■日本の総合型アパレル企業の優柔不断と誤断の深層
日本のアパレル産業、特に総合アパレル業に属する企業の不振が顕著である。総合アパレル業は婦人、紳士、子供などのジャンルで複数のテイストのブランドのポートフォリオを組んで展開している企業である。これらの企業はトレンドがカジュアルVSエレガンス、コンテンポラリーVSオーセンティックのようにある基準軸を大きく左右するトレンドの大きな波の中で企業としての経営リスクを低減させるために、様々なブランドを打ち立て“アッチが縮んでもコッチで伸ばす”というように企業トータルで安定的な経営を実現しながら企業を成長させようという手法を採用してきたのである。
トレンドは変化していっても市場全体が成長している場合には専業アパレルメーカーとして何か一点で勝負して人気を勝ち取った状態から企業規模が拡大した場合は、一発屋メーカーで終わらないためにもこのような手法を採用して、今後の急成長は適わくとも平均点レベルの成長を目指すという、いわゆる“大企業化”に成功した企業の成功モデルの代表格の手法である。
ところが市場が右肩上がりで成長を遂げていた時代が昨今のように右肩下がり、特にゆるゆると下がるのではなく、結構スピードの速い下りエスカレーターに変化した中、不振ブランドが多数で成功ブランドが少数というような状態が状態してしまった。このような競争時代に勝ち残り、新たな成長を遂げるには二つの手法が考えられる。
一つは総花的に色々なブランドを広く浅く展開するのではなく「自分たちらしさとは何か」「自分たちの得意なモノ・コトは何か」を冷静に見極め、その分野に再度特化し、その分野の中で総合的な深い展開を実現していくことを決断することである。これが本来は定石であろう。米国のリミテッドなどもそういう道を選んだ。二つ目は総合的な多ブランド展開を実施しているなかで資本力にモノを言わせ、尖った成長ブランドを買収し自分たちの薄まった総合的なポートフォリオ展開に強烈な“色”を加えて成長を実現していくという手法を採用することである。
この場合は安定性を求めている中に20%、40%というような高い成長性を持つ特徴のあるブランドを加えることによってマンネリ化する組織を刺激しながら、高い成長性を取り込んでいくということになる。ところが日本の総合アパレル企業においてはトップが強烈なリーダーシップで改革を目指すことは少なく、ブランド長にそれぞれの担当ブランド展開の責任を委譲し小粒なブランドそれぞれを延命的運営を命じてきた。実際には多くの企業でブランド長には責任を委譲はしたものの権限・義務の委譲は行い切れなかった。
ブランドの方向性を定め、モノ作りに特徴をつけていくために組織を自由自在に動かす権限、展開するブランドが成長を実現していく責任、毎期収益を勝ち取っていく義務は不明確なまま“ブランドを運営する責任”だけを責任者に与えたのが実態である。しかしそれも限界である。これからはブランド価値の最大化、ブランドの収益性の適正化を理解しファッション、トレンドを追いかけるブランド長ではなく、数字を押さえファッションビジネスを成功に導くブランド長の育成に取り掛かることが重要なのだ。