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社長は部下を「追い越し」てはいけません

(株式会社フェイスホールディングス 代表取締役社長 小倉 広)

「どうしてこれだけ教えても育たないんだ…」

そんなお悩みを抱えた経営者の方は少なくありません。では一体どこに原因があるのでしょう? 実は意外なところにあるのです。社員育成でお悩みの方必見です。
「あぁ、そうそう…」

顧問契約先のA社長が振り向き様に社員へ質問しました。

「新卒の合同説明会、申し込めたかい?」

急に話しかけられ、えっ…と言葉につまる人事担当者。

「あの…、明確な指示が無かったので申し込みませんでした。申し訳ありません!」

それを聞いた社長は、ムッとした表情でこう言い残し部屋を出ていきました。

「なぜきちんと確認しない? 誰が見送れと言った? 報連相は仕事の基本だろう。一体何度言えばわかるんだ?」

後に残されうつむく社員と、困り果てた表情で社員をなだめる上司の人事課長。私はやりきれない思いで事務所を離れ、社長と共に応接室へ移動しました。

「いやはや、お恥ずかしい」

とA社長。

「いつも報連相を徹底しろと伝えているのに、今も抜け漏れだらけ。なぜこれだけ教えても育たないんでしょう?」

一部始終を見ていた私は、どう話そうかと思案の後、率直に伝えることに。

「社長は人を育ててはいけないのです」

えっ? と怪訝そうな社長に、私は講演でも語る持論をご紹介することにしました。
社員が育つ過程は、上司や同僚、部下から刺激を受け変化するプロセスであると言えます。しかし、その刺激をトップが与えていては継続的な人材育成は望めません。

同僚の健闘ぶりや業績に触れ、他の社員も一層頑張ろうと思う。素直に一所懸命頑張る後輩の姿に先輩が焦る…。そんな刺激に満ちた場こそが継続的に人を成長させる職場なのです。

中堅中小企業では、経営者の発言は絶対的な力を持ちます。トップが軽く発した一言も、部下にとってはメガトンパンチ。ノックダウンしてしまっては、可能性ある人材ですら育てることはできません。

育成とは長い時間をかけて人の変化を支援し続けること。一度や二度の注意で人を変えることではありません。しかし、トップが継続的に全社員へ関わるのは物理的に不可能です。だからこそトップが育てるべきは、社員を育てる管理職なのです。

単に人を育てるのではなく『“人を育てる人”を育てる』というわけです。

「そうか、オグラさん。では、どうすればいいのだろう?」

とA社長。私は一言、こう付け加えました。

「追い越し禁止です」

先の様子がまさに追い越しそのもの。本来なら、人事担当者の育成は上司である人事課長が行うべきなのに、その上司を追い越して社長が直接指導してしまう…。そんな「追い越し」を厳しく禁じ、一見面倒なようでも、必ず部長・課長に伝え、部下の指導を求める。これこそが『“人を育てる人”を育てる』ということなのです。

「結局、人が育たないのは、トップの私自身に原因があったんですね」

苦笑しながら呟く社長。何をすればいいのか明確になったその表情は、曇り無くスッキリとしたように見えました。

(この記事は2009年6月5日に初掲載されたものです。)
【記事提供元】
INSIGHT NOW!(インサイトナウ)