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金融機関との付き合い方を考える

企業と金融機関との関係についての話をしていきます。
私は、船井総研における金融機関様との連携窓口を実施している関係で、業界の方々とお話をさせていただく機会も多々あります。そのような関係から、よく、経営者の方々からも金融機関とどのように付き合えばよいかというような質問もあります。そこで、以下に金融機関がどのような発想や思考で、企業にお金を貸し出すかということに、注目してみましょう。

金融機関の思考を知ること
まず、皆様に知っていただきたいことは、金融機関は、「お金を貸すことにより収益を上げる」という営利法人であることです。これだけみれば、お金と商品やサービスの違いはあれ、一般企業との大差ありません。ただし、大きな違いは、ここに金融庁がからんでくることです。この金融庁の方針にのっとって企業融資をおこなっているということを大前提に考える必要があります。仮にこの方針に逆らった銀行経営や貸し出しをしていると、業務停止に追い込まれるということもあります。

銀行の思考を知りたければ、金融庁の監査方針を知ること
この方針というのが「監査方針」です。金融庁監査というのは、池井戸潤氏による小説「半沢直樹シリーズ」で知ったという人も少なくないでしょう。金融機関は、この金融庁の方針と監査に非常に神経質です。これを知るには、バブル崩壊以降の金融庁の方針について知っておくことが必要です。

まず、なぜバブル崩壊が起こったから入りましょう。簡単には、1980年後半から銀行が企業にお金を貸しまくったところが一つの原因です。本来、融資は、その目的が非常に重要です。しかし、バブルのころは、急速な土地や株の値上がりがあり、本業への融資でなく、企業がそれらの、土地や証券など、本業に関わりのない部分にもお金をドンドン貸したことが非常に大きかったといえるでしょう。

そのため、バブルが崩壊した1991年以降、「不良債権」を一掃することが、日本の国際的信用を取り戻す重要な国の指針となりました。そこで、バブル崩壊以降、金融庁の金融機関に対する監査方針が厳しくなったのはご存知のとおりです。まず、担保につりあっていない融資や返済の見込みのない借金は、金融機関によって損切り(=不良債権処理)が一斉に行われました。そのため、企業の倒産も相次ぎました。

その中で一つ注目しておきたいことは、金融機関の能力変化です。特に大きな変化の一つが、短期の資金繰り融資に対する方針であったと思っています。ご存知ない方も多いと思いますが、15~20年前までは、短期の資金繰り融資は基本返さなくても良いお金といわれていました。銀行から借りているのに返さなくてもよいというのは不思議に聞こえるかもしれませんが、本当の話です。

金融機関は、返済期限がくると、必ず同額を折り返し資金として融資するため、継続的にその企業の資金繰りに入り込んでいました。一定の利息は、当然払いますが、もはやそれは企業のお金の一部です。そのため、行員は、企業の資金繰りチェックの能力も求められていました。毎月の資金繰りがおかしくなっていないか、企業の管理もしっかりおこなっていく力が必要でした。つまり、企業をしっかり見極める力が必要だったということです。

金融機関の能力・機能変化
しかし、バブル崩壊以降は、その短期融資に関しても担保がないと貸し出し枠を与えないようにというような方針となり、担保を求めるようになったのです。そのため、行員は、担保さえとれれば企業をみなくともお金は貸し、逆に担保がなければ、どんなにニーズがあっても貸さないという形に変わりました。

これにより、銀行の企業先管理の方法も劇的に変化します。それまでは、1人が対応する法人先数は100軒ほどでした。それが担保主義による企業チェックの簡素化と決算書のシステムによる自動診断、そしてリストラの方針とあいまって、1人の管理先数は倍の200軒以上となりました。これでは、1社1社の企業をしっかりとみるどころではありません。

ひどいところは、年に1回、決算書ができたときにしか訪問しないという先も出るくらいです。これでは、企業をしっかり見て貸せというほうが無理です。しかしながら、金融庁の方針が、不良債権の一掃と正常化に主眼が置かれていたため、しかたないことともいえるでしょう。

金融庁の方針が大転換
しかし、ここで大きな変化がありました。それが、平成26年9月に金融庁より出された基本方針の変更内容です。以下は、「金融モニタリング基本方針の概要」の一部を抜粋したものです。

1.顧客ニーズに応える経営
-金融機関が顧客を第一に考え、真に顧客の利益になる金融商品・サービスを提供しているか検証。

■優越的地位の濫用や利益相反が生じていないか。
■手数料や系列関係にとらわれることなく金融商品・サービスが提供されているか。

2.事業性評価に基づく融資等
-企業活動の国際化や人口減少が進展する中、企業・産業が活力を保って経済を牽引することが重要。

■グローバル企業・産業の国際競争力維持・強化。
■人手不足の中、ローカル企業・産業の生産性向上による雇用や賃金の改善。

-銀行等が財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、事業の内容、成長可能性を適切に評価し、融資や助言を行うための取組みを検証。

これが何をいっているかというと簡単には、担保・保証に依存せず、総合的に企業を見て融資を行うこと、そして、融資だけでなくその企業の発展に寄与するサービスを提供することということです。担保主導主義からの劇的な変化です。ちなみにこれらの内容は、金融庁のホームページから誰でもが見れるようになっていますので、ご興味ある方は、チェックしてみてはどうでしょうか。

金融機関の反応
この方針に対する反応は金融機関によって様々です。ある金融機関のトップとお話した時は、明確に不信感を抱いていました。そのポイントは二つです。一つ目が、自民党政権、もしくは安倍政権が変わると、この方針もまた変更になるのではという疑問です。ちなみに、これに対して金融庁の方とお会いした時におききしたのですが、政権が変わってもこの方針は変えないとおっしゃられていましたが…。

少なくとも東京オリンピックがある2020年過ぎまでは、この方針は変わらないだろうということが予測できます。ただし、その後にくる大きな変化時には、どうなるか、疑問が残るところでしょう。もう一点は、金融機関側の問題で、対応できないという現実があることです。先にも述べたように、この20年で、担保に頼った融資を実施してきたため、資金繰りや企業をみる力のある従業員の育成を置き去りにしてきた現実があります。

とくに、地銀や信金クラスでの力のダウンは、否めないでしょう。ここまでの体制にしたのも金融庁であるにも関わらず、今更というのが本音のようです。そのため、いきなり企業の財務及びそれ以外の部分を見て融資判断をするということや、資金繰り表をしっかりチェックして短期融資を実施することを推奨されても、すぐにできない実態があります。

企業にとっては大きなチャンスと捉えること
ただし、金融庁の方針であり、これには逆らえない金融機関は、現在、必死で「事業性評価」の方法を検討中です。船井総研は、多くの中小企業を支援する中で、事業の見方や、その業界の特性、見極めには非常に強い力を持っていると自負しているため、今後、金融機関との連携は、非常に重要と捉えています。そこで、現在、各金融機関は大慌てで、体制を変更しようと様々な試みを実施しています。

企業にとっても、ここはしっかりと見極めてほしいと思っています。各金融機関は、温度差があるものの、押並べて方向性を転換していかなければならないという意識を持っています。ここが重要です。これまでは、どちらかというと上から目線で、担保がなければ融資は難しいですねといっていた時代から、しっかり企業とともに歩むという立ち位置に変更しようとしています。

そのため、今後は、銀行の担当者としっかりコミュニケーションをとっていくことが、重要な時代になりそうです。企業の成長にとって金融機関は欠かせない存在です。今こそ、しっかりとしたパートナーシップを築くチャンスととらえていただければ幸いです。

(この記事は2019年7月に再度更新しました)