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短期的視点と長期的視点

先日、契約している携帯電話のサービスセンターから電話がかかってきました。内容は、現在契約中のプラン変更の案内で、別プランにすると月額の支払額が少なくとも三千円以上安くなるというものでした。

わざわざ自社の収益が減るような提案をしてくるなんて随分変わった会社だと思いますが、この場合は、将来の収益確保のために現在契約中の顧客をつなぎとめる策を講じていると理解すべきでしょう。

「短期的視点」で現状の収益を維持しようという考えであれば、顧客が支払う料金を能動的に減らす必要は全くないのですが、価格競争による顧客争奪戦の真っ只中にある携帯電話業界において、このような判断は正しくありません。

高い料金を支払っている顧客を放置すれば、それだけ他社に顧客が流出するリスクが高くなり、将来的には事業全体の収益を圧迫することになるからです。

「短期的視点」で目先の利益を意識することも重要ですが、「中長期的視点」に基づく打ち手も視野に入れることが不可欠です。
三菱電機は携帯電話端末事業、東芝は HD DVD 事業、日立はパソコン生産事業から撤退しましたが、これらは短期的損失も加味したうえでの中長期的視点によるダイナミックな決断といえるでしょう。

話は変わりますが、M & A 実施後の評価についても「短期的視点」だけではなく「中長期的視点」が必要になります。

コンサルティング会社を含めた国内外の様々な調査会社が M & A の成功率について公表していますが、その結果は20%~60%と大きなバラツキがあります。

調査結果のバラツキは、調査対象とする母集団のとり方や評価方法の違いによるものなので仕方ありませんが、M & A の成功率の試算で決定的に間違っているのは、M & A を実施して1~2年という短い期間で評価を行ってしまうケースです。

業種にもよりますが M & A 実施直後は組織が大きければ大きいほど、一時的な人材流出・顧客離反、企業文化の相違による統率力の低下、新体制への懸念・不安による社員のモチベーション低下、シナジー発揮までのリードタイムの長期化などの影響を強く受けて生産性が下がる傾向があります。

したがって、当初から短期的成果を狙っているケースは別として、実際は5年、10年といった期間で成果を評価することが必要になってくるでしょう。
組織は力学的に「短期的視点」で動く傾向があるため、それだけに留まらず、「中長期視点」のアクションとして必要なことを抽出して、即時に実行する機能の有無を常にチェックする必要があります。

本田宗一郎氏とともに本田技研工業を育て上げた藤沢武夫氏も、「一歩先を照らし、二歩先を語り、三歩先を見つめる」という言葉を残しています。

これは「短期的視点」と「中長期的視点」のバランスがとれた戦略になっているかを意識しながら経営判断を行うべきというメッセージだと思います。

濱野 雄介
船井総合研究所 プロジェクトマネージャー