「いつかはクラウン」
このフレーズを聞いて、懐かしいと思う方もまだまだたくさんいるのではないでしょうか。その時代の消費者の価値観として“クルマ”は自らのステイタスを表すシンボルだったと思います。18歳を過ぎるとほとんどの若者は自動車免許を取得し、社会に出るタイミングで自分の“クルマ”を購入する。まずは、カローラに乗り、収入が増えるにしたがって、マークIIへとランクアップ、いつかはクラウンを所有したい、と多くの日本人は思っていました。
また、バブル絶頂期である1990年頃を思い出してみると、20代男性の趣味のランキング上位には必ず「ドライブ」というワードが入っていたように記憶しています。恐らく当時の若者は、「自分の車を持って彼女とデートする」ことに大きなステイタスを感じていたわけです。しかし、20代男性の“クルマ”の所有率は、2000年に60%程度あったものが、2007年には46%と大きく減少しており、趣味のランキングから「ドライブ」というワードは消え去ってしまいました。
“クルマ”はいつのまにかつてのステイタスを失ってしまったのでしょうか?
ちなみに現在の20代男性の趣味ランキングでは、1位:音楽鑑賞、2位:DVDによる映画鑑賞、3位:ゲーム、といったものが上位を占めているようで、こういった現象を捉えるだけでも、消費者の価値観というのは大きく変化していることがわかります。
「時代の頭をつかむ」とは、このような消費者の価値観の変化を正しく認識し、自らのビジネス上で対応していくということです。時代の頭をしっかりとつかめる企業であるからこそ、半年先、1年先の状況に対するいくつかの仮説をたてることが可能となり、消費者のニーズに振り回されるのではなく、消費者のウォンツを読みきって応える策を講じることができるのです。
“クルマ”に話を戻しますが、こと20代男性にフォーカスして考えると携帯電話の普及が大きな要因のひとつとして上げられると思います。携帯電話にかかる料金は削れないコストになっているからということももちろんですが、携帯電話は、若い男性たちにとって女性とのコミュニケーションのハードルを大きく下げるツールとなったのです。
ある方のブログを拝見したときに、こんな記述がありました。「うちの親父がこんな話をしてたんだ。母さんを初めてデートに誘おうと思ったとき、まず電話番号を聞くのに相当苦労したよ。ようやく手に入れて、公衆電話から電話をかけようとするんだけど、親が出たらどう話そうと考えてるうちに結局かけられなかったり、とにかく緊張して大変だった。とか言ってたけど、全く理解不能。今はメールで一瞬だからね。」
携帯電話は、結果として、女性を特別な存在から身近な存在へと変化させ、わざわざ“クルマ”のような武器に頼る必要が無くなった、そんな見方も出来るかも知れません。
■ タイムリーかつ客観性が魅力の「ブログ分析」
一般の消費者をターゲットにしている企業は、アンケート、グループインタビュー等を実施しながら意見を聞く努力をしているかと思いますが、どうしても自社の商品やサービスに対して満足な点と不満な点を収集する程度で終わってしまっているケースが目立ちます。
不満や不信といった消費者の感じる“不”を解消するといった意味では十分な取組ですが、“不”を解消する活動は“当然”レベルを達成するに過ぎません。本当にやるべきことは“満足”レベルを実現する活動であり、それはすなわち“期待”に応えることですが、「何を期待しているのか」という問いに答えられる消費者はほとんどいないことは過去の調査で体験されているのではないでしょうか。「安ければ安いほど良い」し、「品質が良い方が嬉しい」し、「対応が良くないとダメ」なのです。
そう考えると、やはり企業は消費者の“ウォンツ”を読みきって応えていくことに挑戦しなければならないということになり、そのためには、消費者の生活の変化、ライフスタイルの変化をつかんだ上で方策を出していかなければなりません。
それらを実行していくにあたっては、先ほど例に上げたブログが大変参考になります。
世界のブログの中で、日本語のブログが3分の1以上を占めるという統計も出ているように、日本はブログが盛んな国です。事実、日本には約1600万人のブロガーが存在し、毎月4000万~5000万件のブログが発信されています。
