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なぜアップル信者が増え続けているのか

■ 製品力 < マーケティング力。アップル製品がヒットする秘密

「ジーンズの前ポケットのさらに内側にあるこの小さなポケット…。いったいこのポケットは何のためにあるのかボクにはわからなかったんだが…このポケットはコレをいれるためにあったんだね!!」

アップルのスティーブ・ジョブズCEOがこう言いながら、“iPod nano”をその小さなポケットからおもむろに取り出して披露した瞬間、会場から割れんばかりの拍手が起こったのを覚えている方も多いのではないでしょうか。

iMac、iPod、iPhone、iPad…と立て続けにヒット商品を世に送り出してきたアップルのマーケティングは、トップであるスティーブ・ジョブズ自らが壇上に立って行なうプレゼンテーションから始まっています。

アップルがマーケティングに大きな力を注いでいるのは、そのスケジュールが告知された時点でマスコミ各社が楽しみにしているというこの「トッププレゼン」だけに限りません。細部に至るまで管理されている「ブランディング」からもうかがい知ることができます。

ブランドロゴはもちろん、CMやアップルストアによるイメージ訴求、ひと目でアップル製品だと認識できるような視覚に訴えるデザインや色づかい、利用者の聴覚までをも意識していると思わせる操作音、製品を梱包する箱に至るまで、あらゆるものに対するこだわりを感じます。現在は、名だたるIT系企業が導入している“エバンジェリスト”(自社製品の啓発活動を行う職種)も、その先駆けはアップルだという話もあります。

製品の機能面がヒットの要因のように考えてしまいがちですが、ベンチマークすべきポイントとして忘れてはならないのは、このように徹底的なマーケティング力によってその(もともと高い)製品価値を、より最大化させている手法でしょう。

少し古い話になりますが、かつてペプシコーラが最初の躍進を遂げた1970年代も、マーケティングの強化がその原動力でした。記憶されている方も多いかも知れませんが、「ペプシチャレンジ」という大キャンペーンを仕掛け、CMによる比較広告等(日本ではうけが悪かったようですが)の効果もあり、コカ・コーラの牙城を切り崩していきました。

日本においても1990年代後半、ブランドカラーをコカ・コーラに対抗して青に変更するとともに、ペプシマンというイメージキャラクターとともに、ボトルキャップなどのおまけブームを仕掛けて、マーケティングの力を再認識させられました。

ちなみに余談ですが、かつてスティーブ・ジョブズがアップルにヘッドハンティングしたジョン・スカリーは、ペプシチャレンジを仕掛けた張本人でありました。ジョブズがいかにマーケティングを重要視していたのかがわかる1件だったと言えるのではないでしょうか。

ライオンのハンドソープ「キレイキレイ」も、マーケティング力でブランドを築き上げた好事例です。この「キレイキレイ」が登場する以前のハンドソープ市場は、「薬用石鹸ミューズ」の独壇場ともいえる状況でした。

そのような市場に製品を投入するにあたって、小さいこどもに「お手てキレイキレイしましょうね」と話しかけるお母さんをメインターゲットに、イメージキャラクター投入とそれに対応したマーケティング施策(歌や絵本等のコミュニケーションツール)とともに幼稚園・保育園等でのデモンストレーションを仕掛け、わずか数年でトップシェアを獲得するに至りました。

■ 顕在化したニーズではなく、潜在化している“ウォンツ”を狙う

これらいくつかの事例からも、マーケティング力の重要性は十分認識いただけると思いますが、ことアップルに関してはさらに考察すべきポイントがあります。それは、これまで世の中になかったものを生み出す力です。

アップルは、もともとMacと名づけられたパソコンから歴史が始まっていますが、まだIBMがコンピューター市場を席巻していた当時、「必ずオフィスのデスクに1人1台ずつパソコンが設置される時代がくる」と公言して社員を激励していたのがジョブズです。思い起こせば、Windows95が発売された頃でさえ、一般的な企業ではようやく各部署に1台のパソコン、といった状況でしたから、当時は完全にマイクロソフトに覇権を握られていたとはいえ、その先見性は見事というほかありません。しかし、これを先見性という一言で片付けてしまうようでは、その先はありません。

「顧客ニーズを把握することが不可欠です」という話はよく耳にしますが、顧客ニーズを把握した上でできることとは何があるでしょうか?

「大きいから、もっと小さくして欲しい」
「重たいから、軽くして欲しい」
「遅いからもっと早くして欲しい」

こういった声がいわゆる顧客ニーズであり、すでに顕在化しているものです。顧客の不満、不便、不信、不利、等々、いわゆる“不”を解消することが大切です、といった話もあり、もちろん企業の活動として重要であることは否定しませんが、これらの活動が出来ているからといって顧客の満足や感動を得られるわけではありません。「やっと対応してくれた」という、いわば当たり前のレベルができるようになったに過ぎないのです。

かつて、森永製菓より「ウイダーinゼリー」という商品が発売されました。当初はアスリート向けに、缶飲料として発売されたのですが結果は全く売れなかったようです。その後、10秒でとれる朝ごはんをキャッチコピーに、SMAPの木村拓哉をCMに起用し、新しい市場を生み出すことに成功しました。

このように、企業サイドの声としては「こんなモノがあったら嬉しいでしょう」、顧客サイドの声としては「そうそう、こんなモノが欲しかったんだよ」、に代表されるような潜在化していて事前に把握することが難しいものが“顧客ウォンツ”です。

クラフトというチーズの企業も、特に顧客からの“不”の声が出ていた訳ではなかったようですが、かつて売上の低迷(といっても横ばいですが)に悩んでいた時期がありました。

何とか打開策をと徹底的に顧客とのコミュニケーションを図ったところ、自社商品であるチーズが実際に使われるときは、その用途に合わせて様々な加工をされていることに気づいたと言うのです。決して不満を訴えているのではなく、料理するのに加工は当たり前だという感覚です。

しかし、クラフトは一大決心をします。スライスチーズや味付チーズなどあらかじめ加工を施してある商品を順次投入していったのです。すると、思いのほか大きな支持を得ることができ、あらたな成長ステージを作ることに成功したといいます。

少しはヒントになったでしょうか。そうです、決して顧客ニーズを探るということではなく、顧客と同じように商品を使ってみることです。その上で、自分に問いかけをするのです。

「もっと面白い使い方があるんじゃないだろうか?」
「この商品が要らなくなるときって、代わりにどんなモノが出てきたときだろうか?」

自分自身の中に潜在化しているウォンツの種を、引っ張り出す努力をし続けることが必要不可欠な行動であるにも関わらず、多くの開発者あるいは企画者が諦めてしまっているのか、通常業務に追われて時間がとれないのかはさておき、苦しんでいるところではないでしょうか。

ウォンツとは、決して他人の中に潜在化しているモノをあぶり出すといった、最も困難なことにチャレンジするような苦しいことではありません。自分自身の中に眠っているものと語り合う極めて楽しいことだという理解の下、追求し続けていくべきものだと思います。

■ ベンチャー精神を忘れないアップルの戦略

アップルは、ハード、OS、アプリケーション、リテールとその役割を自社だけで完結している米国では非常に珍しい企業です。このような特徴をもつ企業は、多くの日本企業と同様、市場の成熟度合いが進めば進むほどコスト競争力に問題が生じてくるといった特性も持っており、そういう意味では磐石だとは言えないかも知れません。

一方で、スティーブ・ジョブズというカリスマ経営者(自分との対話を継続しながら、ウォンツにまで昇華することのできる類稀な存在)を擁しており、超大手企業でありながらもベンチャーの戦略で戦うことを可能にしている面白い企業です。

サッカー日本代表が強者の戦略と弱者の戦略の使い分けで、バランスを取れずに苦しんでいるように見えます(詳しくはコチラ)が、アップルにはこの絶妙なバランスを保ちながら、まだまだあっと驚く製品を世に出してもらいたいですね。