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アメリカで白熱化する、プレミアム・コーヒー戦争とスタバいじめ

(ダイナ・サーチ、インク 代表取締役 石塚 しのぶ)

アメリカで熱く繰り広げられるプレミアム・コーヒー戦争。マクドナルドやダンキン・ドーナツなど、シェア剥奪を狙う競合のスタバ攻撃は過酷だ。

近頃、何を読んでいても、スタバ不調のストーリーで持ちきりである。自ら引き起こした「ブランド破壊」が顕著になっているのは本国、アメリカだけかと思っていたが、先日の竹林氏の記事によると、日本でも同様な展開になっているらしい。
不況のご時世で、最近、アメリカの広告・マーケティング業界からは派手な話題がめっきり減っているが、そんな中、唯一目立っているのが、「プレミアム・コーヒー」市場を巡る、スターバックス、マクドナルド、ダンキン・ドーナツの壮絶な覇権争いである。

「覇権争い」なんて、ご大層な言葉を使うと聞こえはいいが、その実態は、「弱って倒れているスタバをこれでもかと蹴飛ばす」、競合他社の容赦ない「いじめ」の域まで達している。比較広告が合法のアメリカではとりたてて騒ぐほどのことでもないのかもしれないが、日本人の私の目には、ちょっと「えげつない」とまで感じられてしまう。

ことの起こりは、昨年の10月、ダンキン・ドーナツが立ち上げたウェブサイト、www.dunkinbeatstarbucks.com(ダンキンがスターバックスに勝った・ドット・コム)。

この中で、ダンキン・ドーナツは、全米主要都市で行われた試飲テストで、過半数が「ダンキンのコーヒーがスターバックスより美味い」と判定したことを公表。「この真実をみんなに広めよう!」と、辛辣なジョークたっぷりのeカードを無料で送信できる機能まで盛り込んだ。

しかし、さらにショッキングだったのは、その2ヶ月後にお目見えしたマクドナルドのビルボード。その広告コピーはずばり、「four bucks is dumb.((エスプレッソ)1杯に4ドルは馬鹿だ)」。

…そこまで言うかと私は絶句したのだが、マクドナルドはなんと、このビルボードを、スターバックスのお膝元であるシアトル近郊を中心に設置したのだ。

これを、いじめと呼ばずに何と呼ぶのか。そう思っていたら、今月の5日には、マクドナルドの全米キャンペーンが盛大なファンファーレとともに開始された。

今年、マクドナルドは、「McCafe」というブランド名のもと、モカ、ラテ、カプチーノなどのエスプレッソ・ドリンクを全米14,000店舗で販売開始するが、その認知向上を狙い、テレビ、ラジオ、雑誌、屋外媒体、ウェブ、SNSなどマルチ・メディアを総動員した超大型キャンペーンである。そのキャンペーン予算は推定1億ドル(100億円)!

減収、閉店が続いている米スターバックスに対し、不況知らずの勢いで売上を伸ばしているマクドナルドは、これでもかと全力でボディブローを食らわせる。スターバックスの年間マーケティング予算は、前述マクドナルドのわずか4分の1しかない2,600万ドル(26億円)。これを見ただけでも、図体のでかいガキ大将が、体の弱いもやしっ子をいじめにかかっているような印象を受けるのである。

アメリカで白熱化する、けっこう過激で、ちょっとえげつない、スタバいじめ。しかし、その一方で、スターバックスの零落は、厳しい言葉でいえば、自業自得である。「ライフスタイル・ブランド」としてのポジショニングを見事に確立し、「プレミアム・コーヒー」というカテゴリーを開拓したスターバックス。

しかし、「利益追求主義」の果てに、エスプレッソ1杯に4ドルを払わせる本来の価値を失ってしまった。今夏、スターバックスは競合の追撃に対抗し、とうとう価格競争に参戦する。アイス・コーヒー、アイス・ラテなどを対象に、30%程度の大幅割引に踏み切るという。
スターバックス批判は、コーヒードリンカーでもない私がするまでもない。会長のハワード・シュルツが、2007年2月に綴った公開メモに、その過ちが雄弁に語られている。

「スターバックスは、効率と利益の名のもとに、コーヒー・ショップのロマンと体験を犠牲にした。(中略)そのルーツであった魂を捨て、温かみ溢れる近所のお店ではなく、ただのチェーンに成り下がってしまった(石塚訳)…」

顧客の期待を裏切り、夢を打ち壊したブランドが、その信頼を取り戻すことは容易でない。スターバックスの失敗には、誰もが学ぶべき痛い教訓が隠れている。
(この記事は2009年7月3日に初掲載されたものです。)