「顧客満足度と売上って相関しないものなんですね」
昨年、ある旅行代理店A社より仕事の依頼を受けて、幹部の皆さんとのミーティングの際に出てきた話です。「どういうことですか?」と分析資料を見せてもらいました。その資料は、年に2回実施されている店舗別の顧客満足度と店舗別の売上が比較できるように並べられていたのですが、皆さんがコメントされているように見事に「売上が高い店舗ほど顧客満足度が低く、売上の低い店舗ほど顧客満足度が高い」という逆相関が成立していたのです。
「例年もこのような分析結果になっているんでしょうか?」と尋ねてみると、「そうですね。傾向は毎年同じです。だから現場の店舗に対しては『前回よりも改善しましょう』という指示は出しますが、他店との比較は見せられないんですよね」という答が返ってきました。このA社に限らず、「顧客満足が大切なのは理解できるけれども、顧客の要望をそのまま聞き入れていたらとても利益なんか出ないですよ」といった認識を持っているかたが少なくないのも現実です。
しかしながら、書店に並ぶビジネス書などをみると、「顧客満足度を上げることで企業の売上利益につながる。顧客満足度を上げようと思ったら、当然従業員満足を上げなければならない。満足度の高い従業員が顧客の満足度を上げることに取り組むことで利益が上がる。その利益を従業員に還元することで従業員満足が上がる。この善循環を確立することが大切だ」という論調のものが殆どですね。「理想と現実は違うから」という声が聞こえてきそうですが、どこかに大きな誤解があるような気がします。
A社のケースですが、その後、業績の良い悪い、顧客満足度の高い低い、といったセグメンテーションに分類して、店舗の実態調査をすることになりました。当初は、お客さまに扮して対応を評価する覆面調査も手法としては検討したのですが、それでは真の実態がわからないということでフルタイム調査を採用しました。フルタイム調査とは、店舗の開店から閉店まで密着調査をする手法で、調査当日の、時間帯別来店数、対応数、待ち時間、対応時間といった指標を全て“見える化”することを目的に実施します。
この調査の結果、業績の良い店舗ほど顧客満足度が低い理由がわかりました。よくよく考えると当たり前ですが、業績の良い店舗は来店数が多く混み合っています。顧客の来店する時間帯はある程度集中する傾向にあるため、待ち時間が多くなるのです。どの店舗も受付カードが設置されており、カードを引いた時点で“何名が待っているのか”がわかるわけですが、もっとも来店の多くなる夕方以降は20名以上が待ちという状況も少なくありません。
これがファストフードのような業態であれば、自分が対応してもらえるまでにどの程度の時間がかかるかが想像できますが、旅行代理店という業態の特性上、注文を受けるまでの相談という時間が発生するため、その時間は非常に読みづらいですね。というように顧客側のストレスもありますが、想像していただくと容易に理解できるとおり、その現場を切り盛りするスタッフ側のストレスも相当なものになっています。
現場から遠いところでは、「顧客満足度No.1を実現するために、販売を担う店舗スタッフは、多様化する顧客の情報をしっかりと収集した上で、その顧客に最適な旅行を提案しましょう」といった方針が打ち出されていますが、現場としてはもはやそれどころではない状況だったりするわけです。だからこそ、それぞれの企業は、自社なりの“顧客満足”の定義を明確にしなければなりません。その定義を曖昧にしている結果、「顧客満足が売上につながらない」といったおかしなことに陥ってしまうのです。
従業員のどんな行動が、顧客満足を高め、同時に売上利益につながるのか。
いまいちど、じっくり考えてみて下さい。