MENU
×

MENU

お問い合わせ マイページ

このまま凋落していくのみ? ドバイが生き残る術はあるのか

▼『人が集まる多角化戦略のポイント 2024年時流予測レポート』 無料ダウンロードはこちら
人が集まる多角化戦略のポイント

富裕層ビジネスを考えていく際、日本国内だけでなく、広くグローバルにも視野を拡げていくことは多くの経営者にとっても必要なことである。

今回は、世界中から富裕層や投資家が集まる国として数年前から多くの話題を提供してきた中東地域のドバイを取り上げてみようと思う。

■ リーマンショック後、急速に勢いを失ったドバイ

昨年11月末、ドバイ関連のニュースが再び世界を駆け巡った。ドバイとは、UAE(アラブ首長国連邦)を構成する7つの首長国(首都はアブダビ)の1つであるが、そのドバイの政府系持ち株会社であるドバイ・ワールドが12月14日に償還期限の迫っている約35億ドルの債権(イスラム債)の支払い猶予を債権者に要請したというのである。

ドバイ・ワールドの債権の大半は、このドバイ・ワールドが持ち株会社として持つ約20社のうちの1社で、大手不動産開発会社のナキール社のものであるが、この35億ドルの債権以外にも、ドバイ・ワールドは約590臆ドルの債務を抱え、その大半はナキール社に帰属していると言われている。

ナキール社をご存知ない方も多いと思うが、ベッカムやビルゲイツ、シューマッハなど世界の多くの著名人が、椰子の木の形をした島のパーム・ジュメイラや、複数の島からなり世界地図の形をしたザ・ワールドに建てられた高級別荘を購入したという話なら、おそらく聞いたことがある人も多いのではないだろうか。

ナキール社は、まさにこのパーム・ジュメイラやザ・ワールドを開発した政府系の不動産開発会社である。私も昨年のリーマンショック直前にドバイを訪れ、パーム・ジュメイラも実際に、この目で見てきた。このとき多くの開発現場ではクレーンがフル稼働状態でドバイにはまだ活気と躍動感が感じられた。

しかし、金融危機の直後からドバイはその勢いを急激に失っていく。私も定期的にドバイの知人や情報機関から現地の情報を収集しているが、つい先日もドバイで複数の企業を経営する経営者兼投資家と情報交換した際に彼が言っていたことは、「多くの不動産開発事業が途中でストップしている」、「出稼ぎ労働者も減り、ドバイ市内の交通渋滞が緩和された」、「タクシーを待つ人の列が短くなった」ということであった。

ただ、商業施設は地元の人を中心にそれなりに賑わっており、客足が激減しているといったほどではないとのことであったが、ドバイの経済全体が大きく停滞していることは紛れもない事実であり、この停滞はこの先も当分は続くことが予想される。

2004年にドイツからドバイに移り住んだ知人の経営者も、ドバイにいくつかの会社は残しつつ、その軸足をドバイから中央アジアやその他地域に移すなどの動きを見せている。

■ 「地域」と捉えることで、中東全体のメリットにつなげる

では、「ドバイという国はこの先、砂上の楼閣として終焉を迎えるのか?」、この問いに「Yes!」と答える人も多いだろう。確かにその可能性もゼロではないのかもしれない。しかし、私はいくつかのポイントから、必ずしも最悪のシナリオばかりを考える必要はないのではと考えている。そして、その結果が示される時期が、2009年に引き続き2010年の償還期限を迎える向こう半年以内にくるのではないかと考えている。

【半年先を予測する上で注目しておくべき2つのポイント】
ポイント1:ドバイを“単一の首長国”でなく中東の“地域”として考える
ポイント2:ドバイをグローバルビジネスの“ハブ(中継地)”として考える

先ずポイント1の、「ドバイを“単一の首長国”でなく中東の“地域”として考える」ということであるが、これはドバイを考える際、一つの首長国であるドバイだけを見て結論を出すことは片手落ちであるということである。

このことは、私が10月に出版した「ビリオネアビジネスの極意」(KKベストセラーズ)の中でも少し触れているところでもあるが、ドバイを考える際、合わせて、UAEの首都アブダビなど他の首長国や、サウジアラビア、オマーンといったドバイ以外の他の近隣諸国も含めた中東地域からドバイの行く末を捉えていかなければならないと考える。

先にも述べたドバイ・ワールドの債権の償還期限が12月14日と迫っていた件で、直前にUAEの首長国の一つアブダビがドバイに対して合計100億ドルの支援を決定し、ドバイはこの危機を回避することができた。実は今年(2009年)の2月にもドバイはアブダビから100億円を借りることで危機を回避している。一部には今回、アブダビはドバイに金融支援をすることに嫌気がさしているのではないかとの憶測もあり、直前までその動向が注目されたが、結局のところアブダビはドバイに対しての支援を行った。

