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消費者熱狂! 本当にあった日本一お客思いのスーパー

(株式会社BFCコンサルティング 代表取締役社長 三宅 信一郎)

「顧客満足を向上させる」とよく言われますが、それを実践し、業績に繋げることは容易なことではありません。特に、一般消費者に日々相対している小売業では、毎日が挑戦となることでしょう。

これからご紹介する事例は、「信頼感」「正直」というキーワードを元に、成長を続けている「オーケーストア」というスーパーの事例です。

■消費者熱狂! 日本一お客思いのスーパー「オーケー

実在の企業ではないが、故伊丹十三監督の「スーパーの女」という映画にあるスーパーが出てくる。スーパーの名前は「正直屋」。宮本信子演じる主人公が、あるとき近隣にオープンした安売り日本一を歌い文句にする「安売り大魔王」という後発のスーパーに客を取られてしまう時の奮戦記である。

そこに対抗するために、津川雅彦扮する幼馴染みの経営者を支えながら、お店の改革に着手し、やがて遠のいていったお客を見事取り戻すというストーリーが描かれていた。

この架空の「正直屋」が、実際にあったのだ。そのスーパーの名前は、「オーケーストア」。首都圏を中心に56店舗を展開し、イオンやイトーヨーカ堂などの大手が赤字の中、10年連続増収増益の優良スーパーである。

テレビの放映で観た筆者は、早速、新用賀店に出向いてみた。一見何の変哲もない普通のスーパーのように見えるが、店内は違っていた。以前よく米国出張の際訪れていた、売上高40兆円、全世界で8,000店舗を展開する世界最大の小売ウォルマートの店内とそっくりだったのだ。

陳列棚の上にも段ボールのままでうず高く積まれた商品の山。販売フロアーのスペースも在庫のために有効利用している。また、至る所に経営方針である「高品質・Everyday Low Price」の張り紙が貼ってある。「Always Low Prices」を標語とするウォルマートとこれらのやり方は酷似している。

特徴1:「安さ」。
このスーパーでは、どの商品も5~6割引は当たり前で、商品によっては8割引というものもある。確かに安い。スーパードライ350ml缶などは何と167円だ。

特徴2:「特売をしない」。
ウォルマートもそうだが、毎日が特売だそうである。特売をしないから、それを告知するチラシというものが無い。代わりに、「オーケー商品情報」と呼ばれる価格表と入荷情報が書かれた紙が店内に置いてあるだけだ。

特徴3:「品揃えが豊富」。
例えば、お味噌だけでも50種類あったり、専門店にしか置いていないようなソースなどもある。激安店にも関わらず、品揃えが豊富なのである。

特徴4:「正直な情報提供」。
オネスト(正直)カードと呼ばれるカードを店内に貼って、そこに普通なら隠すような情報をお客に提供する。たとえば、「このりんごは、触感・歯ごたえが良くないのでお勧めできません」とか、「このいちごは、最盛期に比べると甘味が薄く美味しくありません」とか、「メーカーの原材料高騰のため、XX月ZZ日から値上がります。値上げ前に購入ください」といった情報だ。

特徴5:「細かい気配り」。
食肉フロアーに行くと、目につくのが、トレーの無い、ビニール袋だけで包まれたお肉。冷蔵庫の中でかさばらないし、ごみも出ないとお客に好評だ。また、古い商品には、一目で判るように3%割引シールが貼ってあるので、お客はいちいち、商品の賞味期限を見る手間が省ける。

■お客の心を掴んで離さないその仕組みを読み解く!

社長の飯田氏の父親は、酒問屋を経営していた。その父親から学んだ理念は「至誠 天に通ず」というもので、自分や人に欺かず、客に誠意を持って接していれば、結果は自ずとついてくるという教えであった。

飯田社長の兄弟の中には、兄は居酒屋「天狗」の経営者、弟に、あの日本最大の警備会社セコムの経営者がいる。皆、この理念を父親から叩き込まれて育ったという。

オーケーストアの経営の原点は、突き詰めていくとこの理念にあり、そこから分かりやすい標語として降りてきたのが、「高品質・Everyday Low Price」ということになる。

お金儲けの前に、まず「どうすればお客の支持・信頼を得ることができるか?」であり、そのために飯田社長が考えたのは、「品質がいいものを安い価格で提供すること」を最低ラインとし、実行に移した。

