■モノが溢れる時代のオシャレ感は“モノ”ではなく“着こなし”
「使えるモノが少ない時代」「楽しいコトが少ない時代」「情報が少ない時代」には“まあまあのレベル”で市場に商品を提供さえすればソコソコ売り上げは立つ。そもそも買い手は購買経験が乏しく知識も少ないのだから、市場に商品を提供する売り手は圧倒的に有利な立場にある。高度経済成長の時代の日本は多くの業界でそういう状態であった。
アパレル業界でもブームを創りだし勢いに乗ったブランドは容易に成長を実現できた。そしてその成長モデルはかなり容易に学習でき多くの企業が模倣することができたし、模倣ブランドもソコソコ売れた。しかし類似したブランドが多く市場に出回り、それらが容易に入手できるようになる中で顧客も賢くなっていった。見渡せばすでに情報も数多く出回り、トンチンカンな服装で出歩いている人も少なくなった。
それらは中学校や高校の制服が詰襟、セーラー服のお決まりパターンからブランドプロデュースの制服に主流が切り替わっていく中、その制服レベルが最低限のファッションレベルになっていき制服ファッション=普段着ファッションが高度化し、おめかしファッション=非日常ファッションの同質化、陳腐化が顕著になっていった時代とリンクスするように感じる。
今や高度なオシャレテクニックは“オシャレな服を着る”から“オシャレに着こなす”という風に生活者の意識も大きく変化し、着こなしコーデ術がファッション誌の主要なテーマとなっている。70年代、80年代のような「ああいう服を着てみたい」から90年代、2000年代には「あの人みたいに素敵に着こなしたい」に大きく買い手の意識が完全に変わっていった。
結果、2010年代以降は“服そのもの”への興味は減少しファストファッションをそれなりに着こなす、手持ちの服を上手に着まわすという感覚が増加した。可処分所得が減少する時代が到来したこともあり、それは必然の意識・行動パターンでもあったと思う。現代の目いっぱいのオシャレ意識は昔のデートファッションやパーティのファッションに着る服ではなくコスプレや日本型“カワイイ”ファッションに蛸壺化してしまった感もあるというのが実態だ。このような変化がある以上、モノだけを考え商品を企画しても買い手には響かない。
自分たちがいわゆるコスプレ感覚で商品を企画しているのでないならば、自分たちのブランドらしさを出しながら、自社商品のみならず他社商品とも相性抜群の商品づくりが必要なことは間違いないだろう。その上でファッション企業らしく興味が乏しい買い手を振り向かせる“ブランドのコア”を持つことがとても重要な時代なのだ。今こそ芯や軸のしっかりしたブランドの戦略が勝負を決める時代だと言って良いだろう。