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中国景気減速の意味

スズキ電機工業(仮)への営業コンサルティングレポートの第3回。スズキ電機工業は法人向け電気機器販売という、飽和した市場で業績が伸びずに苦しんでいた。

新規顧客の獲得こそ、同社の成長のカギを握るのだが、新規顧客は、すなわち競合他者のお得意先企業だ。競合他社に横取りされまいと囲い込んでいる企業から、なかなか受注は取れない。

コンサルティングレポートの第2回では、“狙い撃ち”作戦に取り組むことが有効だと分かった。第3回では、具体的に“狙い撃ち”作戦に邁進するための、営業組織はどうあるべきかを考えていく。

■ 新規開拓は自分の仕事じゃない
筆者: 「決して、時間をかけて新規開拓しようというお話ではありません。時間は仕掛ける側がコントロールすべきものですから、そこはしっかりと型を決めていきます」

鈴木社長: 「では、まず千葉営業所で具体的に進めてもらいましょうか」

どうやら、“狙い打ち”作戦の考え方については賛同してくれたようだ。そこで筆者は、この作戦を推進していく上で障害になると思われる課題を解決するために、もうひとつお願いをすることにした。

筆者: 「社長、この“狙い打ち”作戦を成功させるためには、もうひとつ解決しておくべき課題があります。それは、会社としてこの作戦を是非とも成功させたいという本気度を示すことです。千葉営業所のメンバーに対しては、営業所全体の新規開拓件数とそれに伴う新規売上実績を最優先に評価し、その次に営業所全体の売上実績(つまり1人当たり生産性の増加)を評価する、つまり評価方法を変更することを承諾してほしいのです」

鈴木社長: 「新規開拓に関してはいつも本気で伝えているつもりですが、何か評価の部分で問題があるということでしょうか?」

筆者: 「そうですね。話を聴く段階では、皆さん口を揃えてそれらしく前向きなことを言っていますが、本気で新規開拓をしなければならないと思っている営業マンは少ない。というか、実際のところほとんどいないと思います。社長から色々言われるから姿勢としては見せているようですが、決して本気で取り組んではいないでしょう。なぜなら、貴社の評価方法だと、既存顧客の実績を守っているだけで、ある程度の収入(給与)になることが見えているからです。現に、大口の既存顧客を担当していれば、貴社内では上位の営業マンとして表彰されている、という実態もありますから。それが現実ですよね、石井リーダー」

石井リーダー: 「社長のいる前では答えづらいですが、否定はできませんね」

気まずそうな顔をしながらも、石井リーダーは同意してくれた。

要するにこういうことだ。スズキ電機工業の評価制度は、前年実績を考慮した上で売上目標を設定し、その目標を達成したか否かという達成率が、評価の大きなウエイトを占めている。新規開拓にもプラスアルファのインセンティブがつくことになってはいるものの、1件の開拓につき5000円というもので、営業マンが「よし、それなら新規開拓に注力しよう」と踏み切っていけるレベルにはなっていない。

なぜなら、新規開拓の場合、労力(時間)を取られる割には受注まで至らないケースもあるし、受注に至ったとしても最初から大きな取引にはなりづらい、という過去の経験があるからだ。

「新規開拓、新規開拓、って、言ってる意味はわかるけど、そこに時間を割いて既存顧客が他社に奪われたりしたら、目標達成率に対して致命的な状況に陥ってしまう。とても、そんなリスクは取れないから、ある程度達成率の部分で余裕ができなければ新規開拓は無理」

スズキ電機工業の多くの営業マンは、きっとこんな風に考えているに違いない。特に、トップクラスの営業マンであればあるほど、そもそも既存顧客との取引のボリュームが大きいこともあり、新規開拓は自分の仕事ではなく、実績が上がっていない営業マンが取り組むべき仕事だと考えている節がある。

つまり、「新規開拓が必要だ」という主張に対して誰も反論はしないものの、「新規開拓は自分がやるべき仕事だ」と本気で考える営業マンは皆無に等しい、ということだ。

■ 必ず存在する“ジレンマ”
前回コラムで、“狙い打ち”が必要な理由として、多くの業界が成熟期に入っている現状においては、コチラが新規だと捉えているターゲットは、競合他社の既存顧客であることを上げた。

すでに取引をしている競合他社の牙城を切り崩すためには、当然競合他社以上の工数をかけなければならない、だからこそ“狙い打ち”が必要なのだ。ここまでの理屈には賛同してもらえるケースがほとんどだ。

ところが、個々の営業マンが実際意図したとおりに動くかというと、なかなかそうはならない。

スズキ電機工業にも見られるように、営業という職種の評価に関しては、個人実績のウエイトが高い傾向にある。

まずは、営業マンが自身の実績を上げるというポイントに注力するというメリットはあるものの、一方で、個人の動きで上げられる実績の限界が見えてしまうとそのレベルからなかなかブレークスルーできないという傾向もみられる。

