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ロッテリア返金保証とマクド0円コーヒーに見る選択と集中

(有限会社金森マーケティング事務所 取締役 金森 努)

立て続けに世間をあっと言わしめた、ロッテリアの「絶妙バーガー返金保証制度」とマクドナルドの「プレミアムローストコーヒー無料配付」。奇策に見えるが、両社の事情を考えると、極めて忠実に商売の基本に則った戦略であることがわかる。

売上げ=客数×客単価。
イロハのイであり、基本のき。アタリマエすぎる話である。しかし、そのバランスをどこに求めるかは、各企業が腐心するところだ。そのバランスをどう取ろうとしているのかを読み解いて、返金保証と0円コーヒーの狙いを考えてみよう。

■ 客数を増やせ!

まずはマクドナルド。かつてマクドナルドは59円バーガーなどによる価格破壊によって「デフレ時代の勝ち組」と言われたが、その後、収益性の悪化で長く苦しんだ。つまり、客数を追い求めすぎて客単価が低下した結果であり、同社にとっては一種のトラウマである。

一方、最近の動きでは、客単価は高価格のクォーターパウンダーがヒット中であり、さらにそれを押し上げる「日本バラ色計画」のキャンペーン効果があがっている。しかし、7月10日に発表された6月の販売実績は、売上高は既存店ベースで前年同月比4.4%減。1年2ヶ月ぶりの前年実績割れである。その内訳を見ると、客単価は1.0%の微増ながら客数が5.4%減と2ヶ月連続ダウンとある。つまり、現在は客数向上が課題である。

会長兼社長兼CEO・原田泳幸氏も明言している。7月2日の「IT Japan 2009」特別講演において「選択と集中戦略」として「新規顧客獲得」「投資の継続」「People Excellence(人材)」を挙げ、中でも顧客数を増やすことに高い優先順位を付けると述べた。

■ タダより効果的なものはない!

新規顧客をどこから集めるのか。マクドナルドを知らない人はいない。故に「知っているけど来店しない人」を集めるのだ。昨年からマクドナルドが力を入れているのが「コーヒー」。ホットもアイスもプレミアムコーヒーへとレベルアップさせ、消費者から好評である。スターバックスなどのカフェのコーヒーを上回る評価を集めているアンケート結果もある。

「0円コーヒー」の狙いはズバリ、お試しをさせ、スターバックスやタリーズ、ドトールなどカフェの客をぶんどって、自店に定着させることである。

昨年のアイスプレミアムコーヒーの発売時に、いくつかの店舗では店先や周辺で「お試し」として、コーヒーの街頭配布が実施されていた。「0円コーヒー」は今回が初めてではない。但し、違いは今回は店で提供すること。道行く人に配布するのではなく、店舗に来させて一人一人に手渡す。

同社はメニューの見直しと同時に店舗改装にも力を入れている。一昔前のプラスチック製の什器や子供好みのカラフルな店は都市部ではもはや少数派だ。シンプルで機能的な店内。特にお一人様席などは意外にも居心地がいい。

逆に、ソファーがなくなり、席も詰め込み気味な、サードプレイス感を喪失したカフェを考えると「これで十分じゃん!」と感じてしまう。それ故、店に呼び込んで、味を試させ、店内の雰囲気をわからせることが重要なのだ。

もちろん、0円コーヒーと共に他商品を注文させるクロスセリングを狙っているという見方もできるが、無料配付時間の8:00~9:00は100円、120円メニューやサイドメニューが乏しいため、まずは0円でも来客させることが主目的であると考えて間違いないだろう。

■ 客単価を増やせ!

0円でシンプルに集客を図るマクドナルドと比べると、ロッテリアの返金保証は少々クセ球だ。ロッテリアは昨年の「絶品バーガー」の成功で、業績回復の兆しが見えたものの、その後、低価格競争に巻き込まれ、競合に顧客が流出するという事態を迎えた。そのため、5月にハンバーガーやドリンクを値下げし自社顧客奪還をかけた。バンズや具材を変更し低価格化を実現。競合、特にマクドナルドのセットメニューより常に安い価格を設定したのだ。

しかし、永遠に低価格路線を続けては、収益的に疲弊してしまう。そこで、今回の勝負をかけたのだ。ロッテリアに過ぎたるともいえる至宝は、絶品バーガーを開発したフランス料理の奇才、嶋原シェフ。その手によって、さらなる傑作、「絶妙バーガー」が誕生した。

「おいしくなければ返金」と、実際に味が問題で返金を求めてくる客はほぼ皆無に近いことはロッテリアはわかっていたはずだ。純粋な言いがかりや愉快犯だけであれば、極めて数少ない。それよりも、世に喧伝される効果が高い。

低価格メニューに加え、そのメニューを目当てに来店する高単価客を集客する。そして、全体としての客単価を向上させる。近年、マクドナルドが最も腐心している、高低単価メニューのバランスをうまく取る「マージンミックス」の手法をロッテリアも取り入れるための切り札が、「絶妙バーガー」であり、さらにそれを加速させるための「返金保証」なのである。
売上げ=客数×客単価。アタリマエすぎて全ての商売に当てはまるではないかとの論もあろう。しかし、ついつい、二兎を追ってしまうのが実情だ。そんな中、返金保証と0円コーヒーの裏の意図は、両社の課題を解決する狙いが絞り込まれていたのである。

奇策を真似るのではなく、その「選択と集中」に学びたい。
(この記事は2009年7月31日に初掲載されたものです。)