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マイケル・ポーターの「基本戦略」を説く(2)

今回は「差別化戦略」について考えてみたいと思います。

「差別化」とは「低コスト」以外の競争優位であることは前回ご紹介した通りです。我々は「差別化」と耳にした場合には、すぐに「高付加価値化」と翻訳したくなってしまいがちですが、これが誤りであることについても前回解説しました。もちろん「高付加価値化」も「差別化」のひとつには違いありませんが、これだけでは不十分なのです。

結論からお話ししますと、他社との「差別化」を考える際には、「商品系戦略」と「営業系戦略」の2つの側面から検討する必要があるのです。

今回は子供向け携帯電話・PHSを例にとって考えてみましょう。
子供向け携帯電話で先行した三洋電機(NTTドコモ)は「キッズケータイSA800i」で、防犯機能を強調した商品開発を行い、販売チャネルはドコモショップや携帯電話量販店となっています。子を持つ親に「持たせたい」と意識させるプロモーションも実施しており、先行企業らしいオーソドックスな商品戦略、販売戦略を展開し、販売開始から7ヶ月間で24万台を販売しています。
これに対し、後発組であるバンダイ(ウィルコム)は「papipo!」を投入しています。こちらの陣営は非携帯電話メーカー、非携帯電話キャリアながら、4ヶ月で3万台を販売することに成功し、来年3月までには累計20万台を販売する予定だそうです。携帯電話メーカーではなく、またPHSという脆弱なインフラベンダーの連合軍ということを考えますと、かなり善戦しているといえそうです。

やや横道にそれますが、このケースでは、先行者は業界最大手のNTTドコモです。マーケティングの原則論からいえば、このように最大手プレーヤーがパイオニアになるケースは珍しいといえます。多くの場合、二番手が新しい市場を切り開き、市場性があると判断した段階で、No.1カンパニーが強大な資
本力を背景に市場を席捲するという図式が一般的です。

そして、今回はこれに対抗するのがバンダイ・ウィルコム陣営です。彼らはまず、商品戦略と価格戦略から構成される商品系戦略において、ドコモ・三洋電機陣営に対し差別化を図ろうとします。商品戦略上、「防犯機能」という同じ土俵では戦わず、以前大ヒットした「たまごっち」などの子供が楽しめるゲー
ム機能を満載することで、子供本人が欲しがるような商品コンセプトにしたわけです。これは明らかに先行企業に対する「差別化戦略」を具現化していますが、しかし「高付加価値化」という商品・サービスラインを目指したものではありません。
もっと端的に表現すれば、先行企業は「子供向け携帯電話」であるのに対し、後発企業は「通信機能付きゲーム機」と位置づけることができ、商品戦略上、異なるコンセプト商品を提供しているといえるのです。

彼らはさらに営業戦略とプロモーション戦略から成る営業系戦略においても差別化を図っていきます。営業戦略の核となるチャネル戦略を見れば一目瞭然です。先行企業はドコモショップなどのオーソドックスな販売チャネルであるのに対し、バンダイ陣営は得意な玩具店チャネルを使い拡販に務めます。キッズケータイと比較購買をされた場合には、同じ店舗、つまり携帯ショップチャネルでは勝ち目がないことを、彼らはわかっているのです。
異なるチャネル系統を選択することで、先行者との差別化を成功させている好例といえます。

さて、今回ご紹介した例は商品系および営業系の両面戦略での差別化が成功した典型的なケースですが、一般的に製品ポジションが成熟化してしまっている場合には、このように商品系戦略と営業系戦略両面での差別化を実現することは、実は容易ではありません。
このような場合には商品系戦略か営業系戦略のいずれかに重点を置いて差別化戦略を構築されることをお勧めします。商品開発力に秀でている企業であれば商品系戦略を、直販を含めたチャネルや営業スキル、あるいはプロモーションが強い企業であれば営業系戦略に軸足を置き、他社との差別化を検討していくべきです。
(今回は詳述しませんが、チャネル戦略を考える場合には「チャネルの長さ」と「チャネルの幅」という検討項目も重要になりますのでご注意ください。)

以上2回にわたり差別化戦略について解説しましたが、「差別化=高付加価値化」ではないということがご理解いただけたでしょうか。まずは商品系戦略、営業系戦略のいずれかに着目し、企業体質に合った差別化戦略を構築していただきたいと思います。
(この記事は2008年2月27日に初掲載されたものです。)