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地域を変える反転のシナリオ シリーズ【5】 「真に求められる中小企業経営強化の支援とは?」

このコラムを目にしたあなたにこんにちは!船井総合研究所パブリックイノベーションチームの伊東威(いとうたけし)です。第5回の今回は、地域活性化の出口【3】「中小企業経営強化」について記します。どうぞよろしくお願いします。

■中小企業経営者はごく現実的なことに悩んでいる
10年以上にわたって中小企業経営者の皆さんと日常的に関わってきて分かったことは、「ごく現実的なことに悩んでいる」ということです。端的に言えば、中小企業経営者の皆さんは「3つのジレンマ」を持っています。

一つ目は、「『何でもできる自分』が『何でもしている』ジレンマ」です。とりわけ社員数が概ね10名以下、家族も入って経営をしている場合、必然的に経営者自らがプレイングマネジャーで「製造兼営業兼経理兼事務」のような日常に追われる現実を見てきました。ただ、ご自身は必ずしもその日常を「良い」と思っておらず、「いつまでこれが続くのか・・・続けて良いのか」と悩んでいます。特に、現場経験を積むところから入社した若き後継者の方は、ひたすら現場最前線で稼ぐ毎日の中で「一通り何でもできる」ようになりますが、意気軒昂な先代経営者(多くの場合は父親)を前に、「いつ後継することになるか?」も分からぬまま日々を過ごさざるを得ません。

二つ目は、「『変わりたくない』のでなく『変えられない』ジレンマ」です。上記で記したような規模感の中小企業の現場では、最も頼りになるのは「家族」です。しかしながら、その反面「今までこれでやってきたんだから」「あれこれ学ぶなんて余計なこと」という意見に押し切られ、結局変わらぬ日常に埋没してしまいます。また、長年会社で働いてきた社員も「プレイングマネジャーの経営者の姿が当たり前」の日常ですから、急に外に学びに出かけて行こうものなら「社長は仕事をしなくなった」と言うでしょう。こうした声が気になり「変えられない」のです。

三つ目は、「『教わったことがない』から『教えられない』ジレンマ」です。人間は自分自身の経験則で物事を判断し行動しがちですが、「見て覚えろ」で成長してきた人は「『教える』ということ自体を知らない」ということです。仮に研修制度等が充実した企業での修行を経て入社した若手後継者であっても、教える対象の社員が「教わったことがない」ので、「教えられない」ケースが多いのです。今いる家族や社員は必ず歳をとり、やがてはいなくなるという現実は分かっていても、「『採用』などしてもウチの会社はムリ」と諦めている中小企業経営者は案外多いのです。

■肌感覚で悩みを理解し現実的な支援プログラムを
ではどうしたら良いのでしょうか?まずは、これまでお話しした中小企業経営者の現実的な悩みやジレンマを「次元が低い」「クリアできて当たり前」と一方的に決めつけずに、肌感覚で理解することです。同時に、「自己卑下をしないこと」「抱えている悩みやジレンマは多くの経営者が抱えていること」を伝え、励ますことが大切です。

そのうえで、まずは経営者自身が、家族や社員から「学び考える時間の確保」に対して理解・納得してもらうことが大前提です。「何のために学び考えるのか?」の想いを自分の言葉で伝えてもらうことが求められます。そして「自分自身の日々の仕事の棚卸し」から着手してもらうのが最善でしょう。「棚卸し」をすると「何を自分がやり何を周りの家族や社員に任せていくべきか?」が見えてくるはずです。見えてきたら「分業の実行」です。時間はかかっても分業の方向性さえ間違えなければ、必ず会社全体の生産性が向上します。

さらに、「自社の収益構造」を「見える化」し、「一番の強みとなる商品・サービスの集中展開」に紐づく各業務に全社で取り組むことです。人、とりわけ若手社員の採用はトライアンドエラーの繰り返しですが、手始めに採用を前提としない「職場体験」や「インターンシップ」に挑戦することをオススメします。なぜなら、こうすることで「若手社員を受け入れるにあたって何がわが社に足りないのか?」が分かるからです。1週間くらい受け入れるのが良いでしょう。手洗いやロッカー、実際に仕事をするうえで最低限必要なルールやマニュアルなど「足りないもの」が具体的に見えてきます。採用はその経験をもとに改善をし始めてからでも遅くありません。

いかがでしょうか?このような現実的・具体的な支援プログラムを提供している中小企業経営者向けの団体・勉強会・セミナーは私の知る限りほとんどありません。「経営戦略」「マーケティング」「マネジメント」について学ぶ機会の前に、足元の土台づくりの機会が必要です。

■人生はマラソン・経営は駅伝・どこを見ているか?
以前、私が尊敬する経営者の方が「伊東君、人生はマラソンで経営は駅伝だよ」と教えてくれました。「人生」は代わりがいませんから、自分自身で42.195㎞を走り抜かなければなりません。しかしながら、「経営」は一代限りではなく、永遠のたすきリレーが必要です。つまり「人ひとりの人生」よりも「経営」の方がずっと時間軸は長いわけですから、「どこを見ているか?」がとても重要です。だからこそ、多くの中小企業経営者が今直面している現実的課題に応え得る支援プログラムを実行し、半歩先、一歩先を見てもらえるようにすることが、真に求められる「中小企業経営強化」の支援であると私は考えます。

以上、計5回にわたって、「中小企業振興政策」の策定を入口に、「産業観光」「地域社会共育」「中小企業経営強化」を政策実行の出口にする私が提供するコンサルティングについてご紹介してきました。

これまで読んでくださったあなたに・・・ありがとうございました!次回の第6回からは、現在全国への普及に向けて取り組んでいるグローバルリーダーシップを学ぶプログラム「Global Leadership Education」(GLE)についてご紹介していきます。「地域社会共育」にも通じる内容です。またお会いしましょう!

【著者プロフィール】
伊東 威(いとう たけし)
株式会社船井総合研究所 パブリックイノベーションチーム
前職で全国4万4000名、宮城県で1000名の中小企業経営者団体にて全国最年少の事務局長に就任。県内各地の中小企業経営者および社員向けのセミナー企画運営を手がけるほか、行政や学校や商工団体と中小企業政策やキャリア教育プランなどの策定・実行に取り組む。その後、株式会社 船井総合研究所の「パブリックイノベーションチーム」への配属を志願して入社。
得意分野は、産学官の強みや特色を活かした中小企業・小規模企業振興政策の策定・実行支援。「義理と人情と浪花節を科学する」が信条。