2012年は「道路」が大きく変わる年になりそうです。
思い返せば2010年は駅ナカ、2011年は東京なら有楽町、大阪なら大阪駅北ヤードなどの大都市の一等地が、
百貨店などの誘致を含めた再開発で大きく変わりました。
そして、2012年は日本の高速道路にあるサービスエリア、パーキングエリア(以下、SA、PA)が大きく変化していきそうなのです。
果たして、高速道路が小売業にとっての一番の立地になる可能性はあるのでしょうか。
その最新トレンドに迫ります。
■ EXPASA海老名が開業。話題の店舗が目白押し
2011年12月、神奈川県海老名市にあるに海老名SA「上り」がリニューアルオープンしました。
海老名SA(上り)は、東京都心へ向かう旅行帰りやドライブ帰りの通行客にとって、東名高速道路上り線の最後のSAで、利用者が非常に多いSAです。名前も一新、EXPASA(エクスパーサ)海老名としてオープンしました。
「EXPASA」というのはNEXCO中日本のSAを大規模改装した複合商業施設のブランド名です。
「1.5日分のマイパートナー」をコンセプトに、日本最大の28店舗をテナントとして導入し、いま話題となっています。
フロアは2層で、食を中心に高速道路初出店のテナントを多数揃えて、
SAっぽくない、いわゆる普通のSC(ショッピングセンター)のような施設を目指しているのが特徴です。
1Fには高級SM(スーパーマーケット)の「成城石井」、
2Fには大手セレクトショップである「ユナイテッドアローズ」(以下UA)の高速道路向け新業態店の他に、
東京・赤坂の高級中華料理店「Wakiya」の脇屋友詞氏が手がけるレストラン、さらにモロゾフ、スターバックスなどが出店しています。
なかでも注目されているのが、新業態店としての1店目であり、業界内の耳目を独り占めしているUAの新業態店です。
■ いつもとちょっと違うSAならではのUA
UAが立ち上げた高速道路向けの新ブランドは「THE HIGHWAY STORE UNITED ARROWS LTD.」。
コンセプトは、「カーライフを、ファッショナブルに、スタイリッシュに、贅沢に」というものです。
SAならではの品揃えを意識しているのが最大の特徴です。
同店の売場面積は約11坪。
「ファッション」「コンビニエンス」「ギフト」を軸に、洋服やトートバッグ、タンブラー、チョコレートなどの、
この店舗でしか買えないオリジナル商品や、
すでに多店舗展開している「UNITED ARROWS green label relaxing」で扱っているファッション雑貨などを販売しています。
マーチャンダイジング(商品政策)にも緻密な計算がありそうです。
休日に高速道路を利用するファミリーやカップルを意識し、
商品構成比をメンズ、ウィメンズ、キッズをそれぞれ20%程度、ファッション雑貨を40%にしていました。
平日に利用が多くなる高齢者の旅行客向けに、孫へのギフトとしてキッズ雑貨を豊富に取り揃えている点も注目です。
では、なぜUAがわざわざ高速道路に出店したのでしょうか。
■ ユナイテッドアローズが高速SAに進出したワケ
同社は現在、「マルチビジネスモデル構想」を進めています。
マルチビジネスモデル構想とは、コンセプトの違う複数のストアブランドを展開し、それによって新規顧客開拓を進めていくというものです。
実際に同社は、主な販売チャネルである路面や商業施設に展開している「UNITED ARROWS」、
「UNITED ARROWS green label relaxing」や「BEAUTY & YOUTH UNITED ARROWS」などに加えて、
2009年9月にスタートさせた自社通販サイト「UNITED ARROW LTD. ONLINE STORE」を持っています。
また2011年にはショップチャンネルでテレビ通販もスタートさせています。
さらに、2011年9月には初のフランチャイズ店舗を金沢にオープンさせました。
■ トラフィックチャネルの可能性
SAに初出店しましたが、UAがトラフィックチャネル(公共交通機関の小売りマーケット)に目を付けたのは、実は今回が初めてではありません。
第1弾は成田空港や羽田空港へ出店、
第2弾は“駅ナカ”ショップ「THE STATION STORE UNITED ARROWS LTD.(ザ・ステーション・ストア・ユナイテッドアローズ)」を表参道駅にオープンさせました。
今回のSAへの出店によってUAにおける3つの新チャネルである「空港」「駅」「高速道路(サービスエリア)」というトラフィックチャネルすべてに出店をしたことになります。
人は必ず何かの交通手段によってどこかの地点からどこかの地点へと移動しています。
その交通手段、交通拠点というのは強制的に人が集まる場所ですので、「強制集客要素」と呼ばれています。
駅や学校、警察、病院、市役所など、強制的に人を集める場所はいくつもあります。
そのなかでも、商業施設として大きな可能性を秘めているのがが駅です。(参照:「ブランディングナビ」)
■ 分割民営化により集客して稼ぐ必要が出てきた
