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企業にとっての不動産保有と経営戦略

今回は「戦略コンサルティングレポート」ということで、近年企業にとって不動産を持つ意味が変化しつつあり、巷では CRE 戦略(Corporate Real Estate)といった言葉も飛び交っておりますが、その「企業にとっての不動産保有と経営戦略」というテーマで少しお話をしたいと思います。

これまで我が国では、不動産を持つということが経営戦略上でも有利であると捉えられてきました。

その最大の要因は、不動産は値上がりするものであり、それは長期的には物価の上昇率を上回り、他の資産に比べ有効なインフレヘッジになるからという共通の認識があったという点が挙げられます。

今では我が国の「土地神話」は崩壊し、不動産を保有することそのものがリスクとして認識されるようになってきたわけです。果たして今後、経営戦略上「不動産を保有する」という行為がどのような意味合いを持ってくるのか、またそこに内在するリスクとはどのようなものなのでしょうか。
【不動産市場の構造変化】

我が国においては、バブル崩壊後の長期低迷期の中で、不動産市場もまた大きく構造的な変化を遂げつつあります。もっとも大きな変化は、不動産の価格形成のあり方であると考えられます。

90年代後半の金融機関の不良債権処理を目的とした不動産証券化市場の整備と外資系投資家の参入を契機として、収益性や利便性が重視されるようになりました。

バブル前のように「何もしなくても放っておけば価値が勝手に上がる重宝な資産」ではなくなったといえるでしょう。

更にその当然の結果として「不動産は収益力や市場性によって格差がつく資産」になった事も指摘しなければなりません。最近の地価公示などでみられる地価の二極化現象もその表れの1つといえるでしょう。

また、不動産価格が社会・経済の環境変化を反映して変動しやすくなったという点も挙げられます。景気や金利の変動、不動産市場の需給関係によって賃料や価格が決まるからです。

このように不動産価格の形成について、はバブル以前の市場と比較すると根本的な構造が変化しており、この変化が不動産を保有する事そのもののリスクを鮮明にさせたといえます。

【不動産を持つ事のリスク】

上記のような不動産市場の構造変化によってもたらされたリスクもさることながら、客観的に見ると不動産という資産そのものには他の資産と比較して大きなリスクを内在しているといえます。

それが「価格変動リスク」と「流動性リスク」です。

企業が保有する不動産の時価ベースでの総資産に占める比率は約25%と言われています。それだけに不動産の価格変動は、減損会計導入に伴い、企業収益に大きな影響を与えることとなります。

株式や多くの金融資産もまたそれぞれの資産特性に応じたリスクを持っているものの、それに対応できるリスクヘッジ手法が存在し、更にはそれを取り扱える市場が確立されています。

不動産の場合はどうでしょうか。「価格変動リスク」おいては、株式等も同様 に価格変動のリスクを持っているのですが、前述の通り総資産に占める割合が大きい事、またバブル崩壊の例に見るまでもなく、株式や債券と比較してもその変動の程度が大きい可能性があること、などから不動産における価格変動リスクは相対的に大きいといわざるを得ないでしょう。

また「流動性リスク」についても、不動産は、株や債権と比べて、売りたい時に売りたい価格ですぐに売れないということから、「流動性リスク」が高い資産といえます。

結局、不動産は同じものが2つとない個別性が極めて強いため、同質均一な割合的単位として大量に取引される株式などと違って、売買の成立が相対マーケットにならざるを得ないからです。(不動産証券化という手法によって一部解消されつつはありますが)

また不動産取引は一件の取引単価が大きく、市場参加者も限定されるという点も流動性を下げている原因といえます。

このように年々不動産を保有することのリスクが鮮明になっていくなかで、各企業も不動産のオフバランス化を積極的に進め、また新規開発の際も SPC(特定目的会社)などの手法を用いリスクを分散させるなどの動きを強めています。

【保有コストもバカにならない】

その他保有する際に発生するライフサイクルコストの観点も見逃せません。

一般的に不動産を保有する上で生涯かかるコスト、ライフサイクルコスト(LCC)には以下のようなものがあげられます。

土地取得費用、建物企画設計費用、建設費用、内装費等初期投資費用、運転・点検費用(保全コスト)、修繕費用、水道光熱費・租税・保険料などの運営維持費用、そして最後にはスクラップ費用までもが、その項目に挙げられます。

賃料負担の代わりに発生する保有独特のコストもこれだけあるのです。

また、費用の割合でいうと、一度に多額の出費を必要とされるため、負担が重いイメージのある建築費でさえ、ライフサイクルコストという視点から捉えた場 合は、全体の20%~30%程度です。

逆に、保有期間中にかかるコストは実に全体の50%~70%程度ともいわれており、結果的に維持コストのほうが大きな負担を強いられる事になるのです。
このように、企業にとって不動産を持つリスクやコストは、年々高まっており、各企業が近年、バランスシートから不動産を外す動きが強まっているのも、このような背景を踏まえれば納得いくことでしょう。

全ての不動産を切り離す事が必ずしも正しいことばかりではありませんが、企業が不動産を保有する際には、このようなリスクを踏まえたうえで、経営戦略の視点からの可否が必要不可欠です。

その判断を間違えると、企業にとって大きな打撃を与える可能性は年々高まっているといえます。
(この記事は2008年7月2日に初掲載されたものです。)