「“後追い”から“待伏せ”へ」
前回の記事に書いたマーケティングの視点は、かなりたくさんの方々から質問をいただくことになってしまった。
殆どの質問は、「具体的にどんな風に進めれば良いんですか?」という内容なのだが、こういった質問をもらうたびに、「皆さん忙しくて“考える”時間が無いんだろうなぁ」と思う。
大切なことは、「今、何を“考える”べきなのかを“考える”」ことだ。
少し理解しづらい言い回しかも知れないが、例えば私がクライアントの戦略を策定するコンサルティングを依頼された際に、
「戦略を考える」のではなく、「この企業の戦略を策定するにあたり、何を“考える”必要があるのかを、まずじっくり“考える”」ようにしている、
といったイメージになる。
「“待伏せ”マーケティング」を実践しようと思ったときには、次のようなことを考えるだろう。
今、この商品を買っていただいているお客さまを、ひと括りに整理すると(どんな人たち)なんだろうか?
これが、今の「ターゲット」ということになる。
その「ターゲット」は、これから増えるのか、あるいは減るのか?
増える(減る)と思うのは何故なのか?
その根拠は?
それは本当に起きそうか?
例えば、減ると考えたとき、逆に増えるのはどんな人たち(ターゲット)なのか?
その新しい「ターゲット」は、今の自社の商品を買ってもらえる可能性はあるのか?
このように、“考える”に“考える”を重ねていきながら“待伏せ”るポイントを探るわけだ。
「何を“考える”べきなのかを“考える”」作業を進めていくと、必然的に世の中(外部環境)がどのように変化していくのだろうという命題に辿り着くのだと思う。
例えば、そもそも「格差社会」に移行していくのは必然、と考えていた人と、
「格差社会」は悪政の結果生まれたものだから政治が悪い、と考える人とでは、ことビジネスにおいては大きな差がついてしまう。
今から15年位前、マイクロソフトのWindows95が発売される頃には、
そういったIT技術の向上を背景にグローバル化が加速していくと誰もが思っていたことだ。
日本の高度経済成長がすでに終焉を向かえたことも、当時すでにわかっていたことだ。
簡単に言うと、東京はすでに成長が確信されていた上海といった新たな外敵と戦わなければならない状況になるわけであり、しかも日本の投資余力も限られている。
私自身、決して「格差社会」を肯定したくはないが、力をかけるべきところにかければ必然的にそうなってしまうというのも事実だと思う。
ユニクロ成功のポイントはいろいろと考察されているので、詳細には踏み込まないが、
こういった環境変化(所得の二極化)を恐らく予測していたのはないだろうか。
日本総中流階級の時代から所得の二極化に移行し、高所得者層と低所得者層のボリュームが相対的に増えていくことになることを。
だからこそ、“消費の多様化”という言葉とともに、セグメンテーションを細分化して事業展開されていたファッション業界の常識を覆し、
増える低所得者層すべてをターゲットとして捉えることにした。
それらを本当に具現化させていく事業展開も見事だが、やはりその前提となっている“待伏せ”マーケティングの視点は見逃せないところだ。
かのジャック・ウェルチが言っていたそうだ。
「会社を成長させるときに考えなければならないのはただひとつ。これから伸びていく市場はどこなのかを探り当てて、その市場に参入することだ」
だとすると、新規事業を立ち上げようとする際に、
「自分の会社にある資産(インフラ、商品、人材等)を活用して、どんな事業に参入するべきか」
は、そもそも“考える”スタートが間違っている。
いずれにしても大切なのは、今(まず)「何を“考える”べきなのかを“考える”」ことなのである。