これに加えて12月21日のロイターによると、引き続き2010年に償還期限を迎えるドバイの債務に対しても、アラブ首長国連邦のマンスーリ経済相は、ドバイへの支援に対して前向きな姿勢を示しているとのことである。この記事に書かれていたマンスーリ経済相のコメントは私にとっても大変興味深いものであった。

それは、今回のドバイの問題に対しては、UAE政府が連邦レベルとして、もしくはアブダビ政府が地域レベルとしての回答を出すというものであり、マンスーリ経済相からは、「なぜなら、われわれは互いに切り離すことができないひとつの経済という認識を持っている」とコメントしている。そして、この考え方、方針こそがドバイを「単一首長国」でなく中東の「地域」として捉えていることを表している。

サウジアラビアやアブダビのような天然資源大国と比較して、資源が乏しいドバイでは、これまで脱石油戦略により国を発展させてきたが、実はそれがドバイだけでなく、中東地域そのもののブランド価値を向上させることに貢献してきたと言えるのではないか。

もしドバイが破綻するようなことになれば、それはドバイだけの問題に留まらず、中東地域全体の問題に波及し、今後の同地域全体の発展と安定にも少なからず影響を及ぼすことが懸念される。他の湾岸諸国なども、ここ最近ドバイに続けと積極的な投資、開発を進めており、今ここでドバイを凋落させることは自分たちにとっても得策ではなく、逆にドバイを活かしていくことが中長期的に見ても自国を含む中東地域全体のメリットになると考えているのではないだろうか。

■ 「ハブ(中継地)」としての役割

では、ドバイの何を活かしていくことがドバイ復活の鍵となりえるのか。これがもう1つのドバイの凋落を回避していくためのポイントとなるのだが、それは「ドバイをグローバルビジネスの“ハブ(中継地)”として考える」ということである。

先にも述べたように、ドバイは当初から石油をはじめとした天然資源が少なく、中東の近隣諸国と比較しても、早くから脱石油戦略を積極的に進めている地域のひとつであった。

その脱石油に向けた主要な戦略のひとつが、積極的な「外資企業の誘致策」であり、ドバイでは、所得税、法人税、消費税などが一切かからないことは周知の事実である。1985年、ドバイに設立された経済特区の「ジュベル・アリ・フリーゾーン」では、中東でも最大の港湾設備を有し、100%独資での企業設立も可能なことから、世界から多数の企業が進出してきた。

また、金融特区ではドバイ国際金融センター(DIFC)が設立され、同地域の金融機能の発展に大きく貢献している。

これら他の中東諸国に先駆けて整備されてきたインフラを今後も最大限に活かしていくメリットは十分にあると考える。例えば日本企業がドバイをハブ(中継地)として活用していく場合、以下のような方向性が考えられるのではないか。

【日本企業のドバイ活用例】
[1]ドバイの経済特区を経由させた製品の第三国(アフリカ、ロシア、中央アジア等)への輸出
[2]ドバイでの中東ビジネスの成功を足掛りにしたインドなど第三国へのビジネス展開
[3]中東地域の市場そのものをターゲットにしたビジネス展開

[1]はジュベル・アリ・フリーゾーンのような経済特区を経由した第三国の市場への輸出を行っていくことである。例えば、私が業務でよく訪れる中央アジア(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタンなど)で目にする高付加価値製品の多くは、ドバイ経由で入ってきている。

[2]について、ドバイではインド人が全人口の約6~7割を占めている。日本企業も中国やベトナムなどと併せてインドへの関心を高めているが、インドへ向けたビジネス環境が整っているドバイを足掛りにして、インドへのコネクションをつけ、ドバイから東方のインド市場を狙うといった、ドバイ発ルックイーストのグローバル戦略を立てている企業もすでに少なからず存在している。これはインドに限らず、中東の近隣諸国へのビジネス展開にも同じことが当てはまる。

[3]に関しては、中東地域は、日本の多くの企業にとってまだまだ遠い異国の地といった印象が強いが、例えば、エジプトの人口は7200万人、サウジアラビアでは2300万人であり、天然資源も豊富でオイルマネーで潤った中東地域は今後魅力的な市場として捉えることができる。

ドバイが2010年の債務の償還期限をどう迎えるのか、そして今後、多くの雑誌が「ドバイがやばい」と書きたてたようにそのまま坂を転がり落ちるように凋落していくのか、片や生き残る術を見出していくのか、先に述べた「半年先を予測する上で注目しておくべき2つのポイント」を念頭に注視していくこととしたい。

▼『人が集まる多角化戦略のポイント 2024年時流予測レポート』 無料ダウンロードはこちら
人が集まる多角化戦略のポイント