東日本大震災以降、さらに注目されているのがBCP(事業継続計画)だ。
かつて起きた米国の同時多発テロ“9.11”の際に、
貿易センタービルに入っていた、ある金融機関が、迅速に取引再開を果たしたことから注目され始めた概念で、
それ以降も牛肉のBSE問題発生、新型インフルエンザ流行、など事あるごとにその必要性および重要性は広く認知されてきた。
「つかえるBCPセミナー」と題して、6月15日に実施したセミナーは30社限定で満員御礼となり、
続けて、7月11日にも実施したところこれもまた満員御礼で、
業種業態に関わらず、多くの企業が本気で取り組んでいる、あるいは取り組もうとしていることがわかった。
しかしながら、すでに作成している企業においても、
「あの震災の日、我が社のBCPは全く役に立たなかった」という認識をしている担当者が多いのも事実だ。
・ 連絡すべきところと一切連絡が取れずに途方に暮れる。
・ 誰の指示を仰げばよいのかわからずに右往左往する。
・ 結局、もともと作っていたBCPを手にすることはなかった。
・ いや、BCPを手にしても、そのときに役立つ内容はなかった。
そんな声が多い中でも、しっかりと対応できた企業の事例もある。
TV、雑誌等でも紹介されているように、震災発生の瞬間から翌日ゲストを送り出すまでのディズニーランドの対応、
PCの組み立て工場が使えなくなってからわずか数日で生産ラインを他の工場に移管した富士通の対応、からは学ぶべき点も多い。
また、岩手、宮城、福島にある1000以上の保育園では、
あの震災の日、約半数が全壊あるいは半壊したが、被害者は出なかったそうだ。
つかえるBCPとつかえないBCPの違いは何だろう?
つかえないBCPを作ってしまった企業では、担当を任された部署あるいはメンバーの方々が、「BCPを作ること」に注力してしまっている。
それ自体に問題があるわけではないが、結果として、有事の際に動けるということよりも、
BCPを完成させることが目的化してしまうケースが散見される。
では、つかえるBCPを作った企業はどうだろう。
キーワードは、2つある。
「組織一体となった取り組み」と「習慣化」だ。
BCPを担当する主管部門に加えて、会社の事業の中心となる部門のメンバーを巻き込み、
サプライチェーン上で重要な役割を果たす取引先までをも巻き込み、
「有事の際にいかに迅速に事業を復旧させるか」についての議論を交わし、計画を作り込む。
やはり、一部の担当部門任せにせず、「組織一体となって取り組む」カタチをいかに作っていくかが、第一に必要なポイントである。
また、それ以上に大切なのが「習慣化」だ。
BCPは、“起こる可能性としては決して高くない危機”への備えであるため、
「いざという時に体が動かない」という結果を引き起こす可能性が高い。
つまり、「つかえるBCP」にするためには、訓練による「習慣化」が不可欠となる。
成功事例として出てきている、ディズニーランドは年間180回、
富士通では年間200回もの訓練を実施しているという。
以前、甲子園の常連として有名な横浜高校の渡辺監督から、大変興味深い話を聞いた。
「あの松坂投手を擁して甲子園を制した年の神奈川県予選。準決勝でサヨナラ勝ちした試合があり、
決勝点は、浅いレフトフライでやや強引にみえた3塁ランナーのタッチアップだったが、
守備側には不運にも本塁への返球がランナーに当たってしまったためセーフになった。
試合後のインタビューで、『サヨナラのシーンはラッキーでしたね』というコメントがあり、
その場では何も言わなかったけど、あれはラッキーでも何でもない。
3塁ランナーは、浅めのフライでもレフト線よりならタッチアップする。
捕手の目線をみながらレフトからの返球が自分に当たるように走る。繰り返しやってきた練習のひとつです。」
「いきなり本番でできるものなんてない。」それが本質だ。