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人事制度の功罪

この数年間の企業の経営環境は、アジアからの観光客によるインバウンド需要や、株高による富裕層の心理的高揚、オリンピック需要への期待などで、一部の企業では過去最高益を記録した等の景気のいい話もあります。しかし、手放しで楽観できる状況ではないというムードではないことは、誰もが承知しているところではないでしょうか。幾つかの複合的な要因がありますが、人口減少が大きな根本要因の一つです。

特にサービス業や小売業において人口減少は、ダイレクトにマーケット(市場)の縮小につながります。ですからこの人口問題が解決されない限りは、本当の経済成長はあり得ません。このままの出生率で推移すると、25年後の2040年には15.7%減すると予測がでていますので、一人当りの消費額が変わらないとすると、マーケット(市場)は15%縮小するのです。海外からの需要増を期待しても、モノ余り、所得の低下による需要減を差し引いて、やはり15%以上のマーケット(市場)縮小は覚悟しておくべきでしょう。

そうなると企業淘汰は加速度がつきます。弱い(=収益の上がらない)企業から順に市場から退場させられ、結果として生き残った企業だけが強くなり、市場は完全な「バトルロワイヤル」の様相です。そういう時代ですから、一人ひとりの社員がその危機感と緊張感を共有して、目の前の収益目標を達成していこうと経営(会社)が考えるのは当然のことです。その手段として、評価や賃金などを通して社員の意識に大きなインパクトを与え、人件費コントロールにも直接的に影響を与える人事制度の重要性は高まっています。

そういった意味で、とても重要な制度はあるのですが、人事制度が原因で社員のモチベーションを下げてしまったり、評価制度が原因で会社の成長を止めてしまったなんてケースも決して少なくありません。最悪のケースとして、優秀な若手社員が辞めてしまい、残った社員のモチベーションは下がったままということが起こりうるのです。ブラック企業と名指しされた企業はその典型例です。では、どんな人事制度が会社を悪い方向に導くのでしょうか? 

【1】緊張感を持たせようとして、社員を萎縮させるだけの人事制度
一部の大企業や組織の中には、緊張感のない社員や安定した将来が保証されていると勘違いしている社員もいるかもしれませんが、ほとんどの組織ではそのような勘違いをしている人は極少数です。緊張感が無いからパフォーマンスが低いのではなく、萎縮しているからパフォーマンスが上がらないのです。適度な安心感の下に、成果を上げるための十分なスキルをつける仕組みが必要なのです。

【2】夢はあるけど、現実性の感じられない人事制度
馬なら人参をぶら下げれば走り続けますが、人間は食えないことがわかるとすぐに走るのを止めてしまいます。モデルとなる社員がいなければ現実性を感じることは困難です。

【3】短期的な成果にこだわり過ぎて、成長を留めている人事制度
人間は目の前の危険を回避するように動くように出来ています。良くも悪くも、組織人(サラリーマン)の多くは評価されるように意思決定をして、行動するのです短期的な成果を強く求めれば、当然、現在最適だけを追いかけ、時間の要する変革に目が向かなくなります。また、評価項目やKPIの設定を間違えると、会社は間違った方向に進めてしまいます。

今の時代、ただでさえ「モチベーションの下がること」が氾濫しています。もしかしたら、このような人事制度でモチベーションを下げないことに成功したら、もの凄い効果があるように思うのです。

前段で、人口減少に伴う、マーケットの縮小の観点で話をしましたが、私が問題視しているのは、働き手の不足による企業淘汰が起こることです。2040年までの総人口は15.7%減少に対して20歳~60歳の人口は26.1%減少します。単純に考えれば、サービス業を中心に需要に対して、人的供給が足りないという状況が起こります。某大手の飲食チェーン店が、ブラック企業のレッテルを貼られ、お店も顧客もあるのに営業できず、利益を大幅に落としたという話がありましたが、これからは特別なブラック企業の話ではなくなります。極当たり前のように、人材不足による倒産は起こってきます。

おそらく今から2020年頃までの間に経営的に息継ぎの余裕がある時期があると思います。今こそ、その後に備えて長期的な視点で、目の前の収益に捉われない、人事制度の構築が必要なのではないでしょうか。

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