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なんと、200円でも大人気! セレブ御用達飲料のナゾに迫る!

(有限会社金森マーケティング事務所 取締役 金森 努)

赤や黄色や緑のビビットカラーが目にも鮮やかな「グラソービタミンウォーター」。NY生まれのセレブ御用達飲料という触れ込みで、都内各地で大規模なサンプリングやイベントキャンペーンを展開し大人気。7月からの販売実績も好調だという。

【グラソービタミンウォーター ブランドサイト】
http://glaceau.jp/

■ こんな商品

真っ赤なかき氷シロップにそっくりな「power-Cドラゴンフルーツ(ビタミンC+果糖)」を試してみた。味は液体の激しい色とは裏腹に、やはり「ウォーター」なのでほんのり薄甘~い味である。例えていうなら「イチゴシロップのかき氷を食べずに放置しておいたら溶けちゃって、もったいないからその水を飲んでみたら薄甘かった」…ってな感じである。

■ こんな価格

そんなProductであるのだが、Priceが特徴的なのだ。なんと、200円。ウォーターということであれば、ミネラルウォーターの相場は500ml で100円~140円。清涼飲料の相場は150円。「ただの水にさよなら」とのコピーがあるので、清涼飲料に属する商品であるのだろうが、それにしても 50円分さらにプレミアムが設定されていることになる。

■ 商品の価値構造と価格構造を分解して考えてみる

この商品がもたらす価値と、その価値がどのように価格に反映されているのかをフレームワークで考えてみたい。フィリップ・コトラーの「製品特性3層モデル」を用いる。

その商品を手に入れることで実現したい「中核価値」は、飲料であるので「喉の渇きを癒す」である。これは単なるミネラルウォーターでも実現できるので、100円分の価値と考えよう。

その中核価値を、どのように実現できるのかという価値を「実体価値」という。5種類のフレーバーが楽しめ、不足しがちなビタミンやミネラルなどの栄養素が添加されているため、手軽に摂取できること。さらに保存料・合成甘味料・合成着色料を一切使わず、水も純水使用でカラダに安心して摂取できるということ。つまり、味と機能性と安心感が「実体価値」であり、それは一般の清涼飲料と同じく50円分に相当すると考えられる。合計150円だ。

200円という価格のあと50円分を占めるのが「付随機能」である。付随機能は、それがなくとも「中核価値」に影響は及ぼさないが、存在することでより魅力を高める要素である。

NYのセレブが愛飲していて、カンヌ国際映画祭で併催されたイベントではパリス・ヒルトンやマライア・キャリーが登場したという、セレブ御用達というキーワードに弱い日本人好みの要素がまず挙げられる。商品のパッケージもいかにも洋モノなオシャレな雰囲気を漂わせている。

しかし、ちょっとしたユーモアも隠されており、5つのフレーバー各々をテーマにしたショートストーリーが記載されており、楽しい気分を盛り上げる。都内各地で繰り広げられたサンプリングやイベントで話題になり、参加したりサンプルを手にしたりした人がBlogやSNSで書き綴ってさらに話題を盛り上げる。その「流行に乗っている感」も重要だ。つまり、この商品の「付随機能」と50円分のプレミアムは「気分」に由来するところが大きいのがわかる。

■ イノベーション論で考えてみる

上記の通り、グラソービタミンウォーターの価値構造と価格のプレミアム部分で重要なのは「気分」に起因するところが大きい。その気分に乗ってサンプルを受け取るだけではなく、200円を払って実際に商品を購入しているのはどんな人々だろうか。

E.M.ロジャースのイノベーション普及論でいうところの「イノベーター(Innovators=革新的採用者)」であろう。しかし、新しいものにすぐ飛びつく「イノベーター(Innovators=革新的採用者)」が採用しただけでは普及は継続しない。そもそも、ロジャースによれば、市場にイノベーターは2.5%しか存在しないとしている。

その価値を正しく理解し採用する層を「アーリーアダプター(Early Adopters=初期採用者)」という。市場に13.5%存在し、自ら情報収集を人への伝達力も強いことから、この層が採用すると、市場全体への浸透が加速するといわれている。

続いて採用する層は「アーリーマジョリティ(Early Majority=前期採用者)」である。比較的慎重派な行動を取るが、平均より早くに新しいものを取り入れる傾向がある。市場全体に34.0%存在するといわれているここまで取り込めれば、市場の半数を抑えたことになる。

■ スキミングプライシング:値段を下げて順次ターゲットを拡大する?

新商品の展開において明らかな差別化要因をもってイノベーター層を取り込み、プレミアム価格をもって展開する価格設定を「スキミングプライシング(Skimming Pricing=上澄み吸収価格設定)」という。読んで字の如く、市場の上澄みのオイシイところを吸収し、さっさと投資回収をするのがキモである。

しかし、サンプリングやイベントに投下した費用は莫大であり、なかなか回収できるものではない。だとすると、もっとターゲット層を拡大する必要がある。

新商品の価格設定で対極にあるのが「ペネトレーションプライシング(Penetration Pricing=市場浸透価格設定)」である。収支ギリギリの低価格で一気に市場に浸透させシェアを確保することを目的とする手法だ。

その場合、最初から収支ギリギリなので価格は下げられない。幅広いターゲットに一気に浸透させてシェアを取ることがキモなのだ。逆にスキミングはターゲットを見極め、普及状況を考慮して段階的に値下げをして裾野を広げていくことができるのである。

■ グラソービタミンウォーターの今後の展開

現状、商品を販売しているのは都内の一部スーパーと自販機に限定されているが、8月中にはコンビニエンスストアと自販機の取扱を拡大するようだ。

今はイノベーター層が200円のプレミアム価格で「気分」よく購入している状況。今後は販売チャネルや販売地域を拡大しつつターゲットの裾野を広げていくことが考えられる。すると、前述のように順次値下げも考えられるのだ。

セレブでオシャレで楽しい気分にさせてくれるグラソービタミンウォーター。その気分に消費者が慣れて、ブームも沈静化して、やがてフツーの清涼飲料化するかもしれない。コンビニや自販機にフツーに並ぶ頃、価格もフツーの150円になっているかもしれない。

しかし、その頃にはまた、次なる仕掛けが動き始めているに違いない。そんなことを考えるのも楽しい。しばらくは楽しい気分に乗って200円払って飲んでみるのもいいだろう。

さて、ここまで一気に書き上げて少々疲れてしまった。そんな時には「energy kick トロピカルシトラス ビタミンB6+ガラナ+カフェイン」だ。さて、お味は…う~ん、水で薄めたうす~いオレンジジュースの味がする…。