今回は、ITILについて解説します。
ITに関わる方々にとっては、ITILというキーワードはもうかなり浸透していると思います。
何を今更、とお感じになる関係者の方もいらっしゃるかと思いますが、あえてここでITILについて述べるのは、誤解が多いと感じるからです。
ITILについて、プロセス論、あるいは組織論といった表現をされることもありますが、実際には、ITILというライブラリに記述されているプロセス論や組織論の多くは然程真新しいものではなく、ITILなど意識していなかった多くのITサービス提供者において既に実装されているか、あるいは少なくとも検討されていた内容と言えます。
よって、ITILを先進事例の参考書として、さも画期的なプロセスモデルなどが出てくるものと捉えると、拍子抜けすることになります。
では、ITILの正しい捉え方とはいかなるものでしょうか。
ITILとは、端的に表現すると以下のようなコンセプトと言えます。
■従来、ITサービス提供者の内部論理が中心だったITサービスの品質を、顧客志向にパラダイムシフトするコンセプト
つまり、顧客とのサービス品質に関する合意であるSLAを起点に、内部態勢(組織とプロセス)を従属させる考え方に変えよう、と言っているだけなのです。
ゆえに、ITILで記述されているインシデント管理や問題管理などの各論を引っ張ってギャップを分析し、端的にあれがよくない、これはOKなどと言うことにはあまり意味がありません。あくまで、顧客志向のSLAが内部態勢のトップに位置しているかが問題なのです。
とかくSLAの締結というと、顧客に優位性を与え、サービス提供者に不利なものと捉えられがちですが、それも誤った認識です。
SLAを締結するということは、上記に従って考えれば、顧客満足に直接的に影響する要素を抽出し、その要素のみにおいてサービス品質をコミットすることを意味します。
ですから、SLAの締結は、ITサービス業者にとっても、SLAとして合意された要素にのみ対応を注力すればよく、結果、自社態勢を安定化させ、ローコストオペレーションを実現する基盤となるのです。
しかし残念ながら、現状一般的にSLAとして提示されている内容のほとんどは、顧客志向のSLAが内部態勢のトップに位置するロジックになっていません。
SLAはSLAとしてよくある事例のもの(例えばサーバアベイラビリティ99.5%など)を提示し、内部態勢は、それとは別の自社内部の論理でやっています、となっているのです。
このやり方では、顧客の満足要素とSLAを直接的に結びつけることができず、よもや言われた通りにやっているのに顧客満足度が上がらない、といったことが往々に起き、また、場合によって拡散する顧客要求にベストエフォートで対応するために内部態勢が歪み、思うようにコスト削減が図れない、といった長らくIT業界が抱える課題に行き着くことになります。
逆に考えれば、顧客志向に絞り込まれたSLAを内部態勢のトップに位置づけることができれば、顧客満足とコスト削減を一挙両立できる可能性をも秘めていると言えます。
実際には、ここに自社組織の戦略やポジショニングが前提として入ることで、顧客満足の拡大を志向するSLAにコストをかけて内部態勢を合わせるか、SLAをクリティカルな顧客満足要素に絞り込み、内部態勢のスリム化によるローコストオペレーションを志向するかの方向性が確定されることになります。
次回は、SLAの設計について解説します。
(この記事は2008年3月29日に初掲載されたものです。)