特に、評価に伴う給与は、それぞれの生活に関わるものでもあるため、評価の制約とそれに伴う時間の制約というジレンマから、個人の裁量で脱却するのはかなり困難なことなのである。

鈴木社長: 「そもそも評価制度は、実績を上げた営業マンにしっかり還元してあげたい、それによってもっとヤル気を出してもらいたい、という思いで作ったものです。もっと良い制度になるのであれば、最終的にどう変えてもらっても構わないから、まずは千葉営業所で好事例を作ってくださいよ」

思いのほか、快く承諾してもらい、早速、石井リーダーに伝えた。

筆者: 「では、石井リーダー。千葉営業所の5名の営業マンと2名の業務を集めてミーティングを行ないたいので、日程を調整していただけますか?」

石井リーダー: 「え? 業務担当もですか?」

業務担当というのは、わざわざ営業マンが訪問していなくても、既存顧客が必要に応じて日々電話やFAXで発注してくるものを処理するのが主な業務だ。

筆者: 「そうですよ。鈴木社長と石井リーダーには今から説明しますが、貴社の業務担当には単なる事務作業レベルではない、重要な役割を果たしてもらいたいと思っていますので」

■ 全員で考え、全員で実行する体制づくり
“狙い打ち”作戦の議論の入口は、「いかにして新規開拓の効果を高めるか」というテーマだが、ゴールとして捉えるべきなのは、営業所の売上・利益を最大化していくことに他ならない。

新規開拓には成功したけれども、その結果、手薄になった既存顧客を競合他社に奪われてしまうようでは本末転倒なのだから、当たり前の話だ。しかしながら、“狙い打ち”作戦と言うからには、当然、新規開拓に費やさなければならない時間は増やさなければならない。よって、考えなければならないのは、たとえ新規開拓に向ける時間が増えたとしても、限られた時間で効率的に既存顧客をフォローする仕組みである。

鈴木社長と石井リーダーには、次のような話をした。

・まず、千葉営業所の既存顧客を、取引規模(大・小)の軸と取引拡大余地(多・少)の軸で整理をして、A~Dの4つにランク分けする。

・A:〔大・多〕、B:〔大・少〕、C:〔小・多〕、D:〔小・少〕

・既存顧客は、可能な限り業務担当がフォローするという前提に立つ。

・これまでの業務の役割は、顧客からの注文処理に限定されていたが、こちらから電話をかけて状況を確認したり、新製品の案内をする、といった役割を担ってもらう。

・とは言いながらも、取引拡大余地の大きいAランクやCランク、取引拡大余地は少なくとも現状の取引規模が大きいBランクに対しては、個々の企業別に信頼関係の強弱を判断しながら、営業マンの適正な訪問回数と訪問頻度の目安を決定する。

・もともとDランクの顧客数が最も多い状態であるため、結果として、これまでの40%程度の工数で既存顧客をフォローできる。

・この体制を円滑に推進する為に、5名いる営業マンのうち、1名を業務担当に配転する。

鈴木社長: 「う~ん、営業マンを1名業務に配転ですか。随分思い切った体制変更で、かつやり方も変えるとなると、営業所のメンバーはついてこられますかね?」

筆者: 「ご心配はもっともだと思います。しかしながら、“狙い打ち”作戦は、実績の上がっていない営業マンだけではなく、貴社のトップクラスの営業マンにも注力してもらわなければ、大きな成果は見込めないでしょう。そう考えると、もちろん評価制度の問題もありますが、合わせて既存顧客の離反を防ぐ仕組みも大切です。既存顧客を守りながら新規を開拓するという、ただでさえ難しくなってきた課題を、これまでのように営業マン個人の裁量に任せっきりにしていては、大きな成長は見込めません。組織の生産性を最大化する為に、『全員で考え、全員で実行する』チーム体制づくりを千葉営業所でトライアルしてみましょう」

石井リーダー: 「私が心配なのは、“狙い打ち”作戦をとったとしても、なかなか成果が上がらないような状況になってしまったときにどうすれば良いかというところですね」

筆者: 「それについては、恐らく営業マンの皆さんがもっとも不安に思うところでしょうから、全員集めたときに具体策を詰めていきましょう。いずれにしても『全員で考え、全員で実行する』を常に念頭において進めたいと思っています。“狙い打ち”作戦を実行する前に全員で考えたいことが2つありますので」

(1)「スズキ電機工業は顧客に何を約束するのか」
(2)「顧客との信頼関係を構築するためにとるべき行動」

この2点を明確にすることで、営業マンは不安というより、むしろ自信を持って“狙い打ち”に邁進することができる。

ここまでくれば、コンサルティングも終わりが見えてきたと言っていいだろう。スズキ電機工業はたまたま法人向け電気機器販売という、典型的な飽和市場で凌ぎを削る企業だった。しかし、飽和市場は他にもたくさんあるはずだ。ここでご紹介したコンサルティング内容は、きっと多くの企業で応用が利くだろう。ぜひ、参考にしていただきたい。

(出典:ダイヤモンド・オンライン