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Under Armourの逆転マーケティング

プロ野球が開幕して、早一ヶ月。1年で最も楽しい季節が始まった。
だが、筆者には特に贔屓のチームはない。
ただ野球を眺めながら、ビールを飲みたいだけである。

昨今のプロ野球を見ていて、数年前まで考えられなかったことがある。
それは、ユニフォームのサプライヤーだ。
ジャイアンツのホームのユニフォームにはサプライヤーであるadidasのロゴがプリントされている。
ライオンズにはNIKEのロゴが・・・NIKE(約2兆円)もadidas(約1.2兆円)も売上高1兆円を超えるグローバルメーカーである。
ガリバーである2社のNPB市場進出には驚かされた。
それまでのNPBといえば、アシックス、ミズノ、デサント、ゼット等の国内メーカーであった。
まさに黒船来襲である。

サプライヤーにはチームサプライヤー契約とパーソナルサプライヤー契約がある。
こちらは特に用具に関して結ばれるものが多い。
NIKEやadidasはスパイクでのパーソナル契約によりジワジワと日本野球市場のシェアを獲得してきた。
スパイクが海外メーカーなのは合点がいく。
NIKEもadidasも普段の生活から身近にあるのだから。(筆者の靴箱も両ブランドが並んでいる。)

ここでもう一度、プロ野球選手の姿を想像してほしい。
その姿に見慣れないマークがあるがあるはずだ。『H(正確にはUとAの組文字)』のようなマーク。
こちらのロゴマークを採用しているのは『Under Armour』というメーカーである。(NPBでは阿部慎之介選手が契約をしている。)
本コラムを読んでいる読者の中で、ゴルフをされている方なら、身近なゴルフ友達(もしくは貴方自身が)で、この『Under Armour』のウエアを着用しているかもしれない。

『Under Armour』はスポーツマーケットにおいては異例中の異例である。
比較的、老舗が多いマーケットにおいて、その歴史は新しすぎるのだ。
『Under Armour』の歴史は1996年、メリーランドで生まれた。
創業者であるケビン・ブランク氏が、自身のスポーツ経験を踏まえ、従来までのコットンTシャツの代替になるウエアを開発したことから始まった。
その商品が『Under Armour』の代名詞である、『コンプレッションウエア』である。
従来までのスポーツウエアは機動性と通気性を実現するために、割とリラックスしたシルエットのものが多かった。
ケビン・ブランク氏は「セカンドスキン」という理論を軸に、従来までのスポーツウエアの反対である「密着」により、機動性と通気性を求めたのである。
密着による効果はそれだけにとどまらない。
筋肉を圧迫し、まるで外骨格のような役割をウエアが果たすことで、より高いパフォーマンスを発揮することができるのだ。
『コンプレッションウエア』の優れた機能はプロフェッショナルアスリートだけでなく、スポーツフリークの間で爆発的に流行した。
「コンプレッションウエア=Under Armour」という図式がスポーツマーケットのイノベーター・アダプターのなかで確立し、その勢いはフォロワーも巻き込んだ。
まさにマーケットが生まれた瞬間である。
コンプレッションウエアマーケットが急成長は続き、現在はNIKE(PRO COMBAT)・adidas(Tech-Fit)の両ガリバーは当たり前のこと、
複数のメーカーがコンプレッションウエアマーケットに参入している。
だが、『Under Armour』のファーストインセンティブは大きく、コンプレッション界のガリバーは揺るぎ無い。
『Under Armour』はドル箱であるコンプレッションウエアで得た利益を元に、その他のマーケット(近年ではシューズ事業)に進出している。

現在では、多くのスポーツファンに「Under Armour」はスポーツファッションのお洒落とみなされている。
果たしてお洒落であろうか・・・?
「Under Armour」は機能を追及した結果であり、従来までの考え方の逆を実行したのだ。
当時のマーケットからはお洒落と程遠い位置づけだったと推測する。(異端の存在だったとも言える。)
「Under Armour」が実行したことは、自分たちが考える価値を貫いた結果、
ファンが生まれ、マーケットが生まれ、圧倒的なリーダーとなり、大衆はその価値観を正義と認めただけではなかろうか?
「コンプレッショウエア」の様な巨大マーケット(ガリバーが参入する程のマーケット)は、まれな例である。
しかし現在、流通している商品(主流)と全く逆位置の価値観を正義として、商品(財とサービス)開発ができないか?を考えてみるのも面白い。

マーケットが生まれた瞬間、そのカテゴリはメーカーの名前となるのだから、夢はどんどん膨らむ。そんなことを考えながら、野球にビールが旨い。