あるシステム会社(A社)の幹部会議でこんな議論があった。
X部長:「ウチの社長はどんどん人を採用しようと言うけど、ここ数年は社員1人当たりの生産性も下がってるし、採用している人材の質も落ちてる。」
Y部長:「そうだね。その結果、トップクラスの営業課長たちの給料が上がらなくて、モチベーションが下がってる。優秀な課長が退職するようなケースも出てきてるから、単純に社員数を増やそうという方向性も見直す時期にきてるんじゃないか。」
確かに、両部長の話は現実に起こっている話だ。
こういった問題を放置しておけば、会社の状態がもっと悪くなる可能性もあるから、対応策を検討しなければならないのも事実だ。
しかし、この話のなかで決定的に抜け落ちているのが、「いかにして会社を成長軌道に乗せていくか」という視点ではないだろうか。
A社の戦っている市場が安定期~衰退期に入っていて、売上規模を伸ばすことが困難、といった状況であれば、
その事業においては効率化を図る、という方向性は正しいのかも知れない。
とは言っても、新しい事業領域を作り出していかなければ、A社の成長は見込めない。
新しい事業領域で利益を生み出すまでには相応の時間を要するから、それまでは既存事業が支えなければならない。
つまり、A社の社長が「社員数を増やしたい」と言ってるのは、
既存事業での利益がとれている間に、新しい事業領域への種まきを仕掛けておきたい、ということではないかと思うわけだ。
こういった組織内に起こるジレンマは、“対立解消図”で整理するとわかりやすい。
組織に共通する目的として、「利益を上げる」がある。
上段は、「利益を上げる」ためには「顧客満足を満たす」、
そのためには「在庫をもつ」というスタンスで、わかりやすく言うと、
顧客は注文したら早く欲しいわけだから、それに対応できるように在庫をもっておこうよ、
という考え方で、営業系の部門であればこのように考える傾向が強い。
一方、下段は、「利益を上げる」ためには「効率を上げる」、
そのためには「在庫をもたない」というスタンスで、生産系の部門は大体こちらの考え方になると思う。
つまり、目的は同じであっても、行動部分で“対立”を起こすケースはよくあるということで、
それを誰にもわかりやすく図示するのがこの“対立解消図”である。
A社の話も、会社を良い方向に持っていきたいという想いは同じだと思うが、
「人を増やす」と「人を増やさない」という“対立”が起きているというわけだ。
A社のケースは、現在利益が出ているわけだから、さらなる成長を目指して「人を増やす」という方向性自体は正しいと思われるが、
両部長の認識している問題も現実には起こっている。
そう考えると、まさに両部長が陥っているような認識(会社全体の生産性が下がっているのが問題だ)を課長クラスも持ってしまい、
(利益を上げない社員の分を自分が稼いでいると)モチベーションを下げてしまう、
といったことを引き起こしている要因を解決しなければならないのではないだろうか。
“蟻の目”をもっている中堅幹部が“鷹の目”をもって問題解決にあたる会社は強くなる。