(有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー 松尾 順)
CRM(Customer Relationship Management)とは、端的には、「非顧客(潜在顧客)」から「ロイヤル顧客」へと変換していくプロセス(獲得→育成→維持)を適切にコントロールすることだと言えます。
さて、CRMの直接かつ最大の目的は、「ロイヤル顧客」をいかに増やすかです。(究極の目的はもちろん「収益確保」ですね)
この「ロイヤル顧客」とは、継続的に繰り返し商品を購入してくれる「優良顧客」であるというだけでなく、自社商品(あるいは店舗等)に対して、「これじゃなきゃいやだ」と強い思い入れを持ってくれ、また「いい製品・サービスをありがとう」と感謝の気持ちさえ持ってくれているようなお客さんのこと。
したがって、「ロイヤル顧客」とは、好意的なブランドイメージを持っている
優良顧客であるという定義が可能でしょう。
こうしたお客さんは、原材料の高騰等によるやむをえない値上げや、トラブルや不祥事発生時にも、誠意を尽くして説明・対応すれば、喜んで受け入れてくれ、簡単に離れていくことはありません。
しかも、しばしば口コミで良質なお客さんを増やす、優秀な営業パーソンの役割まで果たしてくれます。
ですから、CRMの直接かつ最大の目的が、こうした「ロイヤル顧客」をいかに増やすかということになるというわけです。
では、実際どうやってロイヤル顧客を増やしたらいいのでしょうか?
「丸の内ブランドフォーラム」代表の片平秀貴氏によれば、次の2つのポイントがあります。
1. 驚き
2. アイコンタクト
以下それぞれについて詳述します。
【1. 驚き】
定番は押えつつも、ちょっとした「驚き」を継続的に提供することがロイヤル顧客増加に効果があります。
「驚き」は、他社がやっていないような仕掛けや新しいことを行うことで生み出します。
例えば、ペプシコーラが時々発売する「変な味のペプシ」(「しそ味」や「あずき味」など)は、始めから「キワモノ」で終わることを前提で開発しています。
ですから、変り種コーラは、「ペプシがまた新しいことを仕掛けてきたな!」という「驚き」の創出だけが目的であり、「短期的な収益」にはマイナスながら、長期的にはロイヤル顧客の増加に一役買っているブランディング施策として位置づけられるでしょう。
また、繁盛している飲食店では、しばしば適切な減価率を無視した「驚きのメニュー」を提供して、ロイヤル顧客を増やすことに成功していることが多いですね。
例えば、札幌市の居酒屋「はちきょう」では、自家製のイクラのしょうゆ漬けを丼からあふれそうなくらい山盛りにした「つっこ飯」が大人気だそうです。
このメニューを客が注文すると、「『つっこ飯』まいります!」とスタッフが大声で宣言。客の目の前で、イクラを丼にどんどん盛っていく。盛られるイクラの量は300グラム。原価率は60%を超えるようです。
山盛りイクラの迫力に客は驚き、周囲のお客さんも次々と注文してしまうとのこと。
【2. アイコンタクト】
アイコンタクトの核となるのは、「おもてなしの心」です。
まず大事なのは、お客さんを「個」として認識すること。
常連さんなら、ちゃんと名前で呼びかける。
「松尾さん、いつもありがとうございます!」
たったこれだけの言葉が、客にとってどんなにうれしいか!
(逆だとガッカリ)
不思議なことに、常連でなくても
「いつもありがとうございます」と言われると、
(いつもじゃないけど・・・)
と内心思いつつも、なぜか心地よいのです。
そして、もちろん実際の会話においては、目線をきちんと合わせて、お客さんの話を聴くことを大切にする。
これは当たり前のことのようですが、現実には、決まり文句をロボットのように繰り返すだけのスタッフ、目線を合わせず、客の言葉をなにげに聞き流す無礼千万なスタッフがあちこちのお店にいますよね。
この「アイコンタクト」の考え方は、リアルな顧客接点においてのみの話ではありません。
顔が見えない、電話でのやりとりを行うコールセンターや、非同期のコミュニケーションであるWebサイトやダイレクトメール(eメール)においても重要です。
Webサイトやメールを通じても、この企業には、おもてなしの心が感じられ、個客(の違い)を識別しており、カスタマイズされた適切なやりとりができるという感覚をお客さんに与える必要があるのです。
片平氏によれば、「驚き」と「アイコンタクト」によって、「ちょっとうれしい」という感情がお客さんに湧きあがる。その結果、当該製品・サービスに対する好意的なブランドイメージが形成されます。
そして、この好意的なブランドイメージを持つことにより、「優良顧客」が「ロイヤル顧客」へと進化するというわけです。
なお、片平氏は、「ロイヤル顧客」と同じ意味で「ファン顧客」という表現を用いています。ブランドの視点を加味するなら、「ファン顧客」という表現のほうが、わかりやすいかもしれませんね。
※片平氏の話は以下の基調講演を元にしています。
SPSS DIRECTIONS Japan 209
『巨大顧客データベースと絆づくり
:顧客の心を読み、ブランドの心を伝える』
丸の内ブランドフォーラム代表 片平秀貴氏
※札幌市の居酒屋「はちきょう」の事例は、
日経MJの記事(2009/10/23)が出所です。
(この記事は2009年11月6日に初掲載されたものです。)