1990年後半から2000年頃にかけて、成果主義が大きくもてはやされた時期がありました。皆さんの会社も、そのほとんどが何かしらの形で成果主義を導入しているのではないかと思います。
しかし、昨年「内側から見た富士通『成果主義』の崩壊」「虚妄の成果主義」など成果主義に懐疑的な書籍が出版されるに至り、“成果主義を導入することは是か非か?”という議論が数多く繰り広げられるようになった気がします。
実際、クライアント企業の社員の方からも「うちの会社に成果主義はマッチするか?」「成果主義を導入して成功した企業のベストプラクティスはないか?」「新しく成果主義を導入したのだが、業績が上がらないのはどこが問題か?」という質問を受けることがよくあります。
成果主義の導入についてのポイントは、弊社社長の小山が講演でお伝えしている「能には職を、功には禄を」という言葉に端的に表れています。
これは、社員の貢献度は
1.能力(地位や権限を効果的に活用する能力)を持っているものには“職”(地位や権限)を与える
2.功労者(会社に収益をもたらした者)には“禄”(報酬)を与える
という2つの視点から評価し、この両輪をともに回していくことで企業成長の原動力としていくべきだという意味ですが、昨今議論の俎上に載っている「成果主義」は「功労に対する報酬」、つまり業績(収益)に連動した賃金を主眼に置いたものでしかありません。
確かに社員個々人の能力を測るよりも収益としての成果を数字で測定する方が会社や上司の立場からすると容易であり、「社員のモチベーションが上がらないのが業績が向上しない大きな原因だ」という点に経営上の課題を投影して単純に「社員のモチベーションアップ」に取り組むことで、様々な課題を解決するために自分の頭を使って考えるという大変な作業を行わないで済む、もっと極端に言うと経営の舵取りの責任を現場に転嫁することができるために「アメリカ流の成果主義をいち早く導入する」という旗の元で収益VS賃金という図式での成果主義が次々に導入されていったことは無理もないことだと言えます。
しかし、旧来の日本は「年功序列」という成果主義ではない仕組みだったのではなく、「能には職を」という考え方に軸足を置いた「日本型の成果主義」だったのだと思います。ある仕事で能力を示した者がより高い地位や大きな権限を与えられ、よりやりがいのある仕事を担当できる(能には職を)という流れ
が中心的であり、当然ながら担当する仕事の大きさによって成功したときに会社にもたらす収益も違うのだから付随的に報酬も多くなる(功には禄を)という、実は2つの車輪が同時に回るうまい仕組みだったのではないでしょうか。
そう考えると日本人のモチベーションには「金銭」と「仕事」の2つの要素が大きく関与しているといえそうです。
事実、最近成果主義の見直しをしている企業では「ジョブディスクリプション(職務記述書)」の作成とそれぞれの職務に応じた「コンピテンシーモデル」の構築など、より積極的に数字以外の能力の部分を評価しようという動きが出てきているように思います。
まだ取り組みが始まったばかりで、これら新たな取り組みの是非について論じることは難しく、「誰が職務を規定するのか?」「求められるコンピテンシーを誰が決めるのか?」「求められるコンピテンシーの重み付けは?」など、まだまだ課題も多く残されているとは思いますが、個人的には「収益VS賃金」という単純な数字評価よりは日本人にフィットするのではないかと思います。
そして、数字だけの評価を行うよりもこちらの方がよほど社員や部下への育成を目的としたフィードバックが可能な仕組みだと思います。
(この記事は2008年7月12日に初掲載されたものです。)