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なぜ人はリスクに対して“賭け”に出てしまうのか。震災で明らかになった危機管理の罠

■ 利益には“堅実”、リスクには”ギャンブル発想”

【質問1】
選択肢A:「無条件で50万円が貰える」
選択肢B:「『当たり』を引いた場合には100万円が貰えるが、『はずれ』を引いた場合には何も貰えない」

さて、あなたなら選択肢AとBのどちらを選びますか?

では、次の質問です。

【質問2】
選択肢A:「無条件で50万円を支払う」
選択肢B:「『当たり』を引いた場合には支払いが生じないが、『はずれ』を引いた場合には100万円を支払う」

この場合、選択肢AとBのどちらを選ぶでしょうか?

職業柄、講演依頼も多いのですが、「リスクマネジメント」のテーマで話をするときに、よく上記の質問をします。正確に統計をとったわけではありませんが、【質問1】のケースでは、大体80%位が選択肢Aを選び、【質問2】のケースでは、70%程度が選択肢Bを選ぶ、というのがこれまでの傾向です。

【質問1】で「利益を獲得する」際には堅実に利益を得られる選択肢を選ぶ人が、【質問2】の「損失の生じる」選択ではギャンブルに打って出るという非常に興味深い結果なのですが、これは“プロスペクト理論”と呼ばれ、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって、すでに1979年に展開されている理論です。

この【質問2】のケースであればAを選んだという方も、次の質問に対してはどうでしょうか?

【質問3】
選択肢A:「会社で問題発生。対処に10億円のコストがかかるが、それ以上の損失を防止できる」
選択肢B:「会社で問題発生。外部に漏れなければ大きなコストはかからないが、漏れた場合は100億円程度の損失になる可能性(ただし、漏れる可能性は5%)」

過去に起きた企業不祥事として、「自動車メーカーのリコール隠し」、「菓子メーカーの期限切れ原材料使用」等の事例は記憶に新しいところです。どの事例にしても、迅速な判断に基づく正しい対応ができていれば、会社の存続すら危ぶまれるほどの損失にはならなかったと思いますが、現実には大事件へと発展してしまいました。

現在起こっている福島原発問題においても、ダメージを受けた原発の収束はもちろん、避難を強いられている住民の方々の保障まで考えると、東京電力は多大な費用を負担していくことになるでしょう。

今回の震災に関しても“想定外”という言葉で片付けられてはいますが、一方で、大学等の研究機関から「大津波の可能性についての示唆」はされていたという報道もあるようです。もしもそれが真実であるならば、たとえその対処策に大きなコストがかかったとしても、現状の復旧・復興にかかるコストよりは負担が小さかったのではないでしょうか。

いずれのケースにおいても、「損失の生じる」選択肢において、「隠し通せれば大丈夫(隠せる可能性が高い)」という意識や、「大津波が来なければ大丈夫(来ない可能性が高い)」という意識で、ギャンブルに出てしまったとことが今回のような問題を生み出しているのではないかと思います。

■ 「危機管理」に弱い日本企業は60%以上! “発生確率87%”の東海地震にどう備えるべきか

「リスクマネジメント」は、日本版SOX法の導入を契機に注目されてきた概念です。現在では多くの企業が取り組んでいるものと思われますが、その活動は主に、想定されるリスクの中でも発生する確率の高いもの対する“予防”という意味合いのものに留まっているケースが多いといえます。

一般的に、事態の発生を防ぐことを主目的としたものを「リスク管理」、発生した事態をいかに解決するかを主目的としたものを「危機管理」と定義づけていますが、これに照らし合わせると「リスク管理」には取り組んでいるが、「危機管理」についてはまだまだ不足しているということです。

このように感じるのは、先日(6月15日)船井情報システムズが開催した「つかえるBCP(事業継続計画)セミナー」の直前に、現在の取組(BCP策定)状況を調査したところ、以下のことが判明したからです。

2010年時点でBCPを策定している企業は、調査対象2164社の内、3分の1に留まっており、60%以上が策定していないことが分かりました。また、2009年から殆ど増えていないということも調査から判明しました。

それに対して、いったいどれくらいの企業が東日本大震災による影響を受けたのかを確認してみましょう。

東京商工リサーチによると、上場企業3639社のなかで震災の影響をリリースした企業が1908社あり、「何らかの被害を受けた」企業が1324社とおよそ3分の1にものぼります。またそのなかでも、「見通し立たず」が117社、「営業・操業停止」が652社と、かなりの数の企業が大きな影響を受けているといえるでしょう。

このような現実に直面した日本企業は今後、「大震災はそうそう起きないから大丈夫だろう」という“リスクに対するギャンブル”体質から脱却しなければなりません。

政府が浜岡原発の停止を決定した際にも発表されましたが、30年以内に東海地震の発生する可能性は87%とかなり高い確率です。発生前から名前がつけられているのは、世界でも、この“東海地震”、“東南海地震”、“南海地震”以外には類を見ず、震源域や各地の震度の予測もすでに公表されています。

そう考えると、もはや“想定外”ではないリスクとして備えることが不可欠です。

■ ディズニーランドや富士通に学べ! 「BCP策定」で培う戦略発想

もうひとつ大切なポイントがあります。先ほどのセミナーに参加された企業の方々に話を聞いたところ、「BCPは策定しているものの、(有事のときに)活用できるかどうかという点に疑問を抱いている」という声が大半でした。

なぜそのようなことになるのか。それは、「BCP策定業務」を管理系の一部門に委ねているケースが多いからだと思います。

一連の策定プロセスを以下に示しますが、

特に(1)~(3)に関しては、関係する部門の幹部あるいはキーマンの方を集めたプロジェクト体制を組んで進めていく必要があります。

その上で、策定をゴールとせずに(4)~(5)をサイクルとして定着させなければなりません。

前回の私の記事でも触れましたが、あの3月11日に、ディズニーランドで2次災害等の大きなパニックが起きなかったのは、平時から徹底されているガイドラインに加えて、年間180回も実施されている訓練があったからです。

成功事例として度々取り上げられる富士通でも、グループ企業を含めると年間200回もの訓練を実施しているからこそ、今回の震災時に被災した福島工場から島根のグループ工場への生産ライン移管を迅速に推進することができたといえます。

これらを好事例として(1)~(5)のサイクルを回して欲しいと思いますが、とはいえ実際は、「日常業務が忙しくてライン部門が関わるのは難しいんですよ」という声がいつも聞こえきます。それも当然かも知れません。

そのような風土(こちらが主流ですが)の会社では、単なる「BCP策定」業務ではなく、自社の事業の本質を再確認する絶好の機会だと捉えていただきたいと思います。

「我々の会社でもっとも重要な業務プロセスはココだよね」
「なるほど、この一連のビジネスモデルが顧客に支持されるポイントなんだ」
「よく考えると、この辺の業務を削減しても何も問題無さそうだ」

といった発見が多々出てきますので、BCP策定は「もっと強化すべきこと」、「もっと効率化できること」、すなわち戦略的視点をもつ社員が増えることにつながります。

そのシナジーに期待しながら早速「BCP策定」を始めましょう!
(出典:ダイヤモンド・オンライン)