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新規事業開発のステップ[マーケティング戦略・営業戦略]

私どもがお手伝いさせていただくケースで最も多いのは既存のビジネスの売上向上や収益向上といったテーマになります。現在もこの傾向に大きく変わりはないのですが、ここ数年IPO(株式公開)を見据えた新会社の立ち上げ、そして新規事業開発といったチャレンジングなケースをお手伝いさせていただくことが増えてきました。ここで“チャレンジング”と表現しているのは、失敗したときのリスクが大きく、成功に導くためには非常に緻密なシナリオとそのシナリオの実行に際して細心の注意が必要となるためです。

今回は起業、新規事業開発に際してよく見落とされがちな、しかしリスクを最小限に抑え、成功の可能性を最大限に高めるためには大変重要なポイントについて整理してみたいと思います。“起業”と“新規事業開発”では「使えるリソースの質・量」のように大きく異なる部分もありますが、可能な限り両者で同じような状況がイメージできるように話を進めていきたいと思います。

では一般的な起業や新規事業開発のステップについてみてみましょう。

まずは「何をやるか」から検討を始めます。
起業するとすれば自分の前職の経験から、得意なこと、やれることをやろうとするか、あるいは経験はないけれどもやりたいと思うことを始めようとするでしょうし、新規事業開発であれば自社が既に保有している技術、販売流通網、人的リソースなどが応用できるものを始めようとするでしょう。「自社の○○を活かして・・・」というパターンです。このステップではすでに「コレをやる」というものがあり、詳細に検討する必要はない場合が多いかもしれません。

そして次に「誰をターゲットとするか」を決めようとします。
しかしその前に最初の重要なポイントがあります。そのポイントとは「何をやるか」という事業ドメインについて【階層性】といった視点から再度見つめなおすということです。

【階層性】の視点というのは、今やろうとしていることのより上位に位置するドメインは何か、そのドメインには現状でも対応できるか、対応できないとすれば対応するためには何が必要かといった視点のことです。起業した後、もしくは新規事業を展開した後に、その時点では視野に入れていなかった上位のドメインでの事業展開可能性が高まってきたものの、リソースに余裕がない、または既にスタートしている事業そのものが足かせとなっているためにさらなる事業開発が行えず、他社にまんまとおいしいところをもっていかれることは比較的よくあることだと思います。

技術革新の時系列的な問題もありますがその点を無視してもよいとすれば、例えば「レコード針の製造」の上位のドメインは「レコードを再生する」ですし、さらに上位のドメインは「記録された音楽を再生する」、そのまたさらに上位のドメインは「音楽を聞く」となります。また、缶切りを考えると「缶のふたを切り開ける」が下位ドメイン、「缶の中身を取り出す」が上位ドメインとなります。

このような場合は可能な限りより上位のドメインを対象として事業を展開すべきだということは、CDの普及に伴うレコード針製造の衰退、音楽配信の普及に伴うCD販売の落ち込み、取っ手のついた缶のふたの普及に伴う缶切りの製造の衰退などを思い出していただければ容易にお分かりいただけると思います。

VTRの特許収入を得ている日本ビクターに対してDVDレコーダーで勝負を挑んだパイオニア、アサヒ、キリンなどのビールメーカーに発泡酒で勝負を挑んだサントリーなども若干ニュアンスは異なりますが、より上位のドメインで事業展開を行った事例と考えてもよいでしょう。

【階層性】の視点から検討を加えることで、不足しているリソースなどの補充方法を考えるという新たなタスクが発生しますが、一方では「誰をターゲットとするか」を考える際の選択肢が大幅に広がるので、よりうまくいく可能性が高いターゲットの選択が可能になると考えられます。

また可能であれば、この段階でさらに【革新性】の視点からも詳細な検討を行っておくと、より精度の高い起業や新規事業の展開シナリオを作成することが可能になります。

【革新性】の視点というのは、今やろうとしていることがどれくらいの期間で陳腐化してしまうのか、あるいは非連続的に革新してしまうのかといった視点のことです。この視点を正確に持つことは容易ではありませんが、この検討を怠ると単に失敗するだけでなく、将来にわたって負債を抱えることにもなりかねないので注意が必要です。

この視点についての失敗は電機メーカーのS社にも見ることができます。
1967年に開発に成功した技術に立脚し、平面ブラウン管テレビという事業を始めたS社は1995年には家庭用カラーテレビで世界のトップシェアを獲得しました。S社は「2006年になってもブラウン管テレビが世の中の主流であり続けるだろう」「後継技術は有機ELやFEDだろう」と考えて、液晶とPDPに関しては自社開発を行わず他メーカーからの調達に頼っていました。
その結果、現在の主流となりつつある液晶やPDPを自社開発してきた他メーカーに大きく遅れをとってしまい、2003年9月の中間決算ではテレビ事業は27億円の営業赤字になっています。

これは検討を加えなかったのではなく、検討した結果が正しくなかったという意味で【革新性】という視点の重要性とともに、この視点を正確に持つことの難しさを物語る事例だといえます。

リスクを最小限に抑え、成功の可能性を高めるためには、ここまで考えて初めて「何をやるか」が決まり、引き続いて「誰をターゲットとするか」に考えが移せるのではないかと思います。「こんなのは理想論だ」とか「限られた時間の中でここまでやるのは現実的ではない」「この時代にそこまで時間をかけていられない」「実際に走らせながら考えた方が効率的だし、よいアイデアも生まれやすい」といったご意見をお持ちの方もいらっしゃるとは思いますが、私どもの経験では例え不十分だとしてもこのポイントを外すかどうかで大きく結果が異なってきます。

これ以降のステップでも重要なポイントがいくつかありますが、それらのポイントについては次回改めてお伝えしたいと思います。
(この記事は2008年3月26日に初掲載されたものです。)