マーケットがグローバル化する程、マーケットにおけるバリュー(価値)は多様化してきたが、特に21世紀(象徴的なのはその最初の年に中国がWTOに加盟したことであるが)は新興国という概念が重要になった。これまでバリューは先進国で生み出されるプロセスであったのに対して、21世紀は、新興国マーケットという所得レベルも嗜好も全く異なる新しいマーケットでのバリューを考えなければならなくなった。その新興国マーケットにおいては、富裕層ビジネスとかBOPビジネスとか、バリューが生み出されるプロセスは階層別に捉えられるようになった。
これまでに、マーケットを生み出す「バリュー」を分析し、それをビジネスモデルに適用することは進んでいるが、そのバリューを生み出す要因を明確にすることに関しては、その分析はまだ一部の有識者による先進的な分析と、グローバル企業の内部に蓄積された個別ノウハウにとどまっており、広く知られるには至っていない。
特にリーマンショック以降の円高により生産拠点を新興国に求める企業が増えている中、マーケットを適切に把握しそれにふさわしいバリューチェーン・サプライチェーンを構築している企業もあれば、バリューが生まれるプロセスを把握することなく、マーケットとバリューチェーンとサプライチェーンを別々に捉えて苦しんでいる企業もある。海外に拠点を設けながらも、残念ながら、バリューチェーン・サプライチェーンをうまく構築することができずに、しかもそのことを自社で認識することすらできないまま、そのマーケットから退出せざるを得なくなった企業も少なくない。
マーケットにおいてバリューを決定している当事者がいれば、バリューを生み出している当事者もいる。広義にはバリューを決定しているのはユーザーであり、バリューを生み出している当事者はサプライヤーである。しかしながら、ユーザーといっても、そのサプライチェーンのプロセスにおいて、個別企業によって、ユーザーがサプライヤーの位置づけは異なる。例えば、自動車部メーカーにとって自動車部品メーカーはサプライヤーであるが、金属加工メーカーにとって自動車部品メーカーはユーザーである。
このように、誰がバリューを決定する当事者であるか、生産財、中間財、消費財でそれぞれ全くことなるため、バリューチェーン・サプライチェーンのプロセスにおいては、誰がバリューを決定する当事者であるか明確にすることが重要である。生産財のマーケットでは、バリューを決定する当事者は工場などの現場であり、中間財のマーケットでは逆に現場はバリューを使用する側で、実際にはバリューを決定しているのは技術開発を行っている研究所である。
消費財のマーケットでは、バリューを生み出しているのは一般消費者に商品を供給する小売業者である。小売業者のマーケットの一部はネット通販事業者に代替されるようになってきているものの、ヒット商品は常に店頭で生まれ、そこからネット通販に流れていることから、バリューがマーケットにおけるバリューを決定しているのはネット通販事業者ではなく小売であることは明らかだろう。
皆様が取り組まれているビジネスにおいて、誰がバリューを決定しているのかを把握して、自社がどのようにバリューを生み出すことが最適か、そしてそのバリューを生み出すプロセスであるサプライチェーンをどのように構築していくか?このことはすべての業種・業態の企業が考えなければならないことである。