しかし、トラフィックチャネルは昔からありました。
ここにきて注目を集め、大きく変化してきたのはどのような理由からでしょうか。
それは、日本道路公団の民営化が大きなきっかけです。
1956年に日本道路公団法により設立された日本道路公団は、2005年に分割民営化されました。
その結果誕生したのが、NEXCO東日本、NEXCO中日本、NEXCO西日本です。
今回の海老名は東名では東京~小牧の区間を預かるNEXCO中日本の企画開発になります。
総額40兆円ほどある債務を45年で返済しなければならないという厳しい現実に各社は直面しています。
したがって通行料金の8割は借金返済に、残りは維持管理費に充てられます。
各社が今後、生き残りをかけて高速道路で収益を生み出すためには、
今まで以上に利用者に高速道路を使ってもらい、お金を使ってもらわなければなりません。
したがって、SAやPAをもっと多くの人に利用してもらい、そこでお金を落としてもらうことは、非常に重要なポイントとなるわけです。
日本各地のSAやPAはいま次々とリニューアルされ、魅力的なテナントを次々と導入し、これまでのイメージを大きく変えつつあります。
■ お土産に強い足利SAの存在が海老名SAのテコ入れへ向かわせた
海老名SAには、もう一つ、リニューアルしなければならない理由がありました。
東名高速道路の1日の交通量は約8万台と言われています(区間によって台数は変わりますがNEXCO中日本の公表している平均値)。
日本の高速道路の中でもドル箱と言ってもいい路線でしょう。
飛行機や新幹線で言えば東京~大阪区間のようなものです。
なかでも、海老名SAは東京からもっとも近いSAで、立地としては申し分ないはずです。
しかし、海老名から50キロほど行くと、足柄SAというお土産物が充実しているSAがあります。
足利SAはすでにEXPASAの名前でたくさんのテナントを導入していて、
ドッグランやインターネットカフェなどもあり、たくさんの利用者を集めています。
つまり海老名にとっては、同じ高速道路の路線上の近隣の手強い競合であるということです。
海老名SAは東京まであと少しの立地であり、且つ、いつも混んでいる印象があると、
わざわざ寄らずにそのまま帰路につくドライバーも増えてしまいます。
ですから本気でリニューアルをしなければいけない状況にあったと言えるのです。
海老名SAにはSMの成城石井が出店しています。
実は高速のSAに日曜日の夕方から寄る人には、お土産ニーズだけでなく、家での食事のニーズがありました。
具体的には、当日夜と翌日朝のニーズです。
どこかにドライブに出かけて、高速道路で家に帰る時にスーパーに立ち寄って買物をするのも面倒だし、
疲れたからそのまま家に帰りたいという人が実は多いのです。
そんな人々にとって、もしSAで普通の食料品の買物ができれば便利です。
ですから海老名SAの成城石井は近所のスーパーのように買い物客で賑わっています。
なかには、本当に近所の人も混じっているようです。
SAはすでに移動する途中のトイレ休憩場所ではなくなりました。
日常のデイリー食材や買物をするショッピングの場所へと劇的に変化した、貴重な商業一等地と言えるのです。
■ 4月14日に新東名高速道路御殿場JCT~三ケ日JCTが開通
こうした状況のなか、4月に新東名高速道路(通称、第二東名)が部分開通します。
この区間内では一気に13箇所のSAがオープンします。
そのなかで、新規のSAとしてNEOPASA(ネオパーサ)という名称で7エリアが一気にオープンします。
高速道路初出店の67店舗を含めて121店舗が誕生します。
UAと同じセレクトショップのビームスが高速道路向け新業態を出店する予定ですし、
各地域に根ざした地域住民を意識したテナント構成になっています。
筆者が推計したところによると、100億以上を売り上げる1つの新しいSCが高速道路上に出来上がるわけです。
NEOPASAは新しい道路にできる商業施設ですから、駐車場も広く、
敷地面積も十分にとった魅力的な商業施設として集客する施設となることでしょう。
観光気分で移動している時には、人は財布の紐がゆるくなるものです。
ただし、高速道路は強制的に人を集める施設であるだけに一見さんも多く、「わざわざここで買う必要はない」という気分にもなります。
また駐車場が混んでいて店に入れないことも考えられます。
ここでしか買えない、という商品をどれだけ揃えられるか――。これが最大の課題となるでしょう。
また、リニューアルは常に、数十年前に設計された建物をベースに行われます。
いかに現代の人々にとって買い物をしやすい空間にするかも重要なポイントとなるでしょう。
高速道路各社は単なる“有料道路の運営・管理をする会社”から、商業施設のディベロッパーとして、
そして再来店につなげる接客やサービスを考える会社に生まれ変わる必要があります。
テナント出店する側も、高速道路を利用する客の特性を考えた、顧客密着型の商品開発、店舗開発が重要です。
2012年、高速道路で繰り広げられる商売のあり方に大いに注目していきたいと思います。
(出典:ダイヤモンド・オンライン)