今回はスタートアップ段階の企業に対するコンサルティング業務を事例にターゲティングについてお話ししたいと思います。
クライアント企業のプロフィールを簡単に紹介しておくと、従業員3名、メイン事業はサービス業、起業後4ヶ月経過時点でBEP(損益分岐点:客数ベースで300人/1ヶ月)に対する達成率が30%程度と非常に苦戦している企業です。
開業したそもそものきっかけは、海外で成功していて日本にはまだないビジネスを日本でも展開すれば先行者利益が得られるのではないかというものです。
手持ち資金も少なく、金融機関からの借り入れもリスクを避けるために行わず、初期投資を最小限に抑えて開業しました。金融機関からの借り入れなしで開業までこぎつけたことはすばらしいことだと思います。しかしその弊害として短期、長期ともに事業計画には一切触れないままビジネスがスタートしてしまった、でも客数が伸びない、売上が上がらないという状況でのオファーでした。
キックオフ後、すぐにデータを拝見しました。データといっても月次のPLのようなものや指標化されたようなものはもちろんなく、レジ通過客の生データを拝見したのですが、そういった状況の中で唯一幸運だったのは、顧客についてだけは利用日時、属性、グループ人数、接触したプロモーション媒体、利用した割引クーポンなどの比較的詳細なデータが収集されていたことです。これらのデータから明らかになったことは、客数が少ないために、利用して欲しい客層(ターゲット)のレスポンス率の向上ではなく母数の拡大を志向した全方位型のプロモーションになってしまっていること(プロモーション頻度、広告掲載媒体数の増加など)、割引クーポンの乱発によって売上に占める割引率が30%を超えてしまっていること、ほとんど客が来ない時間帯でも通常と同じように営業してしまっていることの3つです。
母数の拡大、割引クーポンの乱発に頼り、日本ではまだ珍しいこのサービスの魅力を十分顧客に伝えてこなかったため、サービス事業の土台となる【リピート客】はほんの一握りしか獲得できていません。また、営業時間を一律にしていることでBEPが上昇しています。この時点での課題は、そもそも“顧客像を明確に描いていない”、もしくは“ターゲットとする顧客群へ効果的にメッセージを伝えられていない”といったことだと捉えられます。前者はセグメント、ターゲティングといったレベルでの課題、後者はマーケティングの4Pのうちプロモーションの領域での課題です。
また既に実施されている様々な取り組み、例えば飲食スペースの併設、ファミリーチケットの販売などもずれたものになってしまっていました。飲食スペースではアルコール、ソフトドリンク、スナック、ミールとあらゆるものを揃えてはいるのですが、誰に利用して欲しいのかは明確ではありません。ファミリーチケットも“大人2名、子供2名”の利用を想定しているのですが、商圏内にファミリーチケットを利用する可能性がある世帯(4人以上の世帯)は4分の1しかありません。これは“顧客像を明確に描いていない”というセグメント、ターゲティングのレベルでの課題なのではないかと思われました。
以上の現状認識のフェーズから提案のフェーズに移って、まず真っ先に顧客を絞り込む作業を行いました。具体的な内容は避けますが、顧客を明確にすると、営業時間も、広告を掲載する媒体も、広告の内容も、提供する飲食メニューなども一貫して変更が必要になりましたが、全体としてはリソースが少ない企業らしく非常に分かりやすいビジネスになったと私は思っています。
最初は客数が減少するのでもちろん反発もありましたが、損益分岐点が下がって、コストを効率的・効果的に使用できるようになり、現在、単月では利益が出せる体質になってきたようです。
みなさんも自社・自部門の顧客像をはっきりと把握した上で、効率的・効果的なビジネスに取り組んでいただきたいと思います。
(この記事は2008年3月25日に初掲載されたものです。)