このブログをアーカイブしておいて分析をかけることをブログ分析と言っています。アンケートやグループインタビューと決定的に異なるのは、ブログを書いている人が「自由に」「勝手に」発信しているコメントを分析するため、企業側の意図が入らない声を収集できることです。さらに、コメントを発信している人たちのライフスタイルを分析することも可能です。
■ ブログから流行を作り上げたトップ読者モデルたち
よりイメージを持ってもらうために、読者モデルと呼ばれる中でもトップクラスの20代女性約20名のライフスタイル分析の事例を上げましょう。
まず、どんな色が好まれるのかという視点で分析をしたのが下記の表です。
“ピンク”人気が断トツで、“ホワイト”、“ブラック”が続くという結果になっています。この分析には、2006年1月~2009年10月までの約4年分、3500記事を使っているのですが、時期に関わらずピンクは1位、ホワイトとブラックがたまに入れ替わる、春だけグリーンが4位になる、という傾向は変わりませんでした。
よく雑誌等で「今年の流行色は○○」といった記事を目にしますが、ブログを分析すると「ピンクが可愛くて思わず買っちゃったワンピース」、「今回はピンクベースにブラックリボンのネイル、次回は何色にしようかな」で次回もピンク、といったコメントが目立ち、ピンク人気は不動であることがわかりました。実際、ブログの背景色もほとんどの女性がピンクで、「どこまでピンク好きなんだろう」というのが正直な感想です。
また、この女性たちは“お誕生日を祝ってもらう会”の開催頻度が多いこともわかりました。最大で誕生日近辺の2週間で6回、20名のお友達に祝ってもらっています。当然、誕生日を祝ってもらったお友達の誕生日にはお返しをしてあげることから、“お誕生日会”というイベントがかなり日常化している様子がわかります。
さらに、その誕生日で使用されるレストランを分析すると、圧倒的な“イタリアン”人気がわかります。
この“イタリアン”人気の理由を紐解いていくと、“自然派”、“有機”、“オーガニック”、“新鮮”、“自家製”、“たくさんのお野菜”といったキーワードが出てきており、時代を反映しているというよりも、彼女達が流行を引っ張っている印象が出てきました。
そういった視点で分析を進めていたときに気づいたのが、“ボブカット”の流行です。2007年7月に、「友達と2人でボブカット」の写真が、あるいは「写っている女性8名中6名がボブカット」の写真がそれぞれアップされており、明らかに彼女たちの中では流行になっていました。その1年後にタレントの梨花さんがボブカットに、さらにその1年後にタレントの木下優樹菜さんがボブカットにと流行は広がっていきました。
つまり、このトップクラスの読者モデルである女性たちは、時代を創出するイノベーターのポジションにかなり近いインフルエンサーと言えるわけです。
■ 潜在的な消費者需要をいち早く掴めた企業が勝つ!
このブログ分析からもわかるように、ターゲットを絞り込めば絞り込むほど、そのターゲットの生活の変化やライフスタイルの変化を読み解くことが可能になります。そしてそれは、どんな新しい商品を提供すれば良いのか、どんな新しいサービスを展開すれば良いのか、といった仮説づくりに大いに役立つことだと思われます。
“消費者のウォンツ”は、潜在的で自らも気づいていないものと定義づけられるものです。アップルのiPodも消費者が声に出して欲しいと言ったものではありません。森永製菓のウイダーinゼリーもユニクロのヒートテックも同様です。これらは企業側から、「こんなものが欲しがられているはず」という仮説の下に開発され、世の中に出てきた商品です。
この不況下において、競合他社に追随するような方策しか出せていない企業、前例がないという理由で先に進めない企業は、間違いなく衰退の道をたどることになるでしょう。
自発的に「時代の頭をつかみ」にいく企業こそが勝ち残れる企業であり、そのためには、消費者の価値観の変化(生活の変化、ライフスタイルの変化)を、タイムリーに、かつ正しく認識することが不可欠です。是非とも、自社のビジネスに大きな影響を与えるイノベーター、インフルエンサーの絞り込みにチャレンジしてみて下さい。