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下請けとサプライチェーン

かつて、日本の多くの中小製造業は「下請け」と表現されてきた。かつての日本の産業構造は、ピラミッドの頂点に自動車や家電などの消費財メーカーが君臨しており、その下に一次下請け、二次下請け、三次下請けといった縦型構造によって成り立っていた。これらの下請けメーカー達は、顧客から、「他の顧客には売るな」と言われれば、それに従い、顧客から「この納期でこの価格でこの品質のものを作れ」と言われれば、総力をあげてその製品の開発に協力し、「明日までにこの製品を1000個納入しろ」といわれれば徹夜してでも対応してきた。日本の消費財メーカーが世界中で高品質製品を供給することができたのは、技術力をもった我が国の誇る偉大な下請けメーカーが消費財メーカーに確実に高い品質の部材を供給し続けたからである。

ところが円高による為替差損の回避や海外の安い労働力を求めて海外に工場を移転した消費財メーカーは、国際的な競争力をつけるために積極的に現地調達を進めていった。その結果日本の下請けは国内で売り先がなくなった。

つまり、多くの自動車や家電などの消費財メーカーは、自らの最大の強みである「下請けの協力」を捨て、海外でコスト競争力を身につけることに注力してきたといえる。その結果、今も多くの消費財メーカーは必死になって価格競争を繰り広げている。

一方、日本に残された下請け企業は、顧客がいなくなったため、新しい顧客を探さなければならない。新しい顧客を探すためには、従来のように下請けポジションで「必死になってがんばる」だけでなく、「他社にはできない製品を作る」ということを行わなければならなくなった。危機感をもってそういった取り組みを続けてきた企業は、今では下請け時代よりもはるかに高い技術力と提案力をもって売上を伸ばしている。

こういった状況になると、逆に、海外に拠点を移したために、これまでのような下請けの厚い支援を受けることができなくなった耐久消費財メーカーが、国内の中小企業に技術を学びに来るという事例もある。事実、京都にある従業員40名の部品加工業が自社工場で大手向けに技術セミナーを開催したところ、大手メーカーの技術者の申込が殺到して、当初予定の3倍の申込があった。こういった技術力を持つ企業は、もはや「下請け」とは呼べない。

消費財メーカーが本来考えるべき内容は、調達コストではなく、サプライチェーンである。サプライチェーンの公式は、言わずと知れたQ(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)である。ブランドとか信頼性を優先する限りは、常にQ(品質)を軸にして考えるべきである。C(コスト)を優先して構築されたサプライチェーンによって生産された消費財が戦う土俵は、ハイエンドではなくローエンドであることは言うまでもない。

今こそ、日本の消費財メーカーは再び、日本の中小企業の技術力に再び注目しなければならない。すでに下請けでなくなった中小企業の技術力は、かつてよりもさらに高まっている。再び日本の偉大なる中小企業の技術力と組むことによって、日本の消費財メーカーは世界を席巻することができるはずである。