品質については、野菜などどうしても長雨などで、低品質でかつ高価格となることもあり、悩んだ末に考えたのが、オネスト(正直)カードを用いて、正直に情報を提供する方法だった。

そういえば昔、町の八百屋さんでは、母に「長雨のためこの長ネギは悪いよ。もうじきいいのが入るから、すき焼きそれからにしたら」といった類の会話がよくなされていた。オネスト(正直)カードは、昔の、お客とお店の良き信頼関係を生みだす秘訣なのである。

圧倒的な低価格を生みだす仕掛けは、価格競争力の強い売れ筋商品を原則的には仕入れずに、2番手の製品を大量に仕入れるというものだ。

牛乳なら「明治」ではなく「森永」を、パスタなら「ママー」ではなく、「オーマイ」を、醤油なら「キッコーマン」ではなく「ヤマサ」をといった具合である。

コトラーの競争地位別戦略理論では、2番手のチャレンジャーは、1番手のリーダーに対抗しようとして、市場占有率拡大、1番手奪回を狙って、リーダーと差別化をするために思い切った低価格を出してくることがあるとする。オーケーはこれをうまく活用して、仕入値を圧倒的に下げさせている。

チラシを打たないために、膨大な広告宣伝費が削減されたことも低価格に大きな効果を与えている。

また、特売をしないことで、売れ行きの波がなくなり、正確な予測が可能となり、自動発注システムによって在庫が大幅に削減でき、コスト負担が少なくなった。以前は、店単位で発注をかけており、常時2~3週間分の在庫を保有していた。

オーケーでは、人件費、広告・宣伝費、物流費、家賃などの全ての経費を売上高で割った数字、すなわち総経費率にこだわっている。ウォルマートやカルフールが大きく成長したのは、この総経費率が15%を切ったころからだという。イオンやイトーヨーカ堂は、それぞれ21.1%と24.7%であるのに対して、オーケーは何と14.5%と手本にしているウォルマートを下回っている。オーケーの収益構造は、日本の大手小売とは全く違い、限りなく世界の大手小売のそれに近いのだ。

さらに、信頼を保つ仕組みも存在する。オーケーでは、「お客様に得をして頂く」という発想ではなく、「お客様に損をさせない」という点に重きを置く。というのも、「得する」というのは、そもそも何に比べて得か比較しがたく曖昧であるのに対して、「損しない」というと、他店より高くなければ絶対損することはないと考える。常に損はしないということを続けることによって、熱烈な信頼感を生みだす。

そのために、常に競合店の価格を調査する専門子会社をもっており、スーパーでは珍しい地域最安値保証を行っている。

また、なぜ特売をしないかというと、お客様との信頼感を維持するためである。特売をやるとなると、「来週の月曜日から値段が下がるので、今は買わないで」と説明しなければ、お客様に損をさせることになり、正直ではないし、その間商品は売れなくなってしまう。

また、ご意見カードに、お客様に自由に意見を書いてもらって、それを飯田社長は毎翌朝全てに自ら目を通し、必ず数日以内に担当者からお客に結果を連絡している。
映画「スーパーの女」の正直屋のビジネスモデルから学べる3つのことを、オーケーストアのケースと重ねてみると以下のようになる。

【1. 顧客志向・現場主義】
「お客様には絶対に損をさせない」という徹底した顧客志向とオネスト(正直)カードやご意見カードによる現場における情報提供・収集の実践。

【2. 情熱をもったリーダーの存在(主人公)と明確なビジョン(こうあるべきという誰もが理解しやすい方向性)】
飯田社長というカリスマ性をもった強力なリーダーの存在と、「至誠 天に通ず」という崇高な理念を背景としたわかりやすい経営理念である「高品質・Everyday Low Price」とスローガンである「お客様に損はさせない」の存在。

【3. 既存の業務プロセスの見直しと改革(改善ではない)】
総経費率の徹底した見直しとそれに適合する業務プロセスの確立。

■顧客と向き合う覚悟を決める!

よく顧客志向とかいいますが、真に顧客志向を貫くには、ここまで覚悟して真剣に取り組まないといけないのかと驚かされたのが、このオーケーストアの事例です。漠然と「顧客志向でいく」とか、「顧客満足を向上させる」ということではなく、具体的にお客に何をどのように満足して頂くのかを突き詰めるということが大事なことだと思います。
(この記事は2009年9月7日に初掲載されたものです。)