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多品種少量かブラックボックス化か

先月開催されたハノーバーメッセでは、8つの展示会が開催されていたが、その中の一つに、Industrial Supplyと言われる、部品加工、鋳造といった産業用のパーツに関する展示会があった。

この展示会には、ドイツメーカーの他、トルコやインドといった新興国からも多数出展していた。

ドイツの加工メーカーがどういった仕事の仕方をしているのか興味があったので、ブースを廻ってヒアリングしてみた。

すると、ドイツの部品加工メーカーはいずれも、医療用のようなニッチでハイエンドの製品に特化した取組みをしているとのこと。1品あたりの製造数量は5個~100個で、多品種・少量・高付加価値の製品という。

逆にトルコ企業を廻ってみると、多くの企業が、自動車部品など、量産品を製造しているとの回答を得た。

今では、メルセデスベンツも、BMWも、MADE IN GERMANYではなく、MADE IN EUROPEと謳っているらしい。つまり、構成部品は今やドイツ製ではなく、ヨーロッパの他国で生産されたものであり、トルコなど新興国の部品加工メーカーの製品が、こういった高級車で、すでに当たり前のように採用されているということである。

日本の自動車メーカーも、中国・タイ・インドネシア・ベトナムといったアジア各国での生産が拡大している。
タイで生産された自動車が日本に逆輸入されるケースも出てきている。

近い将来、日本で生産される自動車も、
アジア各国で生産される自動車もMADE IN ASIAとひとくくりにして表現される時代が来てもおかしくないのではなかろうか?

そうなったときに、日本の部品メーカーは、中国や東南アジアの部品メーカーとどのような差別化を図っていくことになるのだろうか?

コストでは、中国や東南アジアの企業には勝てないので、
汎用品は、最終的には、日本製ではなく、アジア製へとシフトしていくことは避けられないだろう。

そうなると、日本の部品メーカーが、差別化できるのは、アジア各国の企業には出来ない技術に基づくハイエンドな製品、
またはコスト競争にならない多品種少量の製品となっていくと思われる。

結局、ドイツとトルコの部品加工メーカーの姿が、将来の日本とアジア各国の部品加工メーカーの姿かも知れない。

量産品で、日本の部品メーカーが差別化をはかっていける道として、技術のブラックボックス化という手法がある。

インテルがCPU以外の技術はオープンにしているのに対して、
CPUだけは自社製造を貫き、技術のブラックボックス化をはかっているのは有名な話である。

このように、他社よりも秀でた技術に基づく製品については、常に自社製造を貫き、
他社に技術が流れないようにできれば、量産品でも価格競争に巻き込まれず、自国での製造を維持することができる。

ブラックボックス化といっても、ただ自国製品を貫き通せば実現できるわけではない。

情報化が進み、またリバースエンジニアリングの技術も進んでおり、現代においては、専用品の汎用品化へのスピードが速い。
それがために半導体やDRAMメーカーなどは、開発投資を回収する前にコストダウンに巻き込まれ、体力勝負になってしまっている。

このような環境下で、ブラックボックス化をはかることは大変難しい。
さらに、特許を取得すると技術が公開されるので、ブラックボックス化を実現するためには特許も取得できず、
ブラックボックス化をはかってもそれが成功できなければ、先行開発者としての利権も確保できないというリスクがある。

ブラックボックス化のためには、他社では決して真似できない特殊な技術であるという前提が必要であり、
さらにそのような他社には真似できない技術であったとしても、その技術に日々磨きをかけていくことが必要といえる。

技術優位性を保ちながら、国内製品を続けるためには、多品種少量に特化するか、それとも技術のブラックボックス化を図って量産品に取り組むか? わが国がすでにそういった選択に迫られる時代が来ていることを、今回のハノーバーメッセ視察では感じざるを得なかった。