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内部統制の捉え方

上場企業の読者の皆様におかれましては、2008年度決算における会計監査対応でご苦労をなさった方々も多いと思います。

しかし、私個人の見解といたしましては、一連の内部統制の捉えられ方に関しては疑問がございます。一言で言えば、金融商品取引法(通称J-SOX)対応という、単体法への対応として仕方なく内部統制を構築するという行為には、不毛さを感じざるを得ないということです。

まず、日本企業において内部統制が必須要件となった経緯について簡単におさらいしてみましょう。
金融商品取引法とは、政策的な“貯蓄⇒投資”の移行意図に基づき、金融市場における金融工学、金融デリバティブ商品の発展・複雑化に伴って、それまで銀行法・証券取引法・先物取引法など業法レベルでバラバラに存在していた金融商品取引関連の法令を、規制の適正化、および投資家保護の観点などから一元化させたものです。

そして、上場企業に関する規制の一つとして会計監査義務があり、金融商品取引法中において新たに、内部統制の論点として内部統制報告書の提出義務が付加されるに至り、結果、上場企業において内部統制が必須要件となりました。

次に内部統制という概念の付加についてですが、これは、米国において小ブッシュ大統領時代にエンロン事件に端を発して、上場企業における大規模な経済事件、つまり、粉飾会計情報の開示によって投資家に対する重大な背任行為を企業ぐるみで行うケースが続いたことから、企業ぐるみの背任行為を抑制するため、企業経営者への宣誓要求とともに企業内部での会計情報開示に関する統制をサーベンスオクスレー法(略称SOX法)で規定されたことに起因しています。

国際会計基準への準拠を目指す日本の会計基準としてもこの概念の適用が求められ、会計情報の開示を義務付ける金融商品取引法中で規定されることとなります。

そこで、SOX法規定の日本版ということで、内部統制の規定についてJ-SOX法という通称が流通しました。

ちなみに、ご存知の方も多いと思いますが、内部統制に関する規定は、実はJ-SOX法として通称されている金融商品取引法(内の一規定)だけでなく、会社法(旧商法)にも、大企業限定ですが、述されています。
ここで、冒頭の問題提起に徐々に入っていきます。

これは、異論も多々あることを承知で申し上げますが、法律というのは、法体系という言葉が存在するように、本来体系的な性質を持っています。

つまり、憲法を頂点として、民法・刑法・商法(会社法)・民事訴訟法・刑事訴訟法の基本六法から、その他法、業界法等に派生するトライアングルを形成しているということです。

あらゆる社会構造が複雑化している現代においては、個人情報保護法など、各論が突出するケースが増えていますが、やはり法制度全体の齟齬を抑制するには、体系をできるだけ維持する必要があると私は考えています。

さてここで、前述しましたが、金融商品取引法は業界法の位置付け、会社法は基本六法の位置付けですので、体系的には会社法が上位に立つと考えられます。しかしながら、内部統制に関する議論の大半は、上位の会社法を無視して金融商品取引法(しかもその内の一規定に過ぎない)に限定された、狭苦しい論点となっているように見受けます。

ここで皆様にも考えていただきたいと思います。

私は、内部統制というキーワードがJ-SOXという通称とともに流通したことから、その捉えられ方に関して以下の疑問を持っています。

 ・ 内部統制は、上場企業に限定される要件なのか?
 ・ さらに内部統制は、会計情報の開示に限定される要件なのか?

ということです。

会社法では、取締役による職務遂行の法令・定款に対する適合性、およびその他業務の適正性を保全するための手段として、内部統制整備を求めています。もう少し平易に解釈すると、企業の事業遂行にかかるリスクをトップダウンで適正に管理(リスクマネジメント)することを求めていると考えていいでしょう。
私は、内部統制の捉え方として、この考え方にこそ賛同します。

なぜなら、直近の大規模な経済収縮という現象面としての“100年に一度の危機”ということだけでなく、レバレッジを介して膨張し世界経済を支えてきた金融スキームの危機が、政治的情勢も含め今後大きな環境的うねりとなって、日本企業もより大きなリスクに晒されていくのは明白であり、ゆえに、成長もさることながら、リスクマネジメントの巧拙が企業の存続を左右するようになると考えているからです。

よって、内部統制は、上場企業が会計情報を開示し上場を維持するための法的圧力と捉えられるべきものではなく、あらゆる企業がリスクマネジメント体制を確立するための自助的中核の仕組みとして構築されるべきものと考えています。

上場企業において、会計情報開示にかかる内部統制構築が必要条件なのは疑いようのない事実ですが、それは企業存続の十分条件ではなく、企業存続に影響を与えうる対応を含むはずの内部統制が、狭く法対応のためだけに投資されるというのでは片手落ちで、ただ会計監査対応のために過剰な投資に流れてしまったり、逆に、より根幹的効果的な投資が法対応名目予算の制約下で見過ごされてしまうという、不毛な結果を生む可能性があります。

また、非上場企業においても、内部統制構築は自社には無関係とするのではなく、経営上の重大要件と捉えていく方が望ましいのではないでしょうか。
(この記事は2009年5月29日に初掲載されたものです。)