構造になります。
これは建材流通のキープレイヤーが、消費者主導の建材市場(いちば)からマンションディベロッパに移ることを意味します。建材メーカーにとっては、流通網の構築から大手・中堅ディベロッパへの営業・パイプづくりが重要になります。
その中で、例えば環境系の建材については、消費者主導の流通構造では受け入れられにくい傾向にありましたが、政策の影響を受ける大手ディベロッパなどは環境配慮を意識した建材選びを意識するようになるとの予想があります。
先日の報道で中国が環境対策について政策目標を発表したのが話題になりました。環境配慮への政策が強化されることで、日本の環境技術を活かした建材メーカーにとっては大きな機会が到来しつつあるといえます。
それ以外にも計画経済から市場経済への移行が各業界で進む中で、日本企業の参入余地は十分出てくると予想されます。
■ 特にマーケティング発想が必要な国
中国市場に有望性があるのは間違いないですが、1億総中流階級かつ民主主義の日本(徐々に崩れかけていますが)の発想で展開してもうまくいかず、各エリア特性や展開業界の流通構造の変化を見極めが重要になります。
一番展開に失敗するケースとしては、日本で展開している製品やサービスをそのまま中国へ持っていこうとすることですが、戦略上で言えば新市場×新製品の事業として捉え、あくまで展開するエリアの市場特性・構造に合わせた製品・サービスを開発するというマーケティング発想による展開が何よりも重要と捉えていただければと思います。
(この記事は2009年12月7日に初掲載されたものです。)