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団塊ジュニアの購買意欲を刺激!? 高級ブランド「ディフュージョンライン戦略」の正体

先日、あるファッション誌の取材で「ディフュージョンライン」について話をする機会がありました。

最近、巷ではディフュージョンラインがブームになっています。特にファッションの世界では、ディフュージョンブランドを持っていない企業はないほど、その数が増えているのが実態です。

なぜディフュージョンブームなのか。ディフュージョンブランドで各企業は何をしようとしているのか。今回はその概要をお伝えします。

■ 「ディフュージョン」とは何か

そもそも「ディフュージョン」とは、「拡散」を意味する言葉です。

それが「普及・流布・伝播」のような意味合いを持っていて、それが、「より幅広い客層に向けた普及ブランド」という意味でファッションの世界で使われるようになりました。

ブランドの価値観、考え方、デザイナーの思いを、より広く浸透させるための方法として、デザイナーの考え方を取り入れた別の商品を作り、本来のブランドの持つ世界観をより多くの人に知ってもらうというのがディフュージョンの考え方の根本です。

2008年ごろから消費マインドが冷え込み、いわゆるスーパーブランドの売上が厳しくなり始めました。この頃より、各ブランドでディフュージョンラインが続々と作られるようになってきました。

ファッションの世界では、もともとコレクションで紹介されるような主力ブランドを「ファーストライン」、「シグネチャーライン」、「コレクションライン」などと呼びます。いわゆるランウェー(モデル達が歩くステージ)で紹介され、テレビなどで取り上げられるトップの商品です。

それに対して「セカンドライン」と呼ばれる商品があります。ファーストラインよりは価格の安い、二番手ラインの事です。実は以前より、コレクションで紹介されるファーストラインは店頭にでることはあまりなく、ショーでは世界観を伝え、それに基づいて我々のような一般人が買えるような商品を各社が作り、世界の店舗で販売するというパターンが一般的でした。これをさらに大衆化させ、買いやすい手ごろなラインに変えたブランドがセカンドラインです。

例えば、「ジョルジオ・アルマーニ(伊)」で言えば、アルマーニ黒ラベルがあり、白ラベルが続き、コレッツィオーニ、エンポリオアルマーニ、アルマーニエクスチェンジ、アルマーニジーンズとその輪を広げていきました。

つまり、セカンドラインという位置づけは消費マインドが冷え込む以前より、世界中のブランドで展開されていたわけです。「明らかにファーストラインとは一線を画すブランド」という位置づけがセカンドラインにはありました。

しかし、消費者はもっとシビアに商品を見るようになりました。単に安いのではなく、きちんとしたブランドイメージ、品質を求めるようになってきたのです。

そこで、セカンドラインという位置づけではなくて、もともとのそのブランドが展開したいイメージをしっかりと受け継いだ「本物」を、もっと手軽に、身近なものとして購入したいという欲求が消費者のなかで強まってきました。

同時に各ブランドが作るファーストラインも思うようなスピードで売れる時代ではなくなってきました。コレクションで発表すれば商品が飛ぶように売れる時代ではない。それはすべてのブランド展開企業が感じている事実でしょう。

そこで、消費者の本物志向と企業側のビジネス志向とが合致した結果、生まれたのが「ディフュージョンライン」なのです。

「1.5ファーストライン」、「裏シグネチャーライン」というのがディフュージョンの位置づけであり、「二番手」がセカンドラインというのが正確な認識です。

つまり、セカンドラインとディフュージョンラインとは、そもそもの成り立ちが異なるわけですが、消費者の目線から見ると両者とも一緒に見えてしまうのが現実です。そこで本稿では、両者をあえて区別せず、両者をまとめて「ディフュージョンライン」と呼ぶことにしたいと思います。

■ 超高級ブランドも続々投入! ディフュージョンラインが盛り上がってきている理由

では、なぜディフュージョンラインがここにきて盛り上がっているのでしょうか。

まずはファッションブランドにおける、ここ数年に市場に投入されたディフュージョンラインの例をご覧ください。

ファッションに関心が薄い方にとっては、これらのブランドはどのようなものか分からないかもしれません。いずれもファッション業界では著名なブランドの数々です。これらがここ数年で次々とディフュージョンラインを開発しているのです。

これらのブランドのほとんどには、ある共通項があります。それは、市場である程度の人気を確立したブランドがブランドイメージを大切にしながらも、顧客層を広げることを目的にディフュージョンラインをスタートさせているということです。

一般的に言って、ディフュージョンラインはデザインのディテール、生地そのものの質、手をどこまでかけるかといった点でファーストラインほどの品質は持っていないものです。デザイナーのセンスを活かしつつ、生産工程を合理化することによって、「量の販売」を目指すというビジネス重視型のラインと言えます。ファーストラインに多い、いわゆる「1点物」ではなく、売れ筋を狙った「大量販売」に近い商品開発にも力を入れています。

比較的買いやすい価格帯を設定して、若い年齢層でも手が出しやすくしているのは、次の顧客予備軍を育て、囲い込む意味が大きいのです。 ですからメジャーなブランドがディフュージョンラインを次々と開発していきます。

しかしその一方で、ディフュージョンラインによって新しいブランドづくりの切り口を世の中に提案しているブランドもあります。それは、まだあまりメジャーではないブランドでも、積極的にディフュージョンラインを活用することによって認知度を上げるという方法です。

2009年2月にディフュージョンラインの「Under.Ligne(アンダー・リーニュ)」をスタートさせたのは、2003年にニューヨークコレクションに初参加した「ドゥーリー」(Doo.Ri)というブランドです。

デザイナーのドゥーリー・チャンが自身のブランドを作ったのは2001年。手仕事志向のデザイナーとしていまもっとも注目されている1人です。「ドゥーリー」はファッション業界人にはとてもよく知られたブランドです。評価も高いのですが、一般的に知名度が高いわけではありません。知る人ぞ知る新鋭ブランドがディフュージョンラインを出すのは、早い段階から認知度を高めるための戦略と言えます。認知度のスピードを上げるためにデュフュージョンラインを活用するという新しいアプローチの例です。

「ドゥーリー」は丁寧な手仕事志向のブランドだけに、コレクションラインは量産しにくいのが実態です。したがって、早期に売上を上げにくいということが想定されます。しかし、ディフュージョンラインであれば、消費マインドが冷え込んでいる時期でも、まだ購買意欲を引き出しやすくなります。

確かにこの数年、ファッション業界においては、一気に価格ダウン傾向が続き、従来の戦略が通用しない状況になっています。そこで以上で紹介したように各社は必死になって、ディフュージョンを切り口に新たな顧客開発とブランド育成に取り組んでいるのです。

こうしたデュフュージョン戦略は、ファッション業界だけでなく、他の業界においても必要な戦略になってきたのではないかと私は感じています。ディフュージョンラインとは、企業がマーケティング活動をしていく上での重要な戦略視点と言えるのです。では、なぜそう言えるのでしょうか。

■ 異業種同士のコラボにも期待! ディフュージョンライン開発の狙いと今後

各企業がディフュージョンラインを展開する理由は次の3つに集約されます。

1. 収益の確保
2. 新規顧客開拓
3. 販売チャネル開拓

ディフュージョンラインの展開をすると販売価格は下がるものの、原価率もファーストラインよりは抑えることができるため、ファーストラインのブランドイメージを活かしながら、収益性を高めることが可能です。その点で、一点モノを高価格で販売するやり方ではなく、値ごろなものを数多く販売することができるようになります。

また、そのブランドのファンでありその商品に興味はあっても、価格の問題で手がだせないでいる消費者は意外に多いものです。特に団塊ジュニア世代(1971~76年生まれ)以降は三浦展氏によって「シンプル族」などとも呼ばれ、堅実・マイペースな消費であり、自分の価値観に見合ったものしか買わないという特性があります。

しかし、本当は彼らもブランドの価値観や哲学などには興味を持っています。このような「ブランド予備軍」に対して商品を通じてアピールすることができ、企業側にとっては新規顧客を育成し、ファーストラインにつなげる導線を作ることができるのです。

併せて、企業側の視点で言えば、今までは都内の一流百貨店に拠点を構えて、「格」を守って商売をしていればよかったものが、これからはそうも言っていられません。しかしファーストラインでは、有象無象に出店してしまうと支持顧客が逃げてしまうことも考えられます。ですから新規の出店、地方への出店、大衆への露出を可能にするのはディフュージョンラインしかないのです。

このようなメリットを見込んで、今あるブランドの裾野を広げていく戦略は、おそらく2011年以降、カバン、靴、時計などの服飾雑貨から始まり、車、住宅、家電、IT機器、食品などへと広がりを見せていくことでしょう。

ディフュージョン戦略とともに増加すると私が思っているのが「コラボレーション」です。特に異業種とのコラボはますます増加します。理由は単独での顧客開発に限界があるために、お互いのいいところを活かしながら、一緒に顧客開発しようという動きが活発になっています。

H&M×コム・デ・ギャルソン、ユニクロ×ジル・サンダーなどファッションブランド同士のコラボが増えています。また最近では、BOSE(スピーカー)×CA4LA(帽子)、大和ハウス(住宅)×ベネッセ(教育)、アンテプリマ(ファッション)×ドコモなどのように異業種同士のコラボがでてきていることに私は注目しています。いずれも現状を打開するための新しい取り組み事例です。

ファッション業界は厳しい時代を迎えてはいますが、それらの持つブランドロイヤルティに憧れを抱く人はまだまだ多く、それを有効活用したいという企業は多いものです。コラボによって、まったく異なる市場の消費者を自社顧客にすることが可能となります。これも閉塞感が漂う時代に企業が取り組む価値のある戦略です。

企業にとって一番の悪は、「今までのやり方に安住すること、今までのブランド力に頼って商売をすること」です。消費者は常に変わることが原則です。しかし、単に消費者に迎合するような戦略では購買に結びつく可能性は低くなります。

自社の哲学をしっかりと訴求しつつ、同時に消費者目線でモノづくりを行うことができるかどうか。ディフュージョンラインへの取り組みは、企業に新しい視点を与えてくれる企業戦略なのです。2011年中に、さらに斬新な展開が生まれてくることを期待しています。