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安易な顧客要求事項把握の引き起こす弊害[マーケティング戦略・営業戦略]

今号は私、中野靖識が担当させていただきます。

私どもは小売業コンサルティングにおいては、「顧客要求事項」を確認することを徹底しております。
顧客を理解していく上では、単純に要求を聞くだけではなく、顧客を理解するための情報をストックし、それを活用した取り組み設計をしていくことが必要であることは言うまでもありません。メーカーを含め、顧客との関係を重要視している企業では、専門部署を設けて定期的な情報収集をしているケースもあります。例えば、顧客プロファイルを実施する場合には、いくつかの必要要件に絞ってデータ収集しているケースがありますが、よく利用される項目は以下のようになります。
(1)顧客別の販売ポテンシャル
(2)顧客特性(デモグラフィック特性、ライフスタイル特性、就労業種特性
   等)
(3)カスタマー・エクイティ
(4)意思決定者
(5)顧客態度
カスタマー・エクティは同名の著書(ローランド・ラスト他著、ダイヤモンド社)が出版されていますので、詳しく知りたいとお考えの方はご一読下さい。既存小売店の場合は、現在の優良顧客のプロファイリングをしてみるとよいでしょう。現在の優良顧客の特性を様々な角度から分析し、同様の特性を持つ顧客をターゲットにしていくことができます。この場合のプロファイルでは、メリットが大きい反面、立案企業サイドが想定しきれない潜在顧客層を見逃してしまう危険性をはらんでいます。識別可能範囲だけではなく、あらゆる可能性を意識して運用していくことがポイントになります。
【顧客の声を収集・反映するための仕組みの重要性】
顧客プロファイルは、ターゲット分析手法であり、基本的にはデータ分析が主になりますが、本来の顧客要求事項は、顧客の声そのものであり、数値データになりにくいユーザーの反響をダイレクトに把握していくことが必要になります。これらを業務に活かしていく上では、「収集する仕組み」と「反映する仕組み」の両方がうまくかみ合っていくことが必要になります。例えば、量販店における店頭アンケートは「収集する仕組み」になり、収集したアンケート結果をまとめて、対応方法を決定し、社員に通達し、決定した行動を意思表示として顧客掲示板に貼り出すことが「反映する仕組み」になります。つまり、顧客情報の収集は業務としての反映の手段であることが前提条件であり、「収集する」だけでは無意味なのです。顧客の声を集めることは行為としては容易ですが、反映の仕組み整備が伴わないと意味がないことになります。

ISO9000:2000では、顧客関連のプロセスという項目で、以下の内容が規定されています。

7.2顧客関連のプロセス
7.2.1 製品に関る顧客要求の明確化
組織は以下のことを確定すること。
a)引渡し並びに引渡し後の活動を含めて顧客によって明示された製品に関する
要求事項
b)顧客によって明示されてはいないが、特定された用途もしくは意図された用
途が既知であるならばそれらの用途に求められる製品の要求事項
c)製品に関る規制上および法的要求事項
d)組織が必要と決定した追加要求事項
7.2.2製品に関する要求事項のレビュー
7.2.3顧客とのコミュニケーション

この規定は、製造業よりの記述になっていますが、製品実現に関する内容で、製品に対する顧客の要求内容を漏らさずに明確化することが目的です。流通・サービス業の場合、モノ以外に顧客認識価値が存在しており、提供プロセスそのものが製品価値の重要な因子であるケースがたくさんあります。つまり、販売店にとっては製造物だけではなく、提供プロセスを含めた商行為も、製品の
範囲と考えていくことが継続的改善には必要であると認識するべきなのです。従って、最終行為の改善を目的とした情報収集を進めていくことが必要になります。顧客とのコミュニケーションは、表面に出てこない顧客の声をどのように収集するのかを決めておくようになっています。よくあるクレーム対応窓口(クレーム対応窓口は各企業とも聞こえが悪いのでお客様相談窓口と表現して総合的に声を収集するスタイルにされています)は顧客情報収集の仕組みではありますが、「8.5.2是正処置」にも組み込まれるべき内容になっています。

8.5.2是正処置
組織は、再発防止するために不適合の発生原因を除去するために処置を講じること。是正処置は遭遇した問題の影響度合いに適切であること。
a)不適合(顧客苦情を含む)の内容を精査する。
b)不適合の発生原因を確定する。
c)不適合が発生しないことを確保するための処置の必要性を評価する。
d)必要とされた処置を決定し、実施する。
e)実施された処置の結果を記録する。
f)実施された是正処置をレビューする。

規格の中では「8.5.2是正処置」以外に「8.5.3予防処置」が規定されており、同じ不適合を繰り返さないように仕組みを持つことが義務づけられています。
「既に発生した不具合を是正すること」が是正処置であり、「まだ問題はないが発生する恐れがある潜在的な不適合を感知し、予防すること」が予防処置になります。細かい社内規定がしきれていない場合は、まず是正処置のステップ(a~f)を参考にして、自社の是正処置の流れを確認することから始めるとよいでしょう。顧客の声を収集・反映する上では、当然直接的接触が最も効果的です。お客様相談窓口を利用して、直接収集することも重要ではありますが、改善要求は少ないものです。一般的には、顧客アンケートやホームページ上の掲示板活用、「天の声カード」の利用等があげられます。紙を経由はするものの、顧客が直接記入するためフィードバックが重要なのですが、反映することを前提とした聞き方をしないとトラブルになります。

改善行為に反映されない不用意なアンケートが潜在的不満を引き出すトリガーになった事例があります。『某スイミングスクールで、受講生の声を収集して改善しようというプロジェクトが開始されました。もともとは運営ソフトや講座内容、付加サービスの改善を前提として利用する予定でした。担当された方は、「とりあえず受講生の満足的と不満足点を聞き出そう」というスタンスでアンケートを作成しました。アンケートを実施し、回収してみると、予想外に施設そのものに対する改善希望が集中しました。
当然、設備投資がかかるため、簡単に反映できませんでした。アンケート実施後、場内掲示板にフィードバックを掲示しましたが、設備に関しては検討中としか出せませんでした。その後、以前よりも多くの受講生から施設そのものに対する不満の声が出るようになり、結果的には受講生の不満感を助長すること
になってしまいました。』
このケースからは、運用目的のハッキリしない顧客情報の収集は、マイナスに作用する可能性が強いことがわかります。顧客の声を聞くことそのものにも意味はありますが、改善に反映するという目的に合わせて上手に聞くということが重要です。よく、「簡単な顧客アンケート」というお話しを耳にしますが、安直に考えると火傷をすることになりますので、きっちりと設計することをお